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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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 日本一長い時代小説を目指して
ちなみに日ほ本一長い歴史小説と言われているのは、山岡荘八先生の「徳川家康」で、四百字の原稿用紙で17、482枚。
文字数は単純計算すると6、992、800字です。
鐘巻兵庫97話終了時点で約260万文字ですから、今後年55万文字のペースで書くと、目標達成は8年後、私が82歳を迎えた頃でしょうか。
そこまで長生きできれば良いのですが。

鐘巻兵庫無頼控え ←連載中
 
湯上り侍無頼控え ←連載終了

駄文創作の徒然 ←たま~に
小説を書くことで体験する事柄を綴ります。 

馬鹿な話 ←たま~に
日々思いついた身近な題材を選び、少の偏見を込め綴ります。

鼻歌 100曲作りました。興味無くても聞いてください。
      珠玉の鼻歌100曲のメドレー

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Posted on 2031/04/30 Wed. 09:34 [edit]

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その55)】 

 屋敷の未申(南西)の角に祀られた地蔵から南東に向かって植栽された庭木が間を置いて植えられ、その間を青い竹垣とで結び屋敷を囲って居た。
それは兵庫が先日見た隙間の多かった外観とはかなり違い、垣根と呼べるものだった。
 兵庫が近づくと垣根の内側から女たちの笑い声が聞こえて来て、更に近づくと村上茂三郎が顔を見せた。
「先生、御用ですか」
「はい、それにしても精が出ますね」
「何分にも女が多いので、気休めですが囲い、目隠しを急いでいるのです」
「それは分かりますが、声は隠せませんよ」
「はははは~・・・声が聞こえるので力が出せるのです。お入りください。茶を淹れますので」
「いや、これから圓通寺に行くので、こちらの久蔵さんと繁蔵さんに、養育所の原点がここに在ることを見せに来ただけです」
「そうでしたか。お二方の名は伺っておりますので、来られた訳が何となく分かりました」
「それでは、お地蔵さんとお狐さんお参りして寺に行くことにします」
 兵庫と久蔵と繁蔵の三人は、鬼門の稲荷と裏鬼門の地蔵に手を合わせた後、田のあぜ道を通り圓通寺に向かった。

 寺の山門をくぐった兵庫は迷わず庫裏に行き外から
「和尚様、鐘巻兵庫で御座います。お願いが在り罷り越しました」と大声を上げた。
障子が開き、顔を見せたのが和尚の浮雲だった。
「相変わらず、騒々しいの。何だ」
「この者は久蔵、繁蔵と申し、悪党で御座います。先日、子分を使い人を殺めに向かわせました所、目的を果たせぬままに向かわせた一人が討たれ、二人が大怪我を致しました。私は額賀殿を死に追いやったことを悔い、この者には生きる道を選ばせましたので、経の一つもお教えいただき亡くなった者の回向をさせて頂きたいのです」
「話は分かったが、坊主と云えども生きるためには食わねばならぬ。お主、寺の近く、中で人を見かけたか」
「残念ながら、見かけませんでした」
「この現実を変えたいのだが何とかならぬか」
「それでしたら和尚様、お二人には多くの子分衆がおいででした。その多くの者が養育所の世話になることが決まりかけています。それはお二人が亡くなった子分衆の回向をすると申されたからです。恐らく元親分が世話になる寺の檀家となることを願うと思うのです。それが始まりではないかと、それが叶えば祭り好きの男たちですから門前の賑わいを考えると思います」
「今の檀家が増える話、嘘ではないな」
「私は嘘が下手で御座います」
「そうだな。その毘沙門面で嘘を付いていてはあのように子供は集まらぬな」
「和尚様、毘沙門面はひどいですよ」
「すまぬ、わしも嘘がつけぬのだ」
「あいたっ、これ以上、傷つかぬうちに退散しますので、私がお二人をここにお連れした訳は和尚様からお話しして下さい」
「分かった。実は話し相手が欲しかったところだったのだ」
「それでは、失礼いたします」

 圓通寺を出た兵庫はこれを最後の仕事にはせず駒形に向かった。
気がかりが一つと、期待が一つ在ったのだ。
兵庫を待って居たのは気がかりの方だった。
三間町で東都組の半蔵が集めさせた軒賃が返却されて居なかった事情が分かったのだ。
内藤が同心の久坂から聞いた話はこうだった。
町役が返却するために渡された十両二分二朱の金を紛失したのが始まりだったが、同心の久坂がよくよく聞きただしていくと、実は、その金は町役の諏訪屋政吉自身が連れてきた付け馬に渡してしまったというのが真実だった。
それが露見したのは付け馬への散財がそれ以上で不足分を帳場の金や金に成りそうな妻の呉服を質に入れ何とか支払いを済ませたことで、妻の怒りを買って居たからだった。
 町役自身の不祥事が分かったことで、久坂が、預かった十両二分二朱の金を今日中に返済しないと町に居られなくなると迫ったが、主(あるじ)だった政吉が仕入れの金まで手を付けていたため、返す金が用意できなかった。
そこで久坂が、金は知り合いから借りて用意するから、今日中に返せと説得したうえで、久坂は諏訪屋の倅を連れ、金を借りに内藤の所に来たのだ。
「鐘巻さん、先ほど、十両二分二朱の他に仕入れ代金として五両を用立てましたので、今頃は返しに回って居るはずです」と内藤が話を終えた。

 内藤の話を聞いて居た兵庫が、
「町役を引き受けるほどの信用を得ていた諏訪屋政吉が、店の主であるにも関わらず悪所通いをし、店を傾けた訳を聞きましたか」と尋ねた。
「もちろんです」と応えた。

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Posted on 2017/06/26 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第98話 残月(その54)】 

 兵庫が久蔵と繁蔵を押上に連れてきた訳は、話だけではなく実際に勘三郎と富五郎が匿われ生きていることを見せることだった。また、勘三郎と富五郎には先日まで親分であった久蔵と繁蔵がその威を失い、もう親分ではなくなっていることを知らせ、やくざに戻る道を狭めるためでもあった。
 連れてきた用が終わったと思い、兵庫が隣に座る志津に何かを言って貰おうと見た。
「叔父様、猫の赤ちゃんも勘三郎さんと富五郎さんを喜ばせたよ」と猪瀬阿佐から預かって居る多美が言った。
「フクの赤ちゃんは、今どこに居る」と兵庫が問いただした。
「勘三郎さんと富五郎さんのお部屋だよ」とお玉が応えた。
「それでは、後で猫ちゃんにも挨拶に行って貰います」
「それと、男の子たちは今日、中之郷に戻る予定でしたが、久蔵さまや繁蔵さまのお知り合いがお越しになるので、暫く延期します」と志津が云うと、男の子の顔に笑みが浮かんだ。
「それでは解散します」
 動きが生じ、勘三郎は常吉の肩を、富五郎は乙次郎の肩を借り、空いた手には杖を持って歩き始めた。折ってしまった片足は宙に浮いているが、もう片方の痛めた足にはそれなりの力が入るまでに回復してきていた。その後を兵庫等がついて行った。
部屋には既に、お玉、鈴、多美が来ていて子猫と戯れていた。母猫のフクは子育ての場と決め込んだのか部屋の隅に置かれた座布団の上に横に成り四匹の子猫が遊ぶのを見ていた。
 そして部屋に勘三郎と富五郎が入って来ると、フクがミャ~と鳴いて、起き上がると縁側から外に出て行った。
「鐘巻様、見ましたか」と勘三郎が言った。
「はい、子供は任せたよと云っているようでした」
「はい、これまで同じようなことがなんどもありました」
そして勘三郎と富五郎が布団の上に横になった。
「今回は俺の番だ」と富五郎が言い
「ミャ~」とフクの鳴き声をまねた。
すると、子供たちと遊んでいた子猫が遊ぶのを止め、富五郎の脇腹と腕が作る隙間に入り込んだ。
子猫を富五郎に取られた子供たちは、次の遊びを求めて部屋から出て行った。
「聞いて居るかもしれぬが、わしと繁蔵さんは罪滅ぼしのため向島の圓通寺の世話に成り行く。お前たちにはそのような大怪我をさせて申し訳なかった。寺は近くだそうだ。早く良くなり、その姿を見せに来てくれれば有難い」
「はい、皆様のお陰で片足の方は腫れもだいぶ引きました。人様の肩を借りるような、両脇の下に挟む杖も先日試し、今高さを合わせて頂いています」
「そうか、それは良かった」
「近いのはお互い様です。良く成ったら参りますので、それまでは、そちらの姿を見せに来て下さい」
「それでは、寺に行って来ます」

 兵庫は表通りに出ると、北十間川の向こうを指さし、
「田んぼの先に見える森が見えるでしょう。あそこが圓通寺です」と教えた。
しかし、兵庫の足はなかなか圓通寺に近づかなかった。
「鐘巻様、どちらへ行かれるのですか」といぶかしげに尋ねた。
「お気づきでしたか。実は何故圓通寺なのかを知って頂くために寄り道して居るのです」
「寄り道先は圓通寺と縁の在る所ですか」
「圓通寺とではなく、寺に埋葬されている方と縁がある所です」
「鐘巻様から埋葬されている方と聞かされると、失礼ながら血の匂いがしますね」
「はい、多くの方々が亡くなった所です」
「そこで亡くなられ方々が圓通寺に埋葬されて居る訳ですな」
「そうです。あの建物がある一角が養育所の持ち物で、これから行くところです。主は
村上茂三郎殿です」

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Posted on 2017/06/25 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第98話 残月(その53)】 

 帳場に残ったのは、兵庫、内藤、常吉、乙次郎そして久蔵と繁蔵の六人だった。
「何人が戻ってきますかね」誰もが感じていたことを乙次郎が言った。
「折角、風呂に入れ床屋に行かせたのに・・奥様や子供たちに会って居れば十三人が間違いなく戻るでしょうが運の無い野郎だ」と常吉が応えた。
「飯付き、寝床付きで日に一朱は、荒くれにとって望外の手当てだよ。最近始まった品川沖の台場造りの手当てと同じだが、あっちは飯も寝床もついて居ないからな。鐘巻様を信用した者なら戻って来るよ」と久蔵が言った。
「戻って来なかったら、信用されなかったことに成りますね」と兵庫が上げ足を取ると
「そう云う事ではありません。鐘巻さんが信用されないとしたら、それは前の主の私が信用されることをしてこなかったからですよ」と久蔵が繕った。

 八つの鐘が鳴った。
「それではお二人を中之郷の屋敷をチラッと見せてから向島の圓通寺に預けに行って来ます」
「折角床屋に行ったのに、坊主か・・」
浮世の表舞台を騒がして来た男が未練を漏らした。
「髪は落としても首とは違い生えてきますよ」
「早く落とせばその分早く生えると云う事なら、早く行きましょう」
 駒形を出た兵庫等は吾妻橋を渡り中之郷の屋敷に近づいた。
「今、中之郷の屋敷には皆さん方の子分だった総三郎さんと喜重さんがいます。お二人は捕らえられたことを恥じて居ますが、十三人も、お二人も似たような状況でした。皆に新しい生き方に向かっていることを伝えて下さい」
「ああ、東都組の者と和解したことも合わせて伝えるよ」
「有り難うございます」

 屋敷までやって来ると門は開けられていた。
「ここが継志館中之郷養育所です」
「立派な長屋門に、その様な看板が掛けられて居ますね」
「はい、元は旗本の抱え屋敷でその様な格式で造ろうとしたようですが、資金不足か中の長屋は不完全です。もう武家屋敷ではないことを分からせるために、普段は門を開け、門柱にあのような看板を掛けて居るのです」

 門前で兵庫はこれまで行動を共にしてきた常吉と乙次郎に、
「ここでの挨拶を終えたら押上に寄りますので先に戻って伝えて下さい」
「分かりました」と云い、二人は駆け去って行った。
 屋敷内に入った久蔵と繁蔵は客間に通された。そしてそこに、総三郎と喜重が呼ばれ、兵庫と留守居役の中川彦四郎が立ち会った。
「既に十八日の夜起きたことを聞いて居ると思うが」と前置きして久蔵と繁蔵の二人が互いに不足を補うように、二人の立場から昨晩からここに来るまでの話しを始めた。
そして、
「昼に駒形を離れた十三人の何人が戻り、ここに来るかは分からぬが、中川様の言いつけを守り互いに助け合い、養育所のために働いてくれ。わしと繁蔵は、これより向島の寺の厄介になることに成り、亡くなった正一の供養をさせてもらう」
「お体にお気を付けください」

 中之郷を出た兵庫の足は押上に向かって急いでいた。
「あの畑の中に在る黒板塀の中が押上の養育所です。今は表の塀を皆で十軒長屋に建て替え、十軒店と称し、素人が商いをしています」
 兵庫たちが近づくと、表で遊んでいた子供たちが
「兄上、お帰りなさい。母上がお待ちですよ」
「皆が居てくれたから母上も心強かっただろう。有り難う」
 表口から入った兵庫は久蔵と繁蔵を広間に案内した。
そこには既に、両脇を常吉と乙次郎守られ、椅子に座る勘三郎と富五郎の姿があった。
兵庫は二人を兵庫の右脇に座らせ、待った。
子供たちが続々とやって来て席を埋めて行った。そして志津が赤子の千丸を抱き部屋に入って来た。
いつもと変わらぬ光景で養育所の者たちは兵庫の脇に座って居る二人を見ていたが、その二人は志津が兵庫の脇に座るまで見続けていた。
その二人の脳裏に、常吉が言った
“奥様や子供たちに会って居れば十三人が間違いなく戻るでしょうが運の無い野郎だ”の言葉が思い出されて来ていた。
「私の隣に居るのは勘三郎さんと富五郎さんのお友達の久蔵さんと繁蔵さんです。皆が怪我した二人と仲良くしていることを伝えたら、お礼を言いたいと、忙しい中来てくれました」と云い久蔵を見た。
「男の子、女の子、私たちの友達、怪我をした勘三郎さんと富五郎さんに仲良くしてくれてありがとう」と云い、繁蔵を見た。
「お陰で二人の元気な様子を見ることが出来て嬉しいです。有り難う」としめた。

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Posted on 2017/06/24 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第98話 残月(その52)】 

 風呂上がりの男たちが戻って来ると昼食に成り、それも終わると男たちは教えられた数軒の床屋に分かれて向かった。
 兵庫は男たちが戻るのを待つことに成ったが腰を上げた。
「お出かけですか」と内藤が尋ねた。
「はい、久坂殿が東都組の頭・半蔵の母のところで押収した金を、同時に押収された借入帳に従い戻すように町役に依頼しました。先日東都組の者だった竜三郎さんが半蔵の死後も集めた軒賃を返済に回ったのですが、三間町亀甲屋、新旅籠町・代地町の玉城屋、福富町の千足屋では、町役から戻された軒賃が無く、竜三郎に嫌な思いをさせてしまいました。その後、久坂殿が動いたようですから、どうなったかを確かめてきます」
「あれから、日が経っています。大した手間のかかることではありませんので、もう済んで居ますよ」
「そうでしょうが、済んでいるのを確かめておけば、明日、他の店を回る時に半蔵の時に集めた軒賃のことまで言われず、回る者に嫌な思いをさせずに済みます」
「そうですね。出直しの一歩目から嫌な思いはさせたくありませんね」

 三間町亀甲屋に入った兵庫は呼びだした庄左衛門に
「お忙しいところ、申し訳ございません。先日伺いました折、東都組の頭・半蔵が死ぬ前に軒賃として集めました金が戻されて居ないと伺いました。その後いかがでしょうか」
「その事ですか。私も気に成り三間町の知り合いの店を調べたのですが、遅れているようです」
「三間町以外の町の情報は耳に届いて居ませんか」
「それが耳に入ったご近所の町では全て七割程度ですが戻されたと伺っています」

 亀甲屋を出た兵庫は、新旅籠町・代地町の玉城屋、福富町の千足屋を回り確かめたが、庄左衛門が云うように支払った額の七割の金が戻されていた。
 兵庫は帰りの足で駒形の自身番に立ち寄ったがそこには書き役一人が居て、同心の久坂も岡っ引きの勇三もおらず、会うことも無く言伝を残し戻り、経師屋の暖簾を潜った。
 帳場や土間には忘れていた人で溢れていた。それを見て
「今日、お戻りでしたね。色々と用事があり失礼いたしました」
「いいえ、十二分に楽しませていただきました。子供たちはまだ居たいようですが、こちらに伺ったのが十一日、今日でもう九日目です。ご迷惑をおかけしました」
集まって居たのは、肖像画を描かせに来ていた菱屋伊兵衛の妻・千春、娘・千賀と倅・峰吉で、他に菱屋から荷物運びでやって来た者、養育所からは北村徳三郎、絵師の太白、出来上がった物を運ぶ萬屋弥一と太白の画材を運ぶ万吉等だった。
「太白先生は、菱屋さんで伊兵衛殿の肖像画を描きに行かれるのですね」
「そのつもりですが、お忙しいお方ですから、行ってみないと判りません」
「北村殿、伊兵衛殿に宜しくお伝えください」
「はい、それでは行って来ます」

 床屋に行った者が全員戻って居ない八つ前、帳場で揃うのを待って居ると、南町奉行所同心の久坂と勇三がやって来た。
「おっ、ごついお方が揃って居ますね。用事があるようですが何ですか」
「明日、軒賃を返しに行くので、それを気持ちよく済ませたいので、半蔵の集めた金が返却されているか先日回った三町だけ確かめに行ったら、三間町だけ未だでした。それだけです」
「こっちの調と同じだ。どんな了見で居るのか問いただしてくる」
「私はあと二・三人ごつい方が戻ってきたら、本所側に渡りますので、何か分かったら内藤さんにお願いします」
「分かった」

 床屋に行っていた者が戻るたびに内藤が改めて名前、年齢、住まいなどを聞き取り十五人分が揃うと、その書付の写しを兵庫に渡した。
その書付をちらっと見た兵庫は顔には出さなかったが驚いた。浪人の中に妻子持ちが一人居たのだ。
「これから皆さんを中之郷の屋敷に案内するつもりでしたが、それはいつでもできることです。屋敷に移ると決まりがあり不自由です。世の中にしがらみがある方は一旦解放いたしますので、家族、知り合いに事情を話して下さい。また、住んで居る家が在り、そこに荷物を置いてある方も居られるでしょう。“立つ鳥跡を濁さず”です。もしご家族と暮らしながら養育所で働きたい方が居ましたら、養育所の近くに住まいを用意することも考えます。如何ですか必要なら金なり人を用立てますよ」
「鐘巻様、一人者ですが借家に置いてある物が在ります。それと店賃が貯まって居ます。五百文かして頂けませんか」
「おれは六百文」
と、久蔵と繁蔵を除き、他の者たちは世の中にしがらみを持っていた。
「それでは、必要な金を借り、用を済ませここに戻って下さい。その日の内に落ち着き先に案内します」
男たちは、内藤に事情を話し金を借りると、駒形を出て行った。

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Posted on 2017/06/23 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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