02 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 04

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第80話 雨宿り(その42)】 

 ポツリと大粒の雨が地を濡らし、地を叩き仙吉の前に雨の簾を垂らしてきた。
遠雷が近づき、そして稲光に続く雷鳴が空気を震わせた。
堀沿いの商家の軒下に雨宿りの人が増えていった。
小菊を待つ仙吉だったが、もはや傍目には雨宿りする男にしか見えなく成って居た。
 その仙吉の耳に荒れた言葉が、雷鳴の間を縫って聞こえてきた。
「わしは蝮の佐太郎だ。薬研の竜次の後を仕切ることになった。此処は間口四間だから来月分として一分払って貰おうか」
「冗談言うな。竜次に一文も払らっちゃいねぇ。商売の邪魔だ、とっとと失(う)せやがれ」
「爺さん、威勢がいいが客が来なくなるぞ」
「馬鹿言うな。田舎者の青大将。此処はお江戸だ。日に何度も入るのが江戸っ子だ~な。下手な悪さをしてみろ。袋叩きに遭い、肥溜めに浸かることに成るぞ」
「口の減らねぇ爺だ。人がおとなしく言って居るうちに払った方が身の為だぞ」
「面白れぇ、何でもいいやって貰おうか」
「茂蔵、暴れてやれ」
 佐太郎に言われると茂蔵は女湯の脱衣所に土足で上がり、女たちの着替えなどを奪いばらまいたため悲鳴が上がり、子供の泣き声も上がった。
それまで背後から聞こえて来る声を聞いて居た仙吉が振り返ると風呂屋に入り、女湯の脱衣所に上がると、泣いて居るお鶴の傍で暴れている茂蔵を捕まえ、殴り倒した。
そして番台脇の佐太郎に目を向けた。
佐太郎が右手を懐に入れた。
「佐太郎、表に出ろ勝負してやる」
「おめぇはどこの者だ」
「地天一家の仙吉だ」
「聞かねぇな」
「知る人ぞ知るだよ」
佐太郎が出て行くと、仙吉は帯を解き、着ていた物をその場に脱ぎ落した。
「お鶴、頼む」
「はい、ちゃん」と云い仙吉の脱いだ物を取り上げれば、仙吉は倒れている茂蔵に近づき尻を蹴った。
「狸寝入りは分かっている。そのまま懐の匕首を出せ」
しかし、自業自得とは云え女湯に延ばされた屈辱が素直にさせなかた。
懐から匕首を出すまでは大人しかったが、やはり抜き振り回した。
勿論、それは想定内で仙吉は、
「二人一緒に、今度は正々堂々の勝負だ。お前も表に出ろ」
と云い出入り口まで走り、戸締まり用に使う心張棒を握った。

 やくざ者の佐太郎と茂蔵は仙吉に巧みに誘導されていた。
それは仙吉が発する勝負と云う言葉だった。
勝負は決まりの無い喧嘩ではない。そしてその勝負を見る多くの目がある場所に誘われていった。

 勝負の場所は、湯屋と堀に挟まれた道だった。
雨が降る中に、心張棒を持つ赤褌一本の仙吉と濡れた服を身に貼り付け匕首を持った二人が向かい合った。
舞台造りに時を要したが、勝負が付くのは早かった。
勝負が始まると、仙吉の持つ四尺ほどの心張棒が佐太郎の喉に突き出され、その次には茂蔵の額を割って居た。
 暫くすると、二人から金を取られた者たちの訴えで、二人を探して居た定廻り同心の平岡と岡っ引きの為吉がやって来て、風呂屋の前に縛られ晒されていた二人をしょっぴいて行った。
それを服を着てお鶴を抱く仙吉が小菊と雨宿りしながら見ていた。

第八十話 雨宿り 完

 ←のボタンを押すと幸せになりますよ。わたしが。

Posted on 2016/01/25 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第80話 雨宿り(その41)】 

 水練を終えた仙吉は急いで着替えると茶屋に行き、
「姉さん、これからお鶴を連れて、小菊さんの所まで行くんで、頭を頼みます」と茶店の裏口から顔を除かせ、常吉の女房・お仙に頼んだ。
「すぐ行きます」
「水練で乱れた髪を結い直して貰った仙吉はお鶴と手をつなぎ、押上の養育所を出ていった。
それを見送った常吉が、
「仙吉のやつ、言い出せるかな・・・」
「無理だよ、お前さんとは違い恥ずかしがり屋だからね」
「でもね、思いは通じるよ」
「そうか、お仙分かるか」
「小菊さんは苦労人だからね・・・」

 途中、仙吉はお鶴を背負っては下ろして手をつなぎ歩き、疲れると抱っこし、また下ろして歩かせて富沢町の裏店までやって来た。そしてまた抱き上げた。
仙吉は抱っこしているお鶴に、
「あの戸が閉まって居る家にかーちゃんが居るよ」と指差しながら教え、
「行っておいで」と下ろした。
お鶴は駆け、戸の閉まった家の前で止まり、仙吉を見た。
仙吉は頷いて返した。
お鶴は「かーちゃん」と一声かけて戸を開け入った。
そして、べそをかき出て来ると、戻って来て「嘘つき」と云い仙吉を叩いた。
「嘘じゃない。留守だ」とお鶴を抱き上げ、戸口まで行き、不在を確かめて戸を閉めた。
「大家の和平さんに、かあちゃんが何処に行ったか聞こう」

 大家の家の入口から、
「和平さん、仙吉です。小菊さんはどちらに行ったかご存じですか」
「たまいですよ」と中から返事が聞こえてきた。
「有難う御座います」
 こうして、仙吉と手をつないだお鶴が裏店を出て、表店の料理屋たまいにやって来た。
暖簾は出て居なかったが、外から見える窓は全て開け放たれていた。
店の中に入ると、仙吉を見知って居た仲居の女が、
「あら、仙吉さん。子供が居たのかい。隅に置けないね」
「お鶴、聞いたか。お前のちゃんだとよ。小菊さんを呼んで下さい」
「あっ、そういうことかい。待っておいで」

 小菊が姿を見せると、お鶴が
「かーちゃん」と一声かけ、しがみついていった。
小菊はお鶴を抱き上げ、
「仙吉さん、いつも済みませんね」
「とんでもない」
「小菊さん、今日、店は無いんだ。ゆっくりお風呂に行っておいで」
「済みませんね
「何言ってんだい。その子が養育所に預けられていたお陰で、私たちは此処に居られるんだよ」
「そうかも知れないけれど、私がだらしない御蔭と言われているようですね」
「そんなことないよ。その子のためにしただけだ。それに良く躾けられているし、元気で痩せても居ない。裸にして見ておいで、預けて良かったと思うよ」

 小菊とお鶴が歩く風呂屋への道、仙吉もついて行った。
建前を言えば、お鶴は未だ養育所が預かったままで、小菊には帰されていないので、お鶴の保護義務が在ったのだ。だが本音を言えば、仙吉の頭はお鶴よりも小菊のことで占められていた。
 富沢町のさかえ湯に着いた三人だが仙吉は、
「私はここで待って居ます。お鶴ちゃんのためです、ゆっくり入って下さい」と風呂には入らず、外の軒下に立った。
 二人が風呂屋に入り、待つことが始まった。
時が流れていった。長かったが闇夜の中で栄五郎らがやって来るのを待った時とは違い苦痛では無かった。
それは待つのが終われば小菊との別れが待って居ると思ったからだった。
仙吉は妄想していた。
その仙吉の願いが天に届いたのか、遠雷の音が聞こえてきていた。
見上げると空には黒雲が流れ始めていた。

 ←のボタンを押すと幸せになりますよ。わたしが。

Posted on 2016/01/24 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第80話 雨宿り(その40)】 

 久しぶりに料理屋たまいに笑い声が生じた。
「他にも良いことがある」
「何ですか」
「これから支払う金より、受け取る金の方が多いので、あまり金を借りなくても店を始められそうです。私は此れからお得意様に事情を云い、幾らかでも払って貰うよう回って来ます。それと料理人に戻っても貰うように声を掛けてきます。皆さんは取りあえず、什器を確かめ、掃除をし、窓を開け、風を通して下さい」
「動きが始まりましたね。私はこれで駒形に戻ります。当面の資金繰りは養育所で面倒をみますので遠慮せずに相談して下さい」
「何から何まで有難う御座います」

 時が経ち、午後、駒形の子供たちが水練に来て声を上げていた。
その北十間川の土手には水練を見る幼い子供がいた。
見るのに飽きるとお玉とお鶴は土手に咲く花を摘んだり、犬の蘭丸と遊んだりしていた。
 養育所には、他にも幼い子が居た
夫・八木三郎を斬り殺された上、後継ぎを決めて居なかったため家名断絶を言い渡された妻・紗江が倅の佐助と母の文を伴い兵庫を頼ったのだ。
倅の佐助は未だ二歳で、怖さを知らずにおぼつかない足取りで遊んでいた。
それを母の紗江が離れずに見守っていた。
その様子をお鶴が見ていたが、土手で遊ぶのを止め、養育所に戻ったのだ。
「お鶴ちゃん、何処へ行くの」
「母上さまのとこ」

 一人志津の部屋に入ったお鶴は志津に甘えるのかと思われたが、べそをかいた。
「お鶴どうしたの。お玉お姉ちゃんと喧嘩したの」
お鶴は首を左右にひねり、
「かーちゃんに会いたい」と言った。
「そうかい、水練が終わったら兄上に連れて行って貰いましょうね」
「お鶴は、仙吉さんがいい」
「そうだね。仙吉さんもお鶴のことが大好きだからね。私が頼んであげるよ」
お鶴が嬉しそうに志津の手を取った。
「お鶴、千丸も連れて行かないとね」

 千丸を抱いた志津が通りに出ると、清楚で凛とした姿に道行く人の目が注がれた。一方志津の目は十間川で水練を教える兵庫を見た。
その志津を水練をしていた大助が見つけ、
「母上だ」と叫んだ。
水練をする者の目が集まった。兵庫も志津を見て目と目で語った。
家に戻る志津の後ろ姿を追うように兵庫は川から上がり赤褌姿のままで志津を追った。
志津は十軒店の表口の中で待って居た。
「何ですか」
「お鶴が、小菊さんに会いたいと言って居ますよ。名指しされたのは仙吉さんですよ」
「前回は行きたくないとだだを捏ねましたが、今度は自分からですか。仙吉さんも喜ぶでしょう」

 ←のボタンを押すと幸せになりますよ。わたしが。

Posted on 2016/01/23 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第80話 雨宿り(その39】 

 駒形に戻って来た兵庫は、先ず養育所の隣に継志堂の暖簾を出す薬屋に入った。
その兵庫を番頭の常八と手代の藤吉が迎えた。
「渡す物が在ります。お疲れの所申し訳ありませんが、皆さんを集めて下さい」
「私が三次、田作を呼んで来ます」と藤吉が土間に下り、隣の養育所で薬を挽いて居る二人を呼びに行けば、常八は奥で仮眠を取っている大吉、武三を起こした。

 帳場に揃った六人に、
「昨晩から今朝に掛けて働いて頂き有難う御座いました。また嫌なものを見ることになり申し訳なく思って居ます。あの界隈からおよそ三十人もの悪党が居なくなったことが伝われば町の人たちはきっと喜んでくれるでしょう。ただ皆さんがそのために働いたことは知らされません。これから皆さんに渡すものは、町の人々の気持ちだと思い受け取って下さい」
兵庫は懐から一つの包みを取り出し開いた。
「裸金で申し訳ありません。皆さんには三両です。ちなみに侍は怪我も無く終わりましたので五両です。ご理解ください」
 兵庫は一人一人名を呼び、金を手渡した。
「これから、隣、源次郎さん、辰五郎さん、押上とお礼を言いに参ります。皆さんは慣れぬ事をした疲れを取る様にして下さい」

 隣の養育所に入ると、内藤の妻・お雪が留守番を兼ね針仕事をしていた。
「内藤さんは未だですか」
「先ほど戻りましたが、お連れしました石松さんと日本橋富沢町に出掛けて居ます」
「それはご苦労様です。此度の一件でお礼を渡しますので乙次郎さんと仙吉さんを呼んで下さい。お雪様も同席お願いします」
座敷で待つ兵庫の前に三人が座った。
「此度は仲間割れにより九人が殺され、事件が明るみに出ました。未だ裁きの方は始まって居ませんが、私が裁きの対象として呼ばれることは無いと思って居ますので、そちらは心配しないで下さい。集まって頂いたのはお礼を渡すためです。竜次の家から持ち帰った金は小判が三百十二両、他に数えてはいませんが銀などが二百両ほどだそうです。その中からお力を頂いた方、およそ三十人にお礼をすることにしました。残金は被害を受けた店や人の為や養育所の為に使う予定です」
 こんな調子で兵庫は源次郎、辰五郎のところを回り、押上に戻ると甚八郎、近藤、常吉を自室に呼び金を渡し、残った己の五両を、様子を見ている志津に手渡した。
「有難う御座います」

 その頃、内藤虎之助は料理屋たまいの主に復帰した石松と富沢町の大家和平の家に小菊ら女たちを集め話し合って居た。
「石松さん、預けたお金を返して戴けるそうですが、幾らだか分かるのですか」
「みせに帳簿が残っていれば良いのですが」
「それでは行きましょう」

 舞台が料理屋たまいに変わった。
石松がにこにこ笑みを浮かべ、帳面を持ってやって来た。
「皆さんから預かっている金額が載っています」
それを聞き女たちが喜んだ。

 ←のボタンを押すと幸せになりますよ。わたしが。

Posted on 2016/01/22 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第80話 雨宿り(その38】 

 八丁堀からの戻り道、兵庫が馬喰町二丁目までやって来ると十文字屋を出入りする幕吏を見守る定廻り同心・平岡銀次郎の姿があった。
兵庫は今回の事件の中で分からない事が在ったため、歩み寄って行くと、平岡が気付き軒下へと兵庫を誘った。
「どうやら八丁堀からの帰り道の様ですね」
「はい、お手柄は平岡殿と私たち養育所の者で頂きましょう」
「お手柄を挙げても・・・」
「此度の事件は間違いなく平岡殿の名を日本橋の町人に覚えさせます。勿論良い意味です。仕事がやり易くなり、手伝う人も増えますよ。そうは言っても軍資金が無いと人は集まりません。その軍資金が流れ星から浮橋に届いて居ます。昼飯を食べに行ってください」
「それは、正直有難いです」
「ところで、栄五郎が竜次を殺した分けが今一つ分からないのです。何だったのですか」
「この辺りの町人は竜次より栄五郎を恐れていたのです。このことが栄五郎に竜次の下に居るのを止めさせる気持ちを芽生えさせたようです。栄五郎は竜次の事を“目の上のたん瘤”と調べの中で言っていました。竜次には新門に備えると云い助っ人を集めていましが、敵は薬研堀に在りだったのです。竜次らを闇に葬ろうとしていたのです」
「だいぶ見えてきました。そのお膳立てを流れ星が作った訳ですね」
「そう云うことです。栄五郎は目的を果たしたが、月末の闇の中には葬れなかった。鐘巻さんの罠に嵌り、御用提灯が待って居た」
「ところで、十文字屋はどうなりますか」
「もとの主の上州屋紋次郎の名が載った沽券状も竜次が持って居た文箱に入っていた。紋次郎は浅草で楊枝売りをしているらしいので、探し出し事情を聞き条件を付けて戻すか、闕所(けっしょ)扱いにして入札(いれふだ)になるでしょう。ほかに竜次の家も入札に成る筈です。九人も殺されたと成るとまともな者は買わないでしょうから、鐘巻さんどうですか」
「まともでない者がもう一人居るので話をしておきます。薬研堀に面して居るのと、坊主修業していますし、初めて抱いた女が土左衛門ですから、きっと入札に参加するでしょう」
「山中さん、若いのに落ち着いている訳が分かりました」
「もう一つ、竜次の妻・浪江はどうなりますか」
「手配は掛からないでしょう」
「それを聞いて安心しました。お尋ね者を匿うことにならなくて」
「養育所に逃げ込んだのですか」
「助けを求めた栄五郎が竜次を殺すと知って逃げたのです」
「悪い評判は聞かないので、男運が悪かっただけかもしれません。養育所には良い男が居ますから世話をしたら如何ですか」
「浪江さんは妻に預けてあります。眼鏡に適えば良いのですが」

 平岡と別れた兵庫は再び船宿浮橋に立ち寄った。
「兵さん待って居ました。金を渡します。幾らですか」
「侍五人、町人十人で五十五両です。奉行所関係は昼頃来ると思うので渡して下さい」
「分かりました」
「平岡さんから、竜次の家の入札が先々行われると言って居ました。九人死んでいるので安く手に入るだろうとのことでした」
「それ手に入れたいですね」

 兵庫は受け取った五十五両を懐に駒形に向った。

 ←のボタンを押すと幸せになりますよ。わたしが。

Posted on 2016/01/21 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学