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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【湯上り碁四郎無頼控え 十二話 留守参り(その30)】 

 次の日の朝、碁四郎は唯念寺に取り戻した書画を返しに雨が降る中、二つに分けた包みをもって出掛けた。
朝のお勤めを終え庫裏に戻っていた住職に、
「お約束の軸を取り戻しましたので、お届けに参りました」
「そうか、世話をかけたな」
「ただ、一幅の軸が既に売れており、取り戻すことが出来ませんでした」
「それは、どの軸だ」
「遊女月見の図です」
住職が渋い顔を見せたが、碁四郎は大きな包みを開け、覆っていた油紙も退けて見せた。
「碁四郎。お主の脇に在る包みは何だ」
「これは、私が睡蓮堂の様子を調べるため、秋の軸として買い求めたものです。空に月、下界にはハギが・・」
「それは遊女月見の図ではないか。冗談を申さず、返しなさい」
「真に買い求めたもので御座います。私が嘘を申しているとお疑いですか」
住職は、碁四郎の顔を見ていたが、納得したのか
「いくらで買った、わしが買い戻す」
「持ち合わせが無く、値切りなんとか十両で手に入れました」
「持ち合わせが無いのは何よりであった。外を見て待っていなさい」
碁四郎は言われたとおりに、住職に背を向け、雨降る外の景色を見ていると、鍵を開ける固い音がし、小判を取り出す心地よい響きがし、鍵が閉められる音がした。
「碁四郎。十両だ」
振り返り、碁四郎は住職の手から十両を受け取り、頭を下げた。
「碁四郎、お主に頼めば散財せずとも戻ると思っていたのだが・・・」
「私も、これまでに色々と金を使いました。それに河半の付けが回されるらしいのです。そうなると、この十両でも足らないのですから、お許し下さい」
「はははっは~、それは済まなかった。少々遊びすぎた。許してくれ」
「いいえ、私も色々と勉強させてもらいました」
「勉強したことは内緒だぞ」
「分かっています」

浮橋に戻って来ると定廻り同心の久坂が待って居た。
「久坂さん、早いですね。馬喰町の宿屋の方はどうでしたか」
「三人捕らえた。奴等は皆、上方(かみがた)から来たもので、江戸の盗品を西で売りさばこうと買い付けに来た者だった。」
「と云うことは逆もありそうですね」
「それは、これからだが、持っていた五十両の為替手形から芋づる式に捕まるだろう」
「それはお手柄でした。ちょっと待って下さい。預かりものがあります」
碁四郎は己の部屋に戻ると、篠塚から久坂の分として預かった二両を持って戻ってきた。
「お上からはお褒めの言葉だけで、腹の足しになる物はいただけないでしょう。これは篠塚殿が三人に蔓を飲ませて礼に頂いたものです」
「こんなにいいのか」
「少し勇三さんらにも分けてやってください。それと唯念寺の御住職からのお礼です」
袂から一両出して渡した。
「今日は雨の中、礼を言いに来たのだが、濡れた甲斐があった」
久坂は、干してあった袖合羽を羽織、少しばかり大きめの菅笠を被ると雨の中へ足駄を鳴らし戻っていった。

部屋に戻ると、碁四郎の濡れた物を脱がせながらお静が
「旦那様。先ほど河内屋が参りました」
「そうでした。渡すのを忘れていました。何両掛かりましたか」
「私も、同じこと半次郎さんに聞いたのです」
「わざわざ主人の半次郎さんが来られたのですか」
「はい、それで支払いの方は河内屋と書画屋で持たれたようで、来られたのはお礼でした」
「礼? 何ですか」
「河半とすれば、睡蓮堂を何度か書画会に呼んだため、書画好きに目星をつける場を与えたことで、申し訳ないことをしたということです。また同業の書画屋とすれば顔に泥を塗られたわけで、どちらも睡蓮堂を捕らえてもらった礼だそうですよ」
「そうでしたか。河半への支払いにしようと御住職に二両で買ったあの軸を十両で売ってきたのですが・・・」
「あらあら、手元箪笥の底が抜けてしまいますよ」
「親父殿の留守参り。ご利益がありすぎました」
雨で、やってくる舟客も無く、浮橋の表は静まり、奥からは碁四郎とお静の声が洩れ始めた。

十二話 留守参り・・完

Posted on 2011/04/20 Wed. 11:08 [edit]

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janre 小説・文学

【湯上り碁四郎無頼控え 十二話 留守参り(その29)】 

見に来た茂平次には、並べられている物が唯念寺から盗ませた軸であることは直ぐに判り、退く素振りを見せた。
「茂平次殿。外には奉行所の者が待っております。あれほど盗んでは厳しいお裁きになると思われます。言残したきこと在ればお聞きいたします」
「もはや、逃げおおせぬか。留守参りの狢(むじな)とまで言われたわしが、留守参りに入られるとは年貢の納め時が来たようだな」
「如何にも。もう時が御座いません」
「分かった。半次郎さん。短冊と筆を頼む」  
半次郎が首を縦に振ると、直ぐに仲居が立ち上がった。
「山中様。それにしてもお人が悪い。部屋住みなどと言い騙すとは、しかし奉行所にも粋なお方が居るもんですな」
「何言ってんの。碁四郎さんはれっきとした部屋住みですよ。先日まで風呂屋で私たちの背中を流す三助だったんですよ」
「姐さん。私はまだ流して貰ってないんだよ」
「お浜は半玉だったから、仕方ないでしょう」
座敷の芸者衆が碁四郎一人のことで、客を忘れて姦しくなったのを、茂平次は笑みさえ浮かべ見ていた。
短冊と筆が用意され手渡されると、茂平次はその短冊にさらさらと書き、暫らく見ていた。
「茂平次殿その短冊、私にお譲り願いたい」
「構いませんよ」
短冊が茂平次の手から仲居に渡り、碁四郎に届けられた
碁四郎はそれを見、一礼すると、部屋の空気を響かせた。
望月の~
尽きぬ間にせし~
留守参り~
仕置きの空は~
雲の月かな~
と二度ほど繰り返した。
「茂平次殿。短冊のお礼に私から痛み止めの薬を」
そう言うと、袂(たもと)からおひねりを出し、仲居に渡した。
茂平次は仲居からそのおひねりを受け取り広げた。
「山中様。有難く頂戴します」
茂平次は手のひらに乗った小粒銀を飲み込んだ。
それから暫らくして、外から竹笛の音が聞こえてきた。
「茂平次殿。行きましょう」
碁四郎が茂平次を定廻り同心久坂啓介に引き渡すと、勇三が引きたてていった。
「久坂殿まだ盗人が何人か居るようです。今夜中に馬喰町の宿屋を根こそぎ洗って下さい」
碁四郎が懐から睡蓮堂から持って来た書付を取り出し、久坂に渡すと、それを読み納得したのか頷き
「世話になった。これで狢一家の大方は御用に出来そうだ」
「雨が降ってきたようですね。ご苦労ですがいまひと働きお願いします」
碁四郎が二階に戻ると呼ばれていた書画屋と芸者衆が軸を掛け見ていた。
「中々、艶なる物ですな。山中様、何処のものですか」
「これは、日本橋のある問屋から盗まれたものですよ。茂平次を観念させるため借りてきました」
まさか寺から盗まれたものとは言えず方便をついたのだが、事情を知っている河内屋が笑いを堪えていた。
「皆さん、今宵はとんでもない用でお呼び出しして申し訳ありませんでした。私は引き上げますので、存分に楽しみ、お帰り下さい」
「碁四郎さん。帰っちゃうの」
「はい。その借り物を返さないといけませんし、船宿の大敵嵐が来そうなので急がねばならないのです」
「私たちの白粉を付けて帰るとお静姐さんに叱られるからでしょ」
「それもあります」
「皆さん、私たちも引き上げましょう。もう一刻も楽しませてもらいました。山中様、御馳走様でした」
「只今、半次郎さんから聞き知ったのですが、お武家様にこのような席に呼んで頂いたのは皆初めてで、これが最初で最後で御座いましょう」
「それに、面白いものも見せて頂きました」
「それは良かった。船の御用がありますときは浮橋と深川の浦島をお使い下さい」
「はい、使わせてもらいますよ。商売も上手だ」
「はっはっはっは~」

Posted on 2011/04/20 Wed. 10:46 [edit]

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【湯上り碁四郎無頼控え 十二話 留守参り(その28)】 

睡蓮堂の提灯をぶら下げ、強く吹き始めた西風に背を押されながら池之端仲町の通りを下谷広小路へと歩いて行くと、店の様子を見張っていた篠塚、三枝が姿を見せた。
「上手くいったようだな」
「はい、本妙寺の物は浮橋に戻ったらお渡しします」
「これで、お役目もお仕舞いか」
「短かったが羽ばたけたな」
「羽ばたきたければ、外に出る嫌なお役目を買って出てくれば良いではありませんか。そしてお役目が済んだ後、許せば浮橋に寄って下さい。
「嫌なお役目か・・・それならいくらでもあるな」
「その手、試してみるか」
「そうして下さい」

浮橋に戻った碁四郎等三人は、用意されていた夕飯を食うと侍姿に着替え直した。
「それでは預かった目録と取り戻した軸を照らし合わせ、お渡しします」
本妙寺から盗まれた掛け軸の箱書きを確かめ、更に軸も出され検分された。
「これが、寺に掛ける軸か」
「目録を書くのを渋るわけだ」
「世情の者が持つ煩悩を知らねば説教が出来ませんよ」
「そういうことか」
「私はこれから河内屋に参り、間違っても茂平次に逃げられないようにしますが、お二方は屋敷にお戻り下さい」
「軸を受け取った以上寄り道はできんのでそうさせてもらう」
軸を取り戻す役目を終えた二人は本所へと戻っていった。

 碁四郎が腰に二本差し、左手に風呂敷包みを下げ、右手に睡蓮堂の提灯持ち河内屋近くまでやってきた。
「音吉さん、居るか」と暗闇に向かって声を掛けた。
すると、男が姿を見せた。
「何ですかい。旦那」
「握り飯だ」と提灯を音吉に持たせると空いた手を懐に入れ小包を取り出した。
「すいません。さっきから腹の虫が鳴っていたんです」
「奉行所の者がやってくるまでまだ四半刻はあるでしょう。外の見張り頼みます。それと久坂殿が参られ召し取りの支度が出来たら、この竹笛を吹いて知らせて下さい。茂平次を連れ出しますから」
「分かりました」
音吉は竹笛を受け取り、碁四郎は提灯を取り戻すと河内屋の中へと入っていった。
 三味の音に嬌声が聞こえてくる二階へ上がる階段を碁四郎は仲居に案内され上っていった。
そして宴たけなわの部屋の隣に入り、風呂敷包みを解き軸の入った箱をたたみの上に並べ、その脇に正座し時が来るのを待った。
浅草寺の五つの鐘の捨て鐘が打ち鳴らされた。
そして三味線の音に合わせ踊る芸者の衣擦れの音を襖越しに聞いていた碁四郎、三味の音が止まるのを合図に静に襖を開けた。
「遅れまして、申し訳ありません」
この趣向に呼ばれていた、書画屋たちと芸者衆の目が碁四郎に集まった。
「待っていました。山中様。面白い書画が見付かりましたか」
河内屋半次郎の声がかかった。
「貴方様は先日の・・・」
「睡蓮堂の茂平次殿、ここでまた会えるとは、何かの縁でしょうか。茂平次殿。早速です。持参しました軸をご覧下さい」

Posted on 2011/04/20 Wed. 10:37 [edit]

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【湯上り碁四郎無頼控え 十二話 留守参り(その27)】 

 盗人三人が岡っ引きに連れて行かれ、陸に揚げた船を下ろすこともなくなった碁四郎、篠塚、三枝の三人は奥に入り、手代風の形(なり)に着替え終えた。
「山中さん、わしの金を預かっては貰えぬか」
「わしのもだ」
「また、どうして」
「今、持ちなれぬ三両が懐にある。頭を結い直したので一両は持って帰るが、残りの二両を女房殿にみすみす取られるのは辛い」
「分かりました。暫らく預かりますのでお屋敷の御用で出られたときに、早めに取りに来て下さい」
「済まぬな」
「それと・・」
「何ですか、三枝さん」
「この手の用ができたら遠慮せずに声をかけてくれ」
「いいですが。これまでにもくたびれもうけの方が多かったですよ」
「分かっている。毎度毎度大漁とは限らん。坊主の日が在っても恨みはせん」
「それでしたら、月代(さかやき)をあまり狭めないようにしていて下さい。奥方に気づかれますから」
「はっはっはっは~」
「そろそろ出かける支度をします」
「支度? まだあるのか」
「はい、もしかすると雨が降ります。持ち出したものが濡れてはいけませんので、包む油紙です。それと本妙寺から盗まれた物の目録をお願いします」
「そうだった。忘れていた」
篠塚から渡された目録には三本の掛け軸の箱書きの詳細が書かれていた。

茂平次が睡蓮堂を出た知らせが 浮橋に届けられたのは暮れ六つの鐘が鳴る前だった。
碁四郎、篠塚、三枝の三人が河内屋の近くで待っていると、睡蓮堂の屋号の入った提灯をぶら下げた男がやってきて、河内屋に入っていった。
それを見届ける音吉の姿もあった。
碁四郎が茂平次の入った河内屋に向かって歩き始めたのを見た、三枝が
「山中さん。何しに行くんだい」
「茂平次の持っていた睡蓮堂の提灯を頂いてきます。その方が睡蓮堂に入りやすいでしょう」
なんとも測りようのない碁四郎の振る舞いに半ば呆れながらも、頷いてみせる三枝と篠塚だった。

 碁四郎は睡蓮堂までやってくると、以前盗人の一人佐助が竹笛屋の担ぎ屋台と共に入った、紙屋との廂間(ひあわい)の戸を提灯で照らし、開けた。
この様子を誰一人として訝(いぶか)る者も無く、碁四郎は戸を絞め、姿を消していった。
医者の無養生とはいうが、盗人の無用心とも言いたくなるほど、容易に碁四郎は睡蓮堂の中に入ることが出来たのだ。
提灯の火を店の中の燭代を見つけては移していくと、その度に部屋が明るくなっていった。
その部屋の一角に掛け軸の箱がご丁寧に盗み先ごとに仕切られて置かれていた。
碁四郎は一応目録と照らし合わせた後、風呂敷を広げ、その上に更に油紙を置き、盗まれた掛け軸を積み上げ包んだ。
これで、一応の用は済んだのだが、碁四郎が改めて部屋を見渡すと文机の上に置かれた数通の書状が目に止まった。
碁四郎はそれを読み二通を懐に仕舞った。
そして、隅に目立たぬように置かれていた金箱の蓋を開けると、金色に輝く小判が無造作に入れられていたのだ。
「盗人にも三分の理か」と呟き、箱の小判をつかみ出すと、床に同じ高さの十の山を作り、その内の三つを箱に戻し蓋を閉め、残りを袂から出した手拭いに入れ、包み懐に納めた。
火の始末をして、荷を背負った碁四郎が入った戸口から出てくるまで四半刻も掛からなかった。

Posted on 2011/04/20 Wed. 09:56 [edit]

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【湯上り碁四郎無頼控え 十二話 留守参り(その26)】 

 三人が奥で茶を飲んでいると、仲居のお春がやってきた。
「旦那様。お客が三人参りまして山谷掘りまで猪牙を出したいのですが、一艘足りないので、下ろして頂けませんか」
「分かりました」
「二百文の仕事、やりすぎたようだな」
碁四郎たちが折角苦労して揚げた猪牙舟を下ろそうと表に出て行くと、待っている客は在ろうことかあの盗人の小六、時蔵、佐助の三人だった。
柳橋から若い者が猪牙舟をつかい山谷掘りまでと言えば、行先は吉原に決まっている。
頼まれた仕事だが、吉原に入られては捕らえるにしても厄介なことになる。
碁四郎は三人をここで捕らえることにした。
「これから吉原へお出かけですか。手足をもがれないで下さいよ」
「今日は羅生門河岸には行かねぇよ。金は在るからな」
「そうだな、江戸町か京町かむずむずしてきやがったぜ」
碁四郎の軽い投げかけに、三人の心は早くも吉原の通りを歩いている様子を見せた。
「船を一艘下ろしますので暫らくお待たせします。お詫びに上等の酒を出します。部屋に上がって景気づけして下さい」
「いいのかい?」
「ええ、さあ~上がって下さい。花魁は逃げませんよ」
三人が上がるのを見ながら、碁四郎は篠塚と三枝と目配(めくば)せし、握りこぶしを見せた。
そんなこととは露知らず三人が上がり畳部屋に入った途端、碁四郎が小六に、篠塚が時蔵に、三枝が佐助に飛び掛り、あっという間に組み伏せてしまった。
「何しやがる」
大声が辺りに撒き散らかされ、店の者がやってきた。
「お春さん、外に勇三さんが居るはずだ。呼んで下さい」
やはり、盗人三人は跡をつけられていて待つことも無く岡っ引きの勇三と下っ引きの音吉が姿を見せた。
「吉原に入られては面倒なので、こいつ等を取り押さえました」
「済みません。旦那。助かりました」
「何だ。分けを言え」
「小六、時蔵、佐助。おぬし等が狢一家であることは、もう割れている。年貢の納め時だ」
名前まで言い当てられてしまうと、堪忍したのか賊の身体から力が抜けた。
勇三と音吉に後ろ手に縛り上げられたところで、篠塚が
「御主ら、これから大牢に入ることになるが、初めてか」
「あたりめぇだ。そんなどじはしなかった」
「そうか、それでは蔓(つる)として少し小粒銀でも飲んでいきな。きめ板も手心されるからな」
大牢の環境が劣悪であることは誰でも知っていた。
長く居留まることを覚悟しなければならないとなると少しでも序列の高い所に座りたいのだ。
「頼む、懐に財布が入っている、出して飲ませてくれ」
地獄の沙汰も金次第で入牢も同じだった。
ただ、財布などに入った金は入牢前に召し上げられてしまうこともあり、銀の粒を飲み込んでおき、入牢後尻から出し、牢を仕切る者へ渡したのだ。
「小粒銀は飲めても小判は飲めねぇぞ。どうせ全部取られちまう。盗人にも三分の理というから七割の手間代を払えば飲めなかった分は着ている物に仕込んでやるぞ」
「分かった。それでいい、頼む」
「三人とも同じか」
「頼む」
三人の懐から取り出された財布と中身が三人の前に置かれた。
「皆、五両ほどあるな。それでは持分の三分は一両二分だが、二分を飲ませ一両を襟に仕込んでやる」
こうして三人に両替された小粒銀で二分が先ず飲まされた。
「山中さん、裁縫の出来る女衆を三人呼んでくれ」
そしてやってきた女が男達の脇に座り襟に小判を仕込んだのだ。

「それでは、残った十両二分を分けるが、山中さん。浮橋の使用人は何人だ」
「確か、今は三十二人ですが」
「それでは、使用人に二両、わしら三人が各二両、二両を久坂さんに分けてもらい。残りの二分は分けて三人の財布に戻すことにする。これでどうだ」
「依存は無い」
三枝が同意した。
「情けは人のためならずだ」
篠塚も満足げに己の取り分を袖に納めた。
「勇三さん。こいつらは自身番に連れて行ってくれ。久坂さんにあとで来るように言って下さい」
「へい、旦那」

Posted on 2011/04/20 Wed. 09:27 [edit]

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