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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第104話 掟破り(その38)】 

「矢五郎さんが待って居たわけですね」と兵庫が感を働かせたかのよう言った。
「はい、我らの他に熊吉、弥三郎を加えた四人が呼ばれ、色々と聞かれた訳ですが、はっきり言えば東芝寺には何にもないわけで、仕方なく妓楼に行く途中で商家に消えた坊主の話をしたら、その坊主のことを色々と聞かれました」
「色々とは」
「外出した坊主のことですが、日が落ちてから後を付けた訳ですから、顔は分からず、何とか応えられたのは風体をについてでした」
「そしたら、“明日、夜が明けたらその商家に行くぞ”と言われ、朝飯抜きで中之郷の屋敷を出たのです」
「そしてその商家に着くと、その店だけが暖簾を出していないので、近所の店に、“用が有って来たのですが暖簾を出すのはいつですか”と聞いたのです。そしたら、その親父が“おかしいな、まだ出して居ませんか。おはまさんはわしらより早いのですがね”どこか調子でも悪いのですかねと外に出て、名を呼びながら戸を叩いたのです。返事が無いので戸の閂の外つまみを横に引き、押したら開いたのです」
「そして悲鳴でも上げましたか」
「はい、薄物を着た坊主頭が切られて伏せていたのです。その後の話はこんな按配でした」

 矢五郎が店の中に入り、悲鳴を上げた親父に
「この家に居るのは何人だ」
「それが、後家のおはまさん一人ですが・・・」
「そうか、見て来る」と云い、矢五郎は雪駄を脱ぎ奥へ入っていったがすぐ戻って来た。
「女は大したことは無いようだ。そこの親父さん。私は元南町の者だ。番をしているので、自身番に届けてくれ」
「分かりました」

「親父が出て行ったので、殺されている坊主は間違いなく東芝寺の胤栄だと矢五郎さんに教えました」勝太が教えた。
「ここまでが、私と勝太が今朝方見聞きしたことです。その後、熊吉が山中様を呼びに、勝太と私が東芝寺に鐘巻先生が来るので連れて来てくれと矢五郎さんにたのまれ、先生が来るのを待って居たんです」と夏吉が説明を終えた。

 矢五郎が坊主頭の男が薄物を着た姿で後家の家で殺されていたのをいち早く見つけることが出来たのは朝飯前に中之郷を出た御蔭だが、何がその様な行動をさせたのかは兵庫には分からなかった。
 おはまの店近くまでくると、かなりのやじ馬が出ていて遠巻きにしていた。
見せの表に矢五郎と弥三郎が立って居るため近づけないのは、矢五郎の風体が見るからに奉行所同心に見えるからでもあった。
兵庫等が囲みの中に入って行くと、矢五郎が手招いた。
近づくと、
「未だ奉行所の者は来ていない。来る前に見て下手人の手掛かりを聞かせてくれ」
兵庫が中に入ると、聞いた話の通り薄物を地に染めた若い坊主が突っ伏していた。
肩口の傷は致命傷には思えない。左脇腹当たりに血だまりが有りこれが致命傷になったようだった。
兵庫としては服を脱がして検分したいのだが、それは奉行所の仕事であり、手を触れることはご法度で出来ない。
 そこに碁四郎がやって来た。
「好胤の倅・胤栄です。奥に後家さんが居るそうです。怪我はしてないとか」
「男は殺しても女は無傷ですか・・・」
「変かもしれませんが、少し言葉を変えれば、ごく当たり前になりますね」
「それでは咎人が増えてしまいますよ。自業自得で良いのではありませんか」
「それでは、町の評判を聞いて決めましょう」
「異議なし」

 外に出た兵庫と碁四郎は、
「矢五郎さん、見立は、後家さんの評判を聞いてからにします」
「それなら、もう聞いてあるよ。悪く言うものは居なかったよ」
「それならそれが私たちの見立です」
「分かった。久坂もそうしてくれるだろうよ」
「それでは、後はお任せしますが、ひとつ教えて下さい」
「なんだ」
「朝飯も食わずにここに来た訳はなんですか」
「それは、立派な姿の坊主が、夜間にこの店に来る用が有るともうか。買い物なら寺男に任せればいいだろう。任せられない用が有るからでしょう。それが何か知りたかったのです」
「何となく、分かった気に成りました。では」

 現場を離れた兵庫は碁四郎に
「私たちは女に優しいな」
「男に優しい女を妻にしたからですね」
「それは少し言い換えた方が良いのではないですか」
「どのように」
「男に優しい女の夫にさせられたではいかがですか」
「確かに」笑いが起きた。
「私たちは掟を破らずに、居心地の良いところに長く居たいものですね」

第104話 掟破り 完

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Posted on 2018/01/28 Sun. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第104話 掟破り(その37)】 

 わずかな時間だが冷たい床に正座させられた男の子たちに兵庫が、
「膝を崩しても構いません。楽にしなさい」と云い、自らも膝を崩した。
それが、足だけではなく子供たちの顔そして口もゆるめさせた。
「寺子屋って何ですか」と霧丸が尋ねてきた。
「主に町人が読み書き算盤などを学ぶ所で、寺が多く使われたことで、寺子屋と呼ばれるようになったようです。他に聞きたいことが在りますか」
「侍はどこで学んでいるのですか」
「私は屋敷で父・母・兄から学びました。また学問所が在るので、そこに通い学ぶ人、他に町には学問を教えることを商いとする人も居ますので、自分の習いたいことが在れば師を選んで教えを乞うことも在ります。私は学問ではなく剣術を学ぶ道場に通いました」
「勘八やわかめは寺子屋に通って居るのか」と雲丸が尋ねた。
「私は、住まいが中之郷にありますので、剣術朝稽古や学問、他にやりたい作業も先生や教授方の居られる押上に通って居ます」と勘八が応え、続いてわかめが
「女の子は何でも揃って居る押上に居るので楽ちんです」
「寺子屋でも剣術を教えてくれるのですか」と風太が寺子屋より興味のあることを確かめてきた。
「勿論、剣術は教えます。寺子屋にしても他の芸事にしても教える者を揃えなければなりません。その前に剣術を学ぶために最も必要な礼儀作法を身に着けて下さい」

 子供たちと兵庫が話し合って居ると、女の声がして戸が開けられた。
「あら、先生に奥様、それと・・・」
「挨拶は後だ。皆、上がりなさい。男の子は女の子に座を譲りなさい」と竜三郎が指示した。
風呂上がりの身体を冷やさないように、皆、重ね着し、上着には綿入れを羽織って居た。
「先生、お願いします」と竜三郎が兵庫を促した。
「私は訳あって、養育所を開いている鐘巻兵庫と申します。隣に座るのが、妻の志津です。その隣は志乃殿です。その隣の子供は先日まで皆と同じで、ここに居た勘八とわかめです。ここに来たのは、皆を養育所に迎えたいのです。そのためには礼儀正しく振る舞って貰わないと困るのです。悪い評判が広がるからです。そうならないように、こちらの志乃殿に従い武家の礼儀作法を身に着けて下さい」
「真似ごとでも出来るように成ったら、寺子屋に通って貰い先ずは仮名の読み書きを習って貰います。頃合いを見てここから養育所に移って貰います。その時、皆は私の子として届け出を出します。そうでしたね、わかめ」と志津がわかめを見た。
「はい、母上様」
「それでは、皆の髪を私が直して上げます。旦那様はお寺の方に行って来て下さい。帰りに寄って下さいよ」
「そうします。志乃殿、子供たちを宜しくお願いします」
「はい、和尚様に宜しく」

 入谷を出た兵庫は高田寺に寄り、寺男の次作の小屋を訪れた。
「その恰好では葬儀には出ませんね」
「一度も会って居ませんので、遠慮します。今日は、数日後に寺子屋を開くことに成りますので、子供たちのことお願いしに参りました」
「子供でしたら、歓迎しますよ」

 高田寺を出ると兵庫は東芝寺に向かった。
高田寺で起きた殺人事件に興味を持った中川彦四郎が父の矢五郎を差し向けようとしたのを止めさせる代わりに、未だ何も起きていない東芝寺を見て貰うことにしたことが気に成って居たからだ。
 しかし、東芝寺に着くと勝太と夏吉から
「ここの和尚の倅の胤栄が殺されているのを矢五郎さんが見つけました」
「もう少し見つけるまでの経緯を話して下さい」
「先生がここに来るから連れてこいと云うもので待って居ました。現場に着くまでには話は終わります」と歩き始めた。
「矢五郎さんが見つけたとなると、その現場は妓楼では在りませんね」
「はい、昨夜寺の門外で坊主が出て来るのを待って居ると、一人の男が門を開け出てきました。提灯は下げていましたが、誰かは分からず付けて行くと、妓楼に着く前に商家に入りました。何か用が有って立ち寄ったのだと思い、出て来るのを待って居たんですが、灯りが消えてしまいました。暫く様子を見続けたのですが出て来ないので屋敷に戻りました」

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Posted on 2018/01/27 Sat. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第104話 掟破り(その36)】 

 向島や中之郷元町の養育所からやって来ていた子供たちが夕食のため子猫を抱き戻って行った後、押上でも子供たちが広間に集められ夕食が始まり、そして終わった。
子供たちの中には数日前までは満足に食事も摂れない浮浪暮らしをしていた子も居るのだが、なんの争いも起こらなかった。
自分の食事が確保されていることの安心感と、ここでの暮らしの長い子が、ゆっくりと食べている様子を真似て食べることで、食事の旨さをより感じたためでもあった。
兵庫は子供たちの順応性の高さに感心した。

 食後部屋に戻った兵庫は志津に、
「竜三郎さんの所に今、二十三人の子供が居ますが、未だ増えるでしょう。寺で読み書き算盤を教える準備が整うまでに多少の日にちが掛かります。その前に、礼儀、行儀を教えましょう」
「分かりました。竜三郎さんの所には女の方が多いとのことですから、いわゆる田舎組と思われます。私と志乃殿が行きますので誰か田舎組の男の子と女の子を一人ずつ選びましょう。連れて行き模範を見せますので」と志津は、子供たちを順応させるには、既に順応した子供たちを介在させるのが有効であることに気付いて居た。
「男の子は勘八にしますが、女の子は・・・」
「わかめにします」

 一夜明けた嘉永六年十月二十三日(1853-11-23)、いつものように朝稽古に集まり、時が流れ朝食を摂りにそれぞれの屋敷に戻り、再び学びの場となって居る押上に子供たちが集まった。
子供たち全員と志乃が広間に集められた。
「入谷の竜三郎さんの所に二十三人の子供たちが身を寄せています。出来るだけ早く皆と同じように読み書き算盤や稽古事を学ばせたいと思って居ます。ただ、ここ押上は手狭になって来ています。幸いお寺を借りられることに成りましたので学問はお寺で致します。
しかし、お寺はここよりも礼儀作法が厳しいので、今日から志乃様、勘八、わかめの三人に入谷に行って貰い、子供たちに礼儀作法を教えて貰います。三人には私と妻の志津も同行し、子供たちを励ましてきます」

 押上を出た兵庫らは幼いわかめの足に合わせて休むことなく歩き、入谷の店に着いたが
暖簾は出て居なかった。
 兵庫を先頭に見せに入ると、板の間に竜三郎と男の子たちが出て藁仕事をしていた。
「先生」と竜三郎が第一声を上げたが、志津、志乃、勘八、わかめが次々と入って来るのを見て立ち上がった。
「勘八だ」と男の子の中から声が上がった。
「竜三郎さん、寺子屋の場を貸してくれる寺が見付かりました。それまでに礼儀作法を身に着けて貰うため、こちら志乃殿と先日までここに居た勘八とわかめの力を借りることにしました。それまでこちらで暮らしますので頼みます」
「分かりました。皆、聞いての通りです。藁仕事は止めます。片付けなさい」
男の子たちが片付けそして雑巾がけをするのを見ながら、
「女の子は?」
「朝の商いが一段落したので、おときが風呂に連れて行っています。もうすぐ戻って来ますよ」
「それでは、待たせて貰います」
清められた板の間に兵庫、志津、志乃、勘八、わかめが正座した。竜三郎も正座したのを見て、先程まで胡坐(あぐら)をかいて藁仕事をしていた男の子たちが、今度は正座して兵庫等と向かい合った。
「私たちのことは女の子が戻ってきたら紹介しますので、先に皆の名前と歳が分れば教えて下さい」
「今並んで居る順で良い。私の隣からにします」と竜三郎が言った。
「霧丸です。十二歳」「雲丸です。十一歳」「風太です。十歳」「春吉です。十歳」「夏次郎です。九歳」「木久蔵です。七歳」「鳶丸です。七歳」「石蔵です、八歳」「豆吉です。六歳」「浅次です。五歳」と十人が聞かれることが分っていたか、流れるように名乗りあげた。
「奥様、二十三人の子供たちのことは書いたものが在りますので、後ほど書き移しを作っておきます」と竜三郎が言った。
「有り難うございます」

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Posted on 2018/01/26 Fri. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第104話 掟破り(その35)】 

 駒形で内藤と話を済ませた兵庫は次に中之郷元町の養育所に寄った。
留守居の中川彦四郎に頼むことが在ったからだった。
「彦四郎さん、高田寺の方は昇龍院の館主・恵空が殺されて終わりました」
「殺された・・それで和尚はどうしましたか」
「事件は隠さず寺社方に届け出た上で、恐らく金を使い表向きは闇に葬ったようです。それで恵空を派遣した本山に恵空の名誉を守ったという貸を作り、代償として恵空の座を手に入れる算段のようです。お陰で、事情を知っている私に昇龍院を寺子屋として使わせて貰えるように成りました。他に茜楼から五十両と亡くなったことにした女の証文を焼き捨てさせました」
「それは上々の首尾でしたね」
「はい、寺子屋を開くために、草加宿の道場に預けている新藤さんと天道さんを呼び寄せ、竜三郎の所に預かって貰っている子供たちの指導をさせます。その呼び寄せに明日の朝食後子供たちを押上に届けた後、その足で草加宿に出向いて貰います。またこちらでは、呼び寄せた新藤殿と天道殿を暫く預かって頂き本人の意向を聞いて頂き、了承して頂いたら正式に私の方からお願い致します」
「分かりましたが、恵空殺害の下手人が気に成りますが探させましょうか」
「探し出したことで、高田寺に不都合が起きると寺子屋の件がご破算に成りかねませんので、矢五郎さんには東芝寺の方を弥三郎さんらとお願いできませんか。坊主は寺から出ますのでやり易いかと思います。ただ、矢五郎さんにお願いするような事件が起きそうも有りませんが」
「いや、親父は鐘巻さんは事件を嗅ぎつけ忍び寄る天才だと申していますので、喜ぶと思いますよ。今日、弥三郎らが戻ったら話を聞くことにします」

 押上に戻ると、子供たちを見守る仁吉に、明日、草加宿に行って貰う事で、彦四郎に話したことを伝えた。
更に、彦次郎に会い、高田寺に開く寺子屋のために文机二十三以上作るように頼んだ。

 部屋に戻り一息入れて居ると、幼い女の子たちがやって来た。
「兄上様、お帰りなさい。あおとちゃがお別れの挨拶に参りました」
と牡の子猫を兵庫の前に置いた。
兵庫は子猫の目を見て
「似たような猫だが、なるほど目の色が青と茶だな。良くここまで育った、ふく(母猫の名)も頑張ったね」
「いま、ふくちゃんは、雌子猫のまめちゃんとむぎちゃんと温かいところで寝ています」
「そうか、あおにちゃ、向島や中之郷に行ったら沢山鼠を捕まえるのだぞ」
と云い、猫の頭を撫でると「みゃ~」と応えた。
「それじゃ、あおちゃんを仁吉さんに、ちゃちゃんを平田様に預けてきます」

 子供たちが出ていくと、志津が、
「旦那様、夕飯に間に合うように戻られたのは何か進展が御座いましたか」
「はい、昇龍院の館主・恵空が殺されると云う思いもよらぬ進展でした。その日の内に寺社奉行所の者が入りましたが、何事もなかったかのように戻って行きました。」
「何事も無かったということは、殺されては居なかったと云うことに成りますね。旦那様は殺されて居るのをご覧に成りましたか」
「いいえ、部外者ですから。雲海和尚から首を絞められて死んでいたとしか聞いて居ません」
「そうですか。それで・・・」
「これまた和尚の話ですが、恵空は病死したことにして貰ったと聞いています。恵空の処分は破門で、空位の館主の座は和尚が代行するとも。他に和尚と話しあい、茜楼の豊吉と談判した結果、五十両の金と殺されたことにした志乃殿の証文を焼いて貰いました。これを土産に寺に戻り和尚に告げたら、機嫌が良くて五十両全て貰った上に、頼んでおいた寺子屋の場に館主を亡くした昇龍院を使えと言ってくれました」
「養育所にとっても志乃殿にも思いもよらぬ収穫でしたね。志乃殿を呼びます」

 お玉の案内で部屋に入った志乃が座に着いた。
「志乃殿に旦那様から話が有るそうですのお聞きください」
「はい・・」とやや不安げな返事だった
「思い出したくないでしょうが、志乃殿にとっては悪い話ではありませんので聞いて下さい」
「はい」
「高田寺では昇龍院の恵空が殺されたそうです。その事件を利用して志乃殿も殺されたことにして寺内に墓を一つ作りました。そのうで、茜楼の豊吉と談判しました。志乃殿の証文を燃やして貰いましたので、もう追われる心配はありませんよ」
「本当ですか、実際に証文をご覧に成りましたか」
「名を佐保殿に戻し、家に戻れますよ」と証文に書かれていた志乃の本名を言い、この話が真実であることを暗に伝えた。
「嫌です。死んだことにして下さい。佐保として戻ったらまたどこかに・・志乃として生きます」
「分かりました。ここに居て頂けるのでしたら有難いことです」
「宜しくお願いします」
生まれ変わることを改めて決意した志乃が部屋を出て行った。

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Posted on 2018/01/25 Thu. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第104話 掟破り(その34)】 

 高田寺を出た兵庫等三人が向かったのは東芝寺だった。
門前の短い参道の入口までやって来たが、
「姿は見えませんね」と夏吉が呟いた。
「夜の見張り番が仕事ですから、未だ来て居ないのかもしれません」
「そうかもしれませんが、屋敷は出ていますから、近くで油を売って居るはずですよ」
「それでは、出て来る所を見張る仕事ですから、一旦寺に入り出て来る所を見つけて貰いましょう」と兵庫が提案した。
三人は門を潜り、境内を一周して戻って来て、見回して居ると弥三郎が姿を見せた。
「先生、何か在りましたか」
「特に、ただ高田寺の方の見張りの仕事が終わり、少しばかり金を頂きましたので皆さんにも分けに参りました」
「そう云う事でしたら、勝太も呼びます」と云い、奥に向かって手を上げた」
「寺の内と外から見張って居るのですか」
「山中先生から、坊主の顔を覚えろと言われています。明るい内でないと判らないので境内に出て来たところで寺男に誰かを聞くためです」
とひと会話が終わった所に勝太がやって来た。
「高田寺の方の分け前が出たのでわざわざ来てくれました」と弥三郎が用件を伝えた。
「それは有り難いです。寺男の野郎、何かにつけて小銭をせびるのです」
「勝太、不吉な小銭の話はするな」と弥三郎が止めた。
兵庫は財布から小判二枚を取り出し、弥三郎と勝太に一枚ずつ手渡した。
「山中さんにも手渡さなければいけないのですが・・」
「こちらに来るとすれば恐らく門が閉じた後になると思います」
「分かりました。あした朝稽古に来た時に渡すことにします。熊吉さんと夏吉さんはここで解放しますので遊んで下さい。私は、高田寺に寺子屋を開くため人と道具の手当てをしなければなりません。駒形経由で押上に戻ります」
「高田寺に寺子屋ですか」
「はい、無くなった恵空の居た塔頭を借りられることに成りました。思いもよらぬ収穫でした」
「竜三郎さんの所の子供たちのためですね」
「はい、目を輝かせていましたから、喜んでくれるでしょう」

 駒形に経師屋為吉の暖簾を出している元養育所に入ると、例によって内藤虎之助に迎えられた。
「内藤さん、高田寺の一件では茜楼から五十両貰い住職に渡したところ、十両を私に、四十両を養育所にと云う事で、養育所分を渡します」
と、懐から切餅一つと財布から小判を出し十五枚数え、残りの三枚を財布に戻した。
「未だ、三枚残って居るのですか」
「はい、一枚は碁四郎さん、もう一枚は唯念寺の和尚、残りが私です」
「そうですか、ご苦労様でした。この四十両は直ぐに無くなりそうですね」
「はい、今回の事件を納めたことで、雲海和尚から昇龍院の塔頭を二十四日以降、寺子屋として借りられるように成りました。そのために文机、硯・筆、算盤、手習い帳などの用意と、男の子や女の子には、本所の子供たちと同じ支度をしてあげて下さい」
「分かりました。今、竜三郎さんの所には男が十人、女の子が十三人の二十三人との連絡が来ています。閉じた駒形ですが、再開したら如何ですか」
「そうですね。教授方や保安方の手当てが付きましたら考えてみます。そのこともあり、仁吉さんに頼み、私を脱藩者と共に襲った新藤殿と天道殿を草加の道場から明日、呼び戻して貰おうと思って居ます。来たら子供たちのために働いて貰えるか確かめたいと思って居ます」
「箸にも棒にも掛からぬような輩を集めてどうするのかと思って居たのですが、少しずつ落ち着き先が決まって来ていますね」
「誰も好んで掟破りで暮らしを立てようとは考えてはいないでしょう。ですからそんな物騒なことをしないでも暮らせる道が在ることを示せば良いのです。ただ贅沢な暮らしでなくても結構楽しいことを見せる必要はありますね」
「養育所の仕事では子供たちの介在が役に立って居ますね」
「子供たちは必ず成長しますからね。それに関与できるのは楽しいに決まっていますよ」
「自分の子供でなくてもですな」
「偶然ですが武者修行に出した、観太と大助がきっと役に立って居るはずです」

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Posted on 2018/01/23 Tue. 04:01 [edit]

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