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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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 日本一長い時代小説を目指して
ちなみに日ほ本一長い歴史小説と言われているのは、山岡荘八先生の「徳川家康」で、四百字の原稿用紙で17、482枚。
文字数は単純計算すると6、992、800字です。
鐘巻兵庫136話終了時点で約416万文字ですから、今のペース年55万文字で書くと、目標達成は2025年5月頃でしょうか。
そこまで長生きできれば良いのですが。

鐘巻兵庫無頼控え ←連載中
 
湯上り侍無頼控え ←連載終了

駄文創作の徒然 ←たま~に
小説を書くことで体験する事柄を綴ります。 

馬鹿な話 ←たま~に
日々思いついた身近な題材を選び、少の偏見を込め綴ります。

鼻歌 100曲作りました。興味無くても聞いてください。
      珠玉の鼻歌100曲のメドレー

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Posted on 2031/04/30 Wed. 09:34 [edit]

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【鐘巻兵庫 第140話 葛藤(その11)】 

 兵庫が金吾に脱藩した倅・総次郎の行き先を知りながら、知らないと云い、教えなかったのには訳があった。
それは養育所内、神田庵に阿部家家臣・菊池家の娘・松江が居たからだった。
 菊池松江は以前、阿部家から養育所実態を調査に来た者たちの一人で、唯一の女であった。
調査報告が家老になされた後、阿部家家臣・関口家の倅・総次郎が剣術修行のためと脱藩した。
剣術修行なら脱藩せずに願い出ることが手順だが、それもしなかったのには、それしか道がないことを確信して居たからだろう。
 総次郎は阿部伊勢守の小姓組におり、微禄な割には阿部のそば近くに居て主人の行動を見知っていた。その中には語ることのできない微妙な問題も在ったかもしれない。
そうした者が外の者たちと接触することになる剣術修行には願い出ても受け入れられない。
修行を諦めるか、脱藩するかの葛藤の末、総次郎は脱藩を選んだのだろうと兵庫は思っていた。
その関口家は総次郎の脱藩により阿部家から暇を出され、一家は兵庫を頼った。
そして、その関口家を追う様に菊池松江が養育所に花嫁修業の名目でやって来た。
菊池松江は養育所調査のために選ばれた唯一の女性で、妻女であろう。
それが花嫁修業と云うのが兵庫に疑心を抱かせたのだ。
疑心とは何かだが、兵庫は松江の真の目的は脱藩者を探し出せという、阿部伊勢守の命により総次郎探索のために来たのではないかと思っていた。

 兵庫は、何か動きが在るごとに、保安方を通じて総次郎と連絡を取っているのだ。
そして松江が養育所に居る間は養育所に戻るなと云うのが、兵庫が最近出した指示だった。
裁きとは罪を犯した者に対し罰を与えるのが第一で、連座への罰はその次になる。
それなのに脱藩した本人を放置したままで、親に暇を出す罰を科しただけで済むとは思えなかったからだ。
司直に総次郎の捕縛を依頼できない訳では無いが、藩内のことは藩内で治めるのが、藩の威厳を保つために必要なことだった。
だが、脱藩者の行く先を探し出すために、行き先を知って居ると思われる兵庫に問いただすことは大名家と云えども出来ないのだ。
大名家の力が及ぶのは、領国の民に対してのみだったからだ。
手立ては、養育所内に入り総次郎の居場所を探り出すことにし、松江のその任が託されたと兵庫は思って居た。

 金吾に娘・霞と霧の縁談がまとまることを告げた兵庫は神田庵に戻った。
自室に向かう兵庫の耳に松江の笑う声が台所から聞こえて来た。
それは真に嫁入り修行に励む女の声としか思えなかった。
部屋に入ると、志津がつぼみに乳を与えて居る所だった。
「如何でしたか」
「金吾さんも奥さんも喜んでくれました」
「よかったですね」
「はい。ところで、松江殿から今、背負っている諜報の重荷を下ろさせ、嫁入り修行に専念させたいのですが、手は在りませんか」
「松江殿から感じることですが、どうやら嫁入り修行の相手は左近殿のような気がします」
 左近は脱藩した総次郎の兄である。
「むごい役目を引き受けたものだ」
「引き受けたと云うことは、どちらかを裏切る腹積もりかと存じますが」と志津が応じた。
「どちらを裏切ると思う」
「女子(おなご)は政(まつりごと)より己の恋に従うものです。ただ、この時裏切られた阿部家は松江の実家菊池家に対しどの様な沙汰を出すのか私には判りません」
「それは先のこと。先ず松江殿の左近殿への思いを確かめて貰えますか。私は左近殿の方を確かめます。

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Posted on 2020/07/14 Tue. 04:01 [edit]

【鐘巻兵庫 第140話 葛藤(その10)】 

 浜中も反町も妻を持つことは考えて居なかった。
ただ養育所内ではかなり頻繁に縁結びが行われていることは知って居た。
しかし、その多くは町人同士の間で行われていて、浪人が絡むのは稀だったからだ。
「夢では無いのでしょうね」
「つねりましょうか」
「いや、夢でも良い。覚まさせないでくれ」
浜中と反町は冗談を言い合い、兵庫と志津に礼を云うと部屋を出て行った。

 朝食後、兵庫は縁組に進展が在ったことを関口家に告げるため駒形の養育所に入った。
山崎の部屋に関口金吾と妻の軽(かる)が呼ばれた。
 顔を合わせるや否や、金吾が
「どうなった」と云いながら部屋に入って来た。
「まあ、お座りください。お願いも在りますので・・」

「今朝、昇龍院から参りました浜中松之助さんと反町半四郎さんに関口家のからの話を伝えました。懸念は一つ、産まれた時から浪人と、先日まで禄を頂いて居た家とでは不釣り合いなことですが・・・」
「確かに禄は班で居ました。そのために虚の世界でそれなりの体裁を保ちながら暮らしたため、実態は今の養育所の皆様より貧しい暮らしを余儀なくされました。その証は妻子がこちらに参りました時の荷物でお判りでしょう。私等は虚の暮らしをして来たことも有り、この実の世での暮らしが不慣れです。いま娘たちを神田庵にお願いしているのも、実の世で暮らすためで、虚に戻ろうなどとは微塵も考えては居りません。御懸念には及びません」
「懸念に及ばぬことは、言葉は違いますが伝え、それならと此度の話を受けて貰いました。娘御にも引き合わせ双方受け入れたことをお伝えいたします」
「娘も気に入ってくれたのか。これで葛藤の一つが消えたよ」
「まだ御悩みが御座いますか」
「差し迫ったものではないが、過日鐘巻殿より、殿様が隠居後、国(備後)で養育所を開く時に拙者らを迎えて頂けると伺いました。伺った以上は養育所のことを倅と学び始めましたが、殿様はお若く壮健でいらっしゃいます。ご隠居する頃には私は役に立たず、倅・左近に託すことに成りますが、倅も嫁を迎え江戸暮らしから離れられないのではないか、又老いた拙者ら夫婦が居たら・・・と、どのようにしたら良いのか葛藤している次第です」
「確かに、先の話ですね。しかし先のことは判りませんので、養育所のために働いて居て下さい。養育所から居なくては困るように成れば、もし殿様からお話が有れば私の方から断わるか、あるいは送り出すかはその時の事情で決めますから」
「鐘巻殿は知恵者だな。その代わりに養育所に居なくてはならぬほどの者に成らねばならないが・・」
「宜しくお願い致します」
「取り敢えず娘たちが無事片付くことに成りそうなことは有り難い話です」
「そう成ったのも総次郎が脱藩したお陰だと娘たちは喜んで居るでしょうね」
と軽が言った。
「そうだな。鐘巻殿、総次郎は何処に・・・」
「知りません」
「親にも教えて貰えぬのか」
「知りませんので、無理なお尋ねをしないで下さい」
「分かった」
話が無くなった金吾は戻っていった。

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Posted on 2020/07/13 Mon. 04:01 [edit]

【鐘巻兵庫 第140話 葛藤(その9)】 

 霞と霧は志津に連れられ直ぐにやって来た。
「早いな」と金吾が云うほどだった。
早いのは当たり前で、二人は兵庫の部屋の隣で他の訳ありの女たちと暮らして居たからだ。
ただ、二人は目を腫らしていた。
娘は父・金吾が来たことを知って泣いて居たのだ。
その時点で娘たちに考えられることは、望まない縁談を持って来たことしか考えられなかったからだ。
これまでは望まぬ話は断って貰えた。
それは、親も理解できたからだ。
また、縁談話を受けると、金のために娘を売ったような噂がでかけない相手も居たからだ。
しかし、今は浪々の身。金は必要であり、世間体を気にする身でもなくなっていた。
娘としてはどの様な話でも、我儘(わがまま)は言えない身だった。
出来るのは涙を流すことぐらいしか残されて居なかった。

 ただ入って来た娘は泣いたことを隠そうともせずに父親に向かい、泣き顔に笑顔を作って見せた。
「泣いて居たのか」
「はい、どの様な話でも受けようと覚悟を決めて居りました」と霞が応えた。
「それが、良い話のようだと、炬燵から出て聞き耳を立てていた松江さんが教えてくれたのです」
「行儀の悪いことを・・しかし、説明しなくても良くなった。ただ、この話は
相手は知らぬ事だから、まとまった訳では無い、話を進めるので、暫く行儀見習いをやり直しなさい」
「はい、父上」
「鐘巻殿、昇龍院の二人に、此方の意向を伝えて頂けませんか」
「明日の朝飯前に子供たちを連れてこちらに来ることに成って居ますのでその時、志津に頼みます」
「奥様、お願い致します」と霞と霧が頭を下げた。
 志津は頷き応えた。

 嘉永七年十月二十九日(1854-12-18)の夜が明けて昨日同様子供たちと朝駆けに出て戻って来ると、すでに昇龍院の子供たちが名札を貰いに来ていた。
朝駆けを終えた子供たちは次の支度のために、我先と上がっていった。
「浜中さんも反町さんも上がって居ますか」
「はい、田中様はお母上様と・・・」
「分かりました。平助さん、暫く子供たちの剣術の相手をお願い致します」
「年内なら、何とか相手が出来ると思います」
「朝駆けを怠らない事です」
「はい、中之郷まで出かける時も早歩きするように心がけるように成りました」
「続けて下さい」

 兵庫が自室に入ると、そこでは名札が一人一人の首に掛けられて行く最中だった。
「海吉」と志津が呼ぶと、呼ばれた者が志津の前、膝が接するほど近くに座った。
名札を首にかけてあげ、その際志津はその子の身体に触れ成長を確かめた。
そして最後は養育所の子ではないが絵の修行をしている赤松又四郎だった。
こうして養育所の子七人と又四郎を合わせ八人への名札の授与が終わった。
「子供たちは出て、新しい子たちの面倒を見て下さい」

 子供たちが出て行き障子が閉め切られた。
「お二人を引き止めたのは縁談話が持ち込まれたためです。相手は昨日昇龍院を訪ねた関口金吾殿の娘、霞殿と霧殿です。お二人に既に決めた相手が居られるとか、嫁を娶る気がないとかの事情が在れば、この話は無かったことにします」
「如何致しますか」
「有難い話ですが、
私は生まれながらの浪人です。関口殿は先日まで老中首座阿部様の御家来と伺っております。あまりにも不釣り合いと思います。それが懸念です」
と浜中が応え、反町も頷いて見せた。
「その辺の心配は無いと思いますよ。霞殿も霧殿もここ神田庵で嫁入り修行を始めた所です。禄を食んでいる武家の元に嫁すことは考えて居ません。それは確かな所です。浜中様には霞殿、反町様には霧殿がお似合いだと私は思いますが」と志津が勧めた。
「奥様がそのように仰られるのでしたら、この有難い話をこちらから断わることは致しません」
「私もです」
二人が縁談を受け入れた。
 志津が柏手(かしわで)を打った
然程間を置かずに、娘二人が部屋に入って来て障子を閉めると奥まで進まずその場に座った。
「霞殿、霧殿、こちらが浜中松之助様、あちらが反町半四郎様でお父上が見込んだ方です。浜中様には霞殿、反町様には霧殿が似合うと私は思います。異存は在りますか」
「いいえ」「いいえ」
「良かった。それでは以後慎み祝言の日を迎えるようにして下さい」
「関口殿には今日のことを私から伝えておきます」と兵庫が言い、畏(かしこ)まった話を終わらせた。
「私たち朝食の当番ですのでこれにて・・」と二人は部屋から出て行った。

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Posted on 2020/07/12 Sun. 04:01 [edit]

【鐘巻兵庫 第140話 葛藤(その8)】 

 神田庵近くまで関口金吾を案内して来ると、
「随分と色っぽい所に近いですね」
「はい、神田庵の中もかなり・・あの建物です」
「中々のものですね」
「女の子たちの最後の修行の場としては申し分ありません」
「ガサツな娘・霞や霧も少しはしとやかに成ってくれれば良いのだが」
「私は以前のことは知りませんので、ご自身でご見分して下さい」
 兵庫たちが神田庵に入って行くと保安方の富五郎に迎えられた。
「こちらは関口殿です」
「保安方の富五郎と申します。宜しくお願い致します」
 主の帰宅と来客を告げる板木が打たれた。
養育所のざわめきが止み、関口が草鞋を抜いている間に奥から女主の志津と大勢の子供たち、その後ろにどの様な客が来たのかを見ようと女たちの目もあった。
「大勢居るな」
「この家には今日は八十二人いて、その内、養育所の子供は四十九人です」
「先日駒形に一時居た子供たちもここに来た訳わけだな」
「左様で御座います。鐘巻の妻・志津で御座います。どうぞ奥に・・・」
と志津が促した。
金吾は志津とは初見だが神田庵を訪れた関口家の者から聞いて居た。
薄化粧程度しかして居ないが、形が良いのか、見たことも無い美人に返す言葉も思いつかず兵庫と奥の部屋に入った。
「関口殿は娘さんのことで苦労為さって居られるようです。その辺りのことで色々と尋ねられたのですが、私にはわからぬ事なのでお連れ致しました」
「どの様なことですか」
「関口殿、どうぞ・・」と兵庫が促した。
「返事によっては、娘に会わずに戻るのが辛い・・聞けぬ」
「それでは私から話しましょうか」
「そうしてくれ」
「ここに来る前に昇龍院に立ち寄りました。一瞥し関口殿は浜中殿と反町殿を気に入ったようです。あの二人に意中の娘が居るのかを知りたいそうです」
「浜中様と反町様は、旦那様と同じで自分からは言い出せない人ですから、お二人に意中の方が居ても伝わりません。また、養育所に来てから多くの時を昇龍院で過ごしていますので、女子の方もその存在すら知らない者が多いでしょう。私が知る限り養育所の娘たちからお二人の名を聞いたことは御座いませんので、今の時点では早い者勝ちではありませんか」
「関口殿、早い者勝ちだそうです。如何致しますか」
「申し訳ないが、部屋を貸して貰えぬか。娘たちに話したいので・・・」
「私たちは席を外しますので、この部屋をお使いください」
「お二人には居て頂いた方が、娘たちも真剣に考えるだろう」
「分かりました。二人を呼んで参ります」
 志津が部屋から出て行った。

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Posted on 2020/07/11 Sat. 04:01 [edit]