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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第92話 転進(その19)】 

 屋敷内に入った坂牧は家に上がらず、兵庫の案内で居間の縁先に回った。
「矢五郎さん、坂牧です」と声を掛けると、障子の影から矢五郎が顔を見せた。
「何か在ったようだな」
「はい、庄吉、金次と五平の三人のやくざ者が堅川沿いの柳の根元に晒されました。晒を多く見て来られた矢五郎さんに検分して頂きたく参りました」
「両国橋ではなく、堅川沿いか、・・・もしかすると・・直ぐ支度をする」
 矢五郎は何か思い当たることでも在る様子で、奥に引っ込んだ。

 屋敷を出ると坂牧と矢五郎が並んで歩き、時折小声で話を交わしていた。
兵庫は縁のある小悪党の三人が誅殺されたことの他に、現役の定廻りが引退した者に相談に来ることも異常なら、相談された矢五郎が漏らした「・・もしかすると・・」の言葉に事件の奥深さを感じ、二人から離れた後ろを歩き、ついていった。

 着いた現場は相生町で、葦簀(よしず)が周囲に立てられ、野次馬の目から現場を隔てていた。
その葦簀の中に入る時坂牧が、
「中川殿と鐘巻殿、検分をお願いします」と二人を誘い入れた。
 柳の根元を枕に横たわる三人の男は扼殺されたようで目立った怪我は見当たらなかった。
そして三人の名と誅殺された訳が書かれた板が柳に打ち付けられていた。
「鐘巻さん。この三人、名前の者で間違いないか」
「三人は見覚えの在る顔です。また書かれている名もこの三人の名でしょうが、私には誰が庄吉か否かは分かりませんが、住んでいた所は分かるので大家に聞けばよいでしょう」
「そうする。鐘巻さん、忙しいところ呼び出して済まなかった。お引き取り下さい」
と坂牧に言われ、兵庫は葦簀の外に出た。
葦簀の中からは坂牧と矢五郎の声が聞こえて来た。
「・・・・みのだ」と矢五郎が発した言葉が妙に兵庫の頭に残った。
が、それ以上に妙なのは、誅殺されるほどの悪党とも思えない三人の末路だった。
三人に本所深川に戻るなと云ったのだが、それが出来ず舞い戻った。新しく生きる場所に転進できなかった三人が哀れだった。
 新天地に武者修行に出た逸見与八郎、大怪我も癒え始め大屋敷を預かった中川彦四郎、八丁堀に剣術修行、武家見習いに出た文吉と巳之吉、深川永代寺門前町に開設する子供預かり所を引き受けた網吉、武家としての名誉が回復したことが伝えられ気力を戻した猪瀬阿佐など、転進が適うことを兵庫は願った。

第九十二話 転進 完

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Posted on 2017/01/12 Thu. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第92話 転進(その18)】 

 薬研堀の子供預かり所を出た兵庫は、開設した子供預かり所に手ごたえを感じていた。
と云うのは、先ほど行った薬研堀で、帳場で遊ぶ幼い子供たちが午前より増えて居たからだ。それは幼い子が居て困って居る親が多いということに他ならなかった。
 幼い子に困って居る親を放置しておけば、何人かが売られ、捨てられるのだ。そのことを今、養育所で預かって居る二十人以上の子供が物語って居るのだ。
兵庫の頭の中は、子供預かり所を充実させることで、売られ、捨てられる子を減らす方が良いのではないかとの思いが膨らんでいた。

 永代寺門前町の涛屋に入ると、帳場には一枝が居た。
「継志館子供預かり所開設の支度金として十両持参しました。宜しくお願い致します」
「確かに受け取りました。今、うちの旦那が網吉さんを連れて、置屋や主だった料理屋に預かり所を開く挨拶に出かけています。どれだけ協力を得られるか、雇い主の思惑が在るので、解りませんが、親の気持ちを掴むためには早く良い評判が立つようにしたいですね」
「そうですね。お話で気になったことですが、雇い主の思惑とは何ですか」
「子が質に成って居る場合が在ると云う事です」
「なるほど、複雑な関係ですね。私はこれで戻ります。近々、看板を届けますので宜しくお願いします」

 ここ数日、中之郷元町、板橋、八丁堀、深川永代寺門前町、薬研堀と出かけた。
その行き先々は、兵庫にとって大事な者が新しい生き方に向かっての転進する地になった。
そして嘉永六年八月二十二日(1853-9-24)、朝が明けたが、今日、兵庫には予定している行先は無い。
 朝稽古、朝食と手順を踏み、食後の一服も兼ね薪割を始め、稽古相手がやって来るのを待った。
駒形あるいは中之郷から来る者が居るとしても、四半刻(約30分)は掛かるからだ。
用意した薪を割り終り、片付けているとやって来たのは定廻り同心の坂牧だった。
「この時間に来るとは、事件が起きたようですね」
「ああ、矢五郎さんは居るか」
「中川家の方々は手に入れた中之郷元町の屋敷に引っ越しましたので、ご案内いたします」
「頼む」
 行先を甚八郎に告げ、兵庫は押上の養育所を出た。
「坂巻殿、どのような事件が起きたのですか」
「男三人が殺され、堅川の柳の根元に晒されたのだ」
「晒されたと云うことは、その訳が残されていたのですか」
「三人の名前と江戸の平安を乱した故に誅したと書かれていたよ」
「平安を乱したがよく分かりませんが、それで殺すとは・・。殺された男の名は?」
「庄吉、金次と五平の三人だよ」
「そいつらは逸見与八郎さんの元腰巾着やくざではないですか。確か十九日の夕方に永代寺門前町に現れたので、網吉が懲らしめ追い払った後、姿を現しませんでした」
「今、三人を殺した者の目星が全くついていない。そんな中で、三人と利害の在る者の筆頭は鐘巻さんたちだ。わしは鐘巻さんを疑わないが、そのためには真犯人の目星を付けなければならぬ。その糸口を探すために来たのです」
「矢五郎さんが糸口を探すのに役立つのですか」
「勘です」
 話しながら二人は中之郷元町の町屋の中に建つ、武家屋敷の前に来た。
「ここですよ」
「中之郷と聞いたから町屋を手に入れたものと思って居たが、この広い屋敷とは思ってもみなかった」
「入りましょう」
兵庫が脇門を押すと開いた。

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Posted on 2017/01/11 Wed. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第92話 転進(その17)】 

 押上への帰り道、兵庫は先ず、神田川を渡り平右衛門町で船宿・浮橋を営む山中碁四郎を尋ね、猪瀬家のことで礼を言った。
「宮古屋の一件では、斬り込んで死んだ勝手方の者が貧乏くじを引かされたが、その悪事を証明すべき宮古屋の主だったものや、雇われ浪人が皆、死んでしまった。勝手方と一緒に斬り込んだ奉行所の中川彦四郎殿は大怪我でお役を辞したが、奉行所からはそれなりの見舞金が出たと聞いています。同じ仕事のために死んだ猪瀬の倅は評価されるどころか罪人扱いで、残された家族は屋敷を追われた。これでは将来勝手方のために命がけで働く者が居なくなることを言ったまでです。その後は定廻りの平岡殿が上手く動いてくれたのです」
「陰に隠れるようにしていた阿佐殿が、先ほど寄った時は外に出て子供たちを見て居ました。子供たちにも陽が当たって居ました。預ける親も子の笑顔を見れば安心します。私も安心しました」

 その後、駒形の養育所に立ち寄り、内藤虎之助に、深川永代寺門前町の涛屋に薬研堀と同じように継志館子供預かり所を開設し、その留守居役を網吉に頼んだことを告げ、掛け看板を頼み、支度金十両を受け取った。

 更に兵庫は大川を渡ると、中之郷元町の中川彦四郎を尋ね、猪瀬家の名誉が回復したことを告げ、押上に戻った。
妻の志津に、永代寺門前町に子供預かり所を開設すること、薬研堀の猪瀬家の名誉が回復したことを先ず伝えた。
「猪瀬様、さぞかしお喜びでしょうね。お歳ですので頑張りすぎないようにしないといけませんね」
「阿佐殿に気がかりなことが在るとすれば、孫娘のことでしょう。その孫を養育所で引き取り面倒を見ようと思って居ます。そのために同じ年頃のお玉を送り養育所でも習い事が出来ることを分かってもらうつもりです」
「お玉は体が弱かった分、遊びより手習い芸事に励みましたから出来過ぎぐらいに育ちました。申し分ない人選ですね」

 昼食時に兵庫が、
「先日は文吉と巳之吉が八丁堀に行き、剣術や武家暮らしの修行を始めました。今日の知らせは急ですが、食事後、お玉に薬研堀に開いた継志館子供預かり所に行って貰い、幼い子らと遊びながら躾けて貰います。期間は今月一杯です」
 急に名指しされたお玉が、
「一人で?」とやや寂しそう。
「一番小さなお玉が行ってくれれば、今後、他の者が行く時、嫌とは言えなくなるからな」
「今後?・・て何処ですか」
「深川永代寺門前町にも継志館子供預かり所を開きます。預かる子供が集まったら、世話人が決まるまで順番に行って貰うことになります。ところで、お玉、行って貰えるかな」
「はい、兄上様」

 お玉の着替えなどを持った兵庫、一旦山中碁四郎と会い、お玉が預かり所暮らしをすることを伝え、見回るようにたのんだ。
そして、薬研堀の子供預かり所に行くと、外で遊ぶ子は居らず、家の中から子供たちの声が漏れ出ていた。
 家の中に入ると、
「婆様、お玉ちゃんが来たよ」と遊び場に成って居る帳場に居たお鶴が、奥に向かって叫んだ。
阿佐が手を拭きながらやって来た。
「お婆ちゃん。何していたの?」とお玉が訪ねた。
「皆が食べたものの片付け。今はお茶碗を洗っていたのよ」
「お鶴ちゃん! 何故、お婆ちゃんを手伝わなかったの」と厳しい口調だった。
「お鶴は手伝おうとした・・・お婆ちゃんが・・・」と云い、べそをかいた。
「お鶴ちゃんは良い子。でもお婆ちゃんが・・・。兄上様、お玉はここに居たら、お手伝いもしない悪い子に成ってしまいます」とお玉は悲しそうに兵庫を見上げた。
「お玉もお鶴も良い子で居られるよ。ほら、お婆ちゃんが御免なさいしているよ」
「お玉ちゃん、お婆ちゃんはお片づけを皆でする、やり方を知らないの。教えて頂戴」
「お玉。私はこれから永代寺門前町に開設する継志館子供預かり所に行きます。お婆ちゃんを助けなさい」
「はい、兄上様」
 幼いお玉に後を任せ薬研堀から去っていく兵庫の厳しさに、阿佐は言葉を出せず見送っていた。

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Posted on 2017/01/10 Tue. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第92話 転進(その16)】 

 涛屋を出た兵庫は四半刻後には薬研堀に継志館子供預かり所の看板が掛かる浪江と銀太の家にやって来た。家の前では子供たち六人が遊んでいて、それを猪瀬阿佐が縁台に座り見ていた。
「阿佐殿、お久しぶりです。仕事は慣れましたか」
「鐘巻様、色々と有り難うございました。お陰様で猪瀬家の名誉が回復いたしました」
「そのことは知りませんでした。話して頂けませんか」
「後で山中様から聞いたことですが、屋敷を追われた私と孫が、路頭に迷っているのを鐘巻様のお情けで、家と仕事を頂いていることが、日本橋の定廻り同心の平岡銀次郎様に山中様から伝えられたのです。平岡様は、蛎殻町銀座で殺されていた我が家の嫡男守之助とそれを確かめに行った弟・伝次郎に会って居るそうです。
 また、倅・伝次郎と共に宮古屋に斬り込み大怪我をされ、奉行所を去られた中川様のご一家も鐘巻様の所で養生成されているなどが平岡様に伝えられたとのことです。
その後、平岡様がどのように動いたか、山中様は御存じないとのことでございます」
 兵庫は頷き、
「猪瀬家の名誉回復の内容は、差し支えなければお聞かせください」
「先日、勝手方の方が参られ、過日の沙汰は混乱の中で性急になされたもので、改めて吟味し直したところ、猪瀬守之助殿に何らの落ち度も見当たらず、また伝次郎殿の斬り死にも武士の誉れと見直されました。屋敷を出た残された猪瀬家の者の行方を捜したところ、奉行所からこちらに居ると聞き、参りましたとの口上で始まりました。そして武士としての名誉回復と、これまでの貢献と見舞金として百両を頂きました」
「ご子息の名誉が回復されたことは喜ばしいことです。ご子息の菩提を御弔い下さい」
「はい、これも鐘巻様に拾われたことと、鐘巻様には頼りになるご友人が多く居られるお陰で御座います。大したお礼は出来ませんが、背一杯働きたいと思って居ます」
「有り難うございます。ところでここで預かる子供は、今遊んでいる子の他に居ますか」
「はい、働く女で忙しくなるのは午後から夜の者も居ますので、あと四・五人居ます」
「皆、幼子ですか」
「はい、五・六歳になると親の手数が掛からなくなるようです」
「それでは、お孫の鈴や多美が物足りないでしょう。暫くお玉を泊めさせて下さい。白紙だったお玉がこの一年足らずで学んだことを見て、お孫さんに養育所で学ばせることが在ればお預かりいたします」
「有り難うございます。もう習い事を始めねばならない歳ですのでお願いに参ります」
「わざわざ、お越し頂かなくても宜しいのですよ」
「中川様にも、お礼を言わねばなりませんので」
「分かりました。ただ、中川家の方々は先日、養育所を出て近くの屋敷に引っ越されました。養育所の仕事をお願いしていますのでご案内致します」
「中川様が引っ越しを・・そして養育所の仕事を・・と云う事は彦四郎殿の傷はだいぶ良くなられたと云う事ですね」
「はい、ただ、まだ包帯を全て取れるほどでは在りませんが、もう心配は要りません」
「良かった。お話を伺い喜びも倍増しました」
「様子が分かりましたので、私は戻りますが午後にお玉を連れて来て宜しいですか」
「えっ、午後に、お玉ちゃんをですか」と兵庫の早すぎる対応に阿佐が声を高めた。
それが、遊んでいた子供にも聞こえた。
「お玉ちゃんが来るの」と云い、遊ぶのを止めて、一時養育所で暮らしたことのあるお鶴が寄って来た。
「はい、午後にね」と応えたのは阿佐だった。
「それでは、午後に連れて参ります」と兵庫は薬研堀を後にした。
 兵庫は阿佐の心が過去から抜け出し、未来に向き始めていることを感じた。
それは阿佐にとって転進だと思えた。

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Posted on 2017/01/09 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第92話 転進(その15)】 

 一夜明けて、二十一日、朝稽古、朝食と手順を踏んだ兵庫は、養育所を甚八郎、常吉と乙次郎に任せ外出した。
行先は、永代寺門前町の涛屋重吉への頼みと、薬研堀に開いた継志館子供預かり所を訪ね、猪瀬阿佐に話を聞くためだった。

 涛屋に入ると、静まった帳場には重吉の妻となった一枝が一人座り、帳簿付けを行っていた。
「鐘巻様、いらっしゃいませ」と云い、茶を淹れようと立ち上がった。
兵庫はその後姿に向かって、
「重吉殿はお出かけですか」
「はい、品川沖に台場を作るとかで、その杭を運ぶ人足が集まらず、自ら船に乗って居るのです。間もなく戻ると思います」
「品川沖に台場ですか。幕府も動き出し始めましたね。商売繁盛の様で結構なことです」
茶を淹れて奥から出てきた一枝が、
「重吉に何か御用でしょうか」
「この家は広いので、一部を借りようかと思ったのです」
「何に使うのですか」
「この辺りは花街です。働く女の中には幼い子を抱え十分働けない人がいるでしょう。その子を預かることで、女の収入が増え次の転進に役立つでしょう。もしそれが適わなくても預かった子供は育ち、自活の力を付けるでしょう」
「養育所の子を見れば、その事は明らかですね。ただ、この家を使って頂くのは結構ですが、主の重吉までが出張って居るありさまです。子供の世話をする者が居りません」
「そのことは分かって居ます。こちらの留守居役は網吉さんに頼み、世話については預かる子供の年齢を見ながら、養育所から人を出すつもりです」
「それでしたら、取り敢えず一階の一部屋を空けておきます」
「良い返事を貰えたので、これから網吉さんにお願いし、重吉さんが戻られたころ合いを見計らってまた参ります」

 涛屋を出た兵庫は、参道に出て網吉を探した。入口の大門の方を見て見当たらないのを確かめると、足は富岡八幡宮に向いていた。
その入口の鳥居をくぐり橋を渡り堀内に入って行くと、少し離れ参詣客の様子を見ている網吉の姿があった。
網吉も、社に向かわずに己の方に歩み寄って来る蔭に気付き、それが兵庫であることを知ると、歩み寄って来た。
「先生自らとは、何か不都合が・・」
「話は常吉さんから伺いました。不都合どころか好都合です。今、養育所では浮浪の子を収容することの他に、幼い子連れでは働き辛い者たちのために、子供を一時預かる仕事を始めています。最初に開き看板を掛けたのは薬研堀で猪瀬の婆様にお願いしています。駒形にも開く予定です。他にはここ永代寺門前町にも涛屋の一部屋を借りて開くことにしました。その預かり所の留守居役を網吉さんにお願いしようかと、もちろん世話をする手助けは養育所で手配します。やって頂けますか」
「新参の渡しで宜しいのですか」
「新しい仕事ですから、新参古参は関係ありません。それに深川は網吉さんの寝床のような所。花街の事情も知って居るでしょう。これまでの人脈を生かせば困って居る人がどこに居るかは直ぐに探せるのではありませんか」
「分かりました。やらせてもらいます」
「良かった、そろそろ重吉さんも戻られるでしょうから涛屋に参りましょう」

 二人が涛屋に戻ると、重吉と一枝が兵庫等を待って居た。
「鐘巻様、話は一枝から聞きました。結構な話ですが物入りですな」
「多少でも払える人からは頂きますが、足らない分は以前、悪党から頂いた金を使います」
「悪党が聞いたら、無駄な飲み食いに使う前に奪われたことを喜ぶでしょう」
と云い、悪びれることなく笑って見せた。
 涛屋重吉は十八屋の頼みで悪事を働き、仕返しに兵庫等に押し入られ十八屋と合わせて千両程を一種の示談金として召し上げられたのだ。奉行所が絡めば良くて遠島、悪ければ首が飛ぶだけに受け入れざるを得なかったのだ。
「重吉殿、子供預かり所は網吉さんに任せるつもりですが、顔の広い重吉殿にもお手伝いをお願いします。子供のみならず苦界で体を壊し働けない者も引き取り、ここで働かせるのです。困って居る者同士が助け合う場を作って欲しいのです。この困困互助は押上でも成果を出していますので」
「分かりました」
「頂きました悪銭は浄財として明日にでも先ずは十両ほどを戻します。一枝殿、継志館子供預かり所として別帳簿を付けて下さい」
「はい、喜んで」

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Posted on 2017/01/08 Sun. 04:01 [edit]

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