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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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一話:相討ち勝負を終わっての碁四郎のプロフィールと無頼始末 

番町に屋敷を構える旗本山中源太夫が父で五十四歳の時の子。
天保五年(1834年)生まれ・・数え十九歳
母:絹・・・商家の娘で屋敷奉公中源太夫の手がつく。
元服し、父が亡くなった後、母の勧めで浅草の唯念寺で三年の坊主修業をする。
坊主修行中囲碁を覚え、その棋力は井上因碩の弟子で師である三上豪山を打ち負かす腕前。

嘉永四年(碁四郎十八歳)の時、屋敷を飛び出す。
柳橋芸者、お静の世話で平右衛門町の湯屋富士の湯の二階に住み込み、午前は女湯の三助、午後は二階の遊興部屋で碁を打ちながら、男湯の用心棒をしている。

愛刀:井上和泉守国貞二尺四寸六分・・・高価なものです。
脇差:不明

剣の腕前:相当なものと思われる。麻生寛治を斬る。

一話における碁四郎の無頼収支
脇差:津軽藩士今仙左衛門の愛用した奥州津軽住国広一尺五寸五分を今家より礼として貰う
金:十両を今家より礼として貰う。五両を麻生寛治の娘、加代に渡し、残高五両。
他に羽織・袴貰う。

碁四郎を取り巻く女性たち
お静:都鳥の芸者・・碁四郎を助けた。武家の出。やや年上。
お駒:都鳥の芸者・・姉さん芸者お静が居るため、碁四郎には手を出せない。
お吉:都鳥の芸者・・姉さん芸者お静が居るため、碁四郎には手を出せない
およし:湯屋・富士の湯の娘
加代:碁四郎が斬った麻生寛治の娘 十四歳
多恵:津軽藩士今仙左衛門の娘
うらやましい・・・

Posted on 2011/03/19 Sat. 18:46 [edit]

【湯上り侍無頼控え 一話 相討ち勝負(その20)】 

碁は打ち掛けとなり、遠山金四郎が帰ることになった。
「碁四郎、御主は女湯の出入りが勝手だそうだな」
「その様なことまで・・・それで何かお望みですか」
「一度、女湯から出てみたいのだが、駄目か」
「構いませんが、後々変な噂がたっても知りませんよ」
「それぐらいは構わん」
「それでは、お供の方は先に下りていて下さい。女湯回りで出ますので」
供侍もこれには苦笑したが、隠居した主人の我が侭には目を瞑り下りて行った。
「遠山様、こちらへ」
碁四郎は己の部屋と男達の遊興部屋との境の戸を開け、部屋に入ると金四郎も後に従った。
「ほ~、ここか。確かに女の匂いがする。それも若い・・・」
「鼻が良いですね。それでは下りますので目をよく開けておいて下さい」
階段を下りていくと洗い場で洗う者、その先の石榴口から腰をかがめて出入りする者が見える。
何時もの碁四郎はあっと言う間に下りてしまうのだが、後ろからくる隠居の目を楽しませようとゆっくりと下りた。
そして向きを変え表口に向かい、脂粉漂う女湯の脱衣所を縫うように歩きながら高座まできた。
「若旦那。こちらのお方は」
「先日まで南町のお奉行だった遠山様ですよ」
「また、下手な冗談を。むやみに男を通さないで下さい」
「分かりました。一度だけです」
そこに草履取りがやってきて、草履を懐から出し置いた。
金四郎が草履を履き表に出、待たせてあった駕籠に乗り込んだ。
「明日、四つお邪魔します」
「待っているぞ」
帰って行く隠居の駕籠が見えなくなるまで、碁四郎は見送っていた。

 その後、碁四郎は須原屋で働く加代を訪れ、遠山家で奉公させようと話をしたのだが、加代は容易には受け入れる様子を見せなかった。
裏店(うらだな)で一人暮らしするのは身の定め、その定めを避けては後に生じる定めも避けることになる。
逃げてばかりは居られないと言うのだ。
碁四郎には加代を遠山家に預けたい訳がもう一つあった。
それは、此処に居ると斬られた今仙左衛門の娘・多恵が仇の娘、加代と合い続けることになり、いつかそのことが露見する懸念もあった。
しかし、そのことは言えない。
 夕七つ(午後4時ごろ)碁四郎は須原屋で働く加代を浅草の唯念寺へ連れ出した。
それは、加代に遠山家での奉公をさせるための荒治療の為だった。
境内を抜け墓石の建つ中を歩いていくと、墓石の切れた辺りの土饅頭に真新しい白木の柱が建てられていた。
「麻生寛治・・父のお墓?」
「はい、私が斬りました。私は加代殿にとって父の仇です」
一瞬驚いた表情を見せた加代だったが
「それは嘘です。人を斬りその娘に物金を届けたり、墓まで建てたりする人など居ません」
「それでは、言い換えます。私は人斬りに苦しむ麻生殿の介錯をしたのだと思うことにしましょう」
「介錯・・・・」
「はい、どのような言い方をしてもお父上を斬ったのは私です。私に負い目がある以上加代殿を毎日見ては暮らせません」
加代は父が亡くなったことに碁四郎が深く関わっていることには気が付いていたが、斬ったことまでは思いが及ばなかった。
加代の目から涙が流れ始めた。
「分かりました。遠山様のお屋敷に奉公に入ります」

 嘉永五年三月二十六日(1852-5-14)、薄曇のやや肌寒いなかを、碁四郎と加代が竪川沿いの南側の道を遠山家に向かい東へと歩いていた。
そして、その一刻後、同じ道を西へ一人で歩く碁四郎の姿があった。

第一話 相討ち勝負・・完

Posted on 2011/03/15 Tue. 13:35 [edit]

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【湯上り侍無頼控え 一話 相討ち勝負(その19)】 

 三月二十三日、二十四日と雨が降り続き、碁四郎は富士の湯に閉じ込められていた。
そんな中、やってきたのは定廻りの同心、久坂と岡っ引きの勇三だった。
「山中さんよ~南町の遠山様が奉行を辞め寄り合い席になられた。これで呼び出しも無くなって良かったな」
「それで、代わりのお奉行は何方ですか」
「池田播磨守様だ」
「そうですか、私は救われましたが久坂さん、睨まれない様に励んで下さいね」
「そうだな。人のことより我が身の心配だった。ありがと~よ」
久坂の用は特に無く、奉行の代わったことだけを伝えて帰って行った。

嘉永五年三月二十五日(1852-5-13)、空は晴れ渡り、やや北よりの風の吹くじっとしていると寒い朝を迎えた。
朝駆けでは先日出向いた本所の津軽藩上屋敷そして中屋敷のある道を走ったが、朝が早いこともあり人影は無く、何事も無く戻って来ると、茅町の表通りに店が開き始め、店先で大あくびする須原屋の主人伊八にあった。
「伊八殿、雨もあがり、今日は本も売れそうですよ」
「そう願いたいものです。加代様の手は大したものですよ。今は百人一首の草紙をお願いしています」
「そうですか、売れ始めたら手間賃も上げてやって下さいよ」
「はい、売れ始めれば版木物よりは儲かりますのでそうしますよ」

 こうして明けたその日の午後、碁四郎が湯屋の二階で碁を打っていると、年老いた武家と供の侍がやってきた。
その武家は部屋の様子を見た後はとくに何もせずに座っていたが、碁四郎が打ち終わるとやってきて
「済まぬが、一局お願いできるかな」
「構いません。これが仕事ですから」
暫らく打ち進めると
「若いのに隠居のわしと同じことをしていては、身がなまるのではないか」
「はい、そうですが、良くしたもので、下で時折り喧嘩もあり、それを納めるのも私の仕事で、ただ一日中侍(さぶら)う暮らしよりは身はなまらず、欠伸(あくび)も出ません」
「そう言われれば、わしも昨日でお役を辞し隠居の身になったが、今日は何時もの欠伸が出ておらぬ」
「昨日?・・・丸に二つ引両?・・これはご無礼致しました。わざわざお越しいただきましたか」
碁四郎と碁を打っている隠居が着ている物に丸に二つ引両の紋が付いていた。
それは遠山金四郎の隠居姿だった。
「わざわざ来たわけではない。猿若町の芝居小屋から誘いがあってな、その帰り道に寄ってみただけだ」
碁四郎は遠山金四郎が少しでも己に興味を持っていると確信し、この時を逃してはと思い、気に掛けていた話を持ち出した。
「お願いがあるのですが、お聞き入れ願えないでしょうか」
会って直ぐに碁四郎から願いが出されるなど、思いも付かなかった隠居の金四郎、安易に断われば、後の話が出来なくなり、ここに寄った意味が無くなってしまう。
「話を聞かねば応えられぬ」と様子を見た。
「実は、先日孤児と成りました武家の娘が一人居るのですが、お屋敷に奉公させては頂けないでしょうか」
裁きの上では咎人とは成らなかった浪人だったが、その娘を押し付けられるのは迷惑な話であるが、隠居となった身がそのことをやわらげ金四郎はさらに話を進めていった
「それは御主が脇差を届けた者か」
「ご推察のとおりで御座います」
「齢は」
「十四歳と聞いております。見目麗しく才も長けております。おまけに碁も打つそうです」
「そのような娘を一人で住まわせておくのは・・・、今何処に居る」
「先日、深川よりこちら平右衛門町に住み移りました。茅町の須原屋に写本の仕事を世話したところです」
「その娘は父のことをどこまで存じておる」
「おそらく、凡そのことは」
「その娘を屋敷に入れるとなると・・・」
「私の弱みを何か握られて居るのでしょう。私にも弱みの一つぐらい握らせて下さい」
「御主、相討ちを狙う気か」
「元はと言えば相討ちが事の発端、締めも相討ちでお願いします」
「分かった。明日にでも深川菊川町の屋敷まで連れて来なさい。足らぬを学ばせ何処へ縁付けよう」
お役を辞し暇人となる金四郎は退屈さを紛らわせることもあったのであろうか加代を受け入れることを決めた。
「有難う御座います」

Posted on 2011/03/15 Tue. 11:16 [edit]

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【湯上り侍無頼控え 一話 相討ち勝負(その18)】 

 そして、その日の午後、また客があり、例によって仙吉に呼び出され、湯屋の表に出ると、なんと今孫次郎と多恵が小者に鋏箱を持たせやってきたのだ。
「これは孫次郎殿に多恵様、どのような御用でしょうか」
「袴を持参したのと羽織の合わせとご紋を確かめに参りました」
先日呼ばれ着て行った疲れ切った羽織袴姿がよほど目に付いたのだなと思いながら・・
「これはどうも、お気遣いいただきました。立ち話とは参りませんが、私の住まいは女湯の二階なのです。男は女湯からは入れませんので男湯から二階の部屋に回って頂けませんか。仕切り戸を開けますので」

当時、大名屋敷に全ての藩士が入れるほどの風呂は備わっては居なかった。それゆえ、定府の藩士達は外の銭湯に行くことは許されていて、江戸の湯屋がどうなっているかは知っていたが、女湯の二階に居候が居る風呂屋は江戸広と雖も、ここ富士の湯だけであっただろう。

「分かりました」
「仙吉さん。御三方は私の部屋への客です」
「分かってますよ。履物は持って上がって下さい。裸足で来たのを忘れて帰る野郎がいますからね」
こうして一旦は別れた者達が二階の碁四郎の部屋に集まった。
「山中様はいつからここに居られるのですか」
「昨年の陽気が良くなった水無月の頃からですが」
「それまでは何処に居られたのですか」
「多恵、不躾なことは控えなさい」
「構いませんよ。それまでは屋敷暮らしでしたが追いだされることをして、追い出されました」
「それで、此処に居て何をなされておられるのですか」
「それは・・・午前は三助で午後は碁を打ちながら男湯の用心棒です」
嘘は言ってはいないのだが、流石に女湯の三助とは言えず、ただ三助と言ったのだ。
「今の暮らしが気に入っていると言われたわけが何となく分かりました」
「多恵、そのくらいにしなさい」
「はい、兄上」
多恵は鋏箱を開け、袴を出した。
「どうぞお穿きになられて下さい。丈など見ますので・・・」
「これは多恵殿が・・・」
「はい」
「多恵は台所仕事もなかなかですぞ」
「・・それは、よいご縁が沢山持ち込まれるのでしょうね」
「いいえ、何方も侍とは名ばかりで気概の無いお方ばかりです」
「私もこのように名ばかり侍で耳が痛いです」
「山中様は性根の座られた侍です。形(なり)など一日で直せますが、性根は治せません」

碁四郎が津軽藩士の妹を部屋に上げたことは、すぐに湯屋のおよしからお静に伝えられていた。
「碁四郎さんは何人女を側に、・・・もう一度湯に入りに行きましょう」
普段は碁四郎を巡って見えない鞘当をしている女達であるが、新たな碁四郎の危機?を知ると、一致団結し、須原屋で仕事を始めたばかりの加代まで引き連れ富士の湯に押しかけてきた。
碁四郎の耳に階下から大きなおよしの声が・・・
「おとっつぁん。未だ居る?」
「あ~」
階段を上がるいくつもの足音がし、お静を筆頭に女五人が姿を見せた。
「碁四郎さん、午後は男部屋の約束ですよ」
「そうでした。多恵殿、私の紋は衣桁に掛けてある羽織を見て下さい。孫次郎殿、不如帰(ほととぎす)がうるさく鳴き始めましたよ。私達も男部屋に帰りましょう」
碁四郎はそう言い残すと、我先にと仕切り戸を開け出、ただならぬ女の目に晒された孫次郎と供の者もそれに続き出て行った。
 「山中殿、あの方々は何ですか」
「屋敷に戻られたら多恵殿からお聞き下さい」
「きっと・・羨ましい話ですね」
「羨ましいことなどしたら、すぐに夢から覚めてしまいますよ」
「なるほど、色即是空ですね」
「はい、日々是修業です」
碁四郎等が出た後、女だけになった部屋で何が話されたかは知る術もないが、暫らくして笑う声が漏れてきた。
「無事、納まったようです。多恵殿をお連れしますので今殿は下でお待ち下さい」
碁四郎が美女六人の待つ部屋に入ると
「碁四郎さん。もうこれ以上は出てこないのでしょうね」
「はい、もう心当たりはありません。多恵殿、孫次郎殿が外でお待ちですよ」
多恵は碁四郎の袴姿に満足したようで
「後ほど、羽織を持参致します」とまた訪れることを匂わせ帰って行った。
同時に潮が引くように、集まっていた他の五人も碁四郎の周りから姿を消していった。
今にも降り出しそうな空を眺めながら、加代と多恵が今後も会い続けることの不安を碁四郎は感じていた。

Posted on 2011/03/15 Tue. 10:26 [edit]

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【湯上り侍無頼控え 一話 相討ち勝負(その17)】 

上がってきたのは高座(番台)に座っていたおよしだった。
「なんだ、およしちゃんか。店番はいいの」
「おとっつぁんが喜んで代わってくれました」
「お加代さんは?」
「帯締めていましたから、もう直ぐ来ますよ」
およしの言うとおり待つこともなく足音がして加代が姿を見せた。
見慣れた芸者衆の艶のある湯上り姿とは違った、清楚な加代の姿に碁四郎は見続けることが出来ず視線を落とした。
「加代様、お待ちしていましたよ」
「お静様、先日はお世話になりました」
「そんなことより、平右衛門町のどこの店(たな)に引っ越してきたの」
「弥助店(たな)ですが」
「なんだ、私たちが居る都鳥の裏店じゃないですか」
「それで、三味線の音がよく聞こえて来るのですね」
女同士の話に火が付くと止まらなくなるのを、此処に着てから何度か経験していた碁四郎が二人の話に割って入っていった。
「済みません。何故、引っ越してきたか、先に教えて下さい」
「そうでした。それは・・・深川で父を待つ必用が無くなったと感じたからですよ」
「どうしてですか」
「父は私が気づいた時から側に居て、家を空けるようなことは滅多に在りませんでしたし、その様な時は私をどこかに預けました。まず今回、それをしないで何時帰るかも知れない旅に出るとは思えません」
「それだけで、引越しをするとは無茶すぎませんか」
「いいえ、あの日、父は私に御酒を買うように言って、夜明け前に家を出ました。父が御酒を飲まれるときは必ず何かがあった日なのです。ですから帰ってこないのは父の身に何かが起こったのです」
「確かに何か起こったので、私に加代殿への言付と届け物を託したのでしょう」
「それでは、どこで脇差を託されたのですか」
「それは、あの日の明け六つ少し前、朝駆けで両国橋を渡った所でお会いし、お持ちだった金子(きんす)の一部と、証として脇差を渡されたのです」
「実は、その証の脇差が父に何かがあった証でも在るのです。その一つは、父はかねがねお腹を召される時はこの脇差を使うと申されておりました。ゆえに脇差を手放す筈が無いのです。その二つ目は、山中様は父が西へ旅立ったと隠しきれない嘘をつき、三つ目は脇差の柄に・・・」
加代はそこまで言うと碁四郎を見たまま黙ってしまった。
「負けました。麻生殿は亡くなられました。しかし、それ以上は詮索しないで下さい」
「分かりました。山中様は父と同じで嘘が下手です。そして騙されやすい」
「騙されましたか?」
「はい、脇差の柄に血など付いては居りませんでしたよ」
「そうでしたか。確かに騙されました」
「父の遺言は、“わしが戻らぬ時は、わしの代わりを早く見つけ離れるな”でした。それで、平右衛門町に引っ越してきたのです」
「まさか、代わりって碁四郎さんのこと」
「はい、お静様、他に頼りなりそうな殿方は居られませんから」
「お加代殿。私はそれほど頼りにはなりません。自分の面倒さえ見られないのです」
「私の面倒など見て頂かなくとも結構です。お近くに居られるだけでよいのです」
「お近く?・・・それも駄目です。修業の妨げになりますので」
「それでは、暫らく弥助店で我慢します」
二人の話に呆れて物も言えなかったお静だったが、
「加代さん。弥助店はいいけれど、この先何をして暮らすのですか」
「針仕事だけで駄目でしたら、料理屋か船宿でと思っていますが・・・」
「働いた経験はあるのですか」
「いいえ、御座いません」
「そうでしょうね。・・私が河内屋の半次郎さんに頼んでやるから、家に戻り待っていてね」
「お静殿、加代殿にはまだ早いのではありませんか」
「そう言われると・・・加代様はお幾つですか」
「十四歳になりました」
加代は苦労のせいか、歳の割りには大人びていたが、十四歳では上客の多い河内屋でも時折り混じる悪党を、上手く御(ぎょ)すことが出来ずに泣く虞があった。
静も危うさを感じたのか碁四郎を見た。
「お加代殿、長屋に掛けてあった“お仕立物致します”は加代さんの手で書かれたものですか」
「はい、そうですが」
「それでしたら、浅草茅町の須原屋で写本の手伝いをしたら如何ですか」
「私の字でも買う人が居るのですか」
「私は寺で書も修業し、高価な書を多く見てきました。加代殿の字がその書に劣るとは思えません。ただ、名が売れていないので高くは売れません。しかし糧にはなると思いますよ」
「碁四郎さんはその須原屋の主人とは顔見知りなのですか」
「はい静殿より古い付き合いです。寺には主の伊八さんが御老師様の書を求めて来ましたので何度か店にも使いに行き存じて居ます」
「お加代さん。やはり碁四郎さんは頼りになりますね」
「はい、戻り支度をしておきますので、山中様はお静様の背中を流し終えたら、弥助店(たな)までお願いします」
こうして、加代が帰ると、碁四郎は芸者衆の背中を流し、そのあと加代を茅町二丁目の須原に連れて行き、主人の伊八に加代を頼み富士の湯に戻った。

Posted on 2011/03/15 Tue. 07:16 [edit]

thread: 幕末物語

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