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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第六話 折れた虎徹(その27)】 

 それから数日経って、倉之助が源三の鍛冶場へ出かけた。
刀を依頼するためであった。
しかし、そこに居たのは源三から鍛冶場を預かった、若い鍛冶職人であった。
「源三さんは、江戸の四ツ谷北伊賀町へ行くと言っておりました」
「四ツ谷か。世話をかけたな」
鍛冶場を後にした倉之助はその足で武州屋によると、出てきた惣衛門が
「先日は面白いものを見せてもらい、勉強させて頂きました」
「わしも刀屋が如何に貪っておるかを知ったぞ」
「いえいえ、世の中は変わったもので高い物ほど喜ぶ方が多いのでございます」
「なるほどな。ところで源三が四ツ谷に移ったそうだが知っておるか」
「それは知りませんでしたが、昨日来られまして、一振り脇差を置いて参りました。目を覚まさせてくれた鐘巻様に渡してくれと申しておりました」
「その刀、見せてもらえぬか」
「はい、まだ源三さんが研いたままですが、本研ぎと白鞘代として鐘巻様の手付け五両を受け取らず置いていきました」
「兵庫め、偉く気に入られたものだな」
倉之助は出された脇差を見ながら、
「わしも源三に打ってもらいたかったのだが、四ツ谷まで行かねばならなくなったようじゃな」

倉之助から話を聞かされた兵庫は、源三、二尺二寸五分を喜助の所に持ち込み新しい竹刀を依頼した後、刀を武州屋に持参し、脇差と揃いの拵えにするよう依頼した。

数日後の朝、兵庫は新しい鉛入りの竹刀を持って道場に立っていた。
この竹刀はこれまで使っていた竹刀より一寸ほど短いのだ。
兵庫は己の間合いを伸ばすため、人並み以上の稽古と工夫を重ねてきたが、源三の刀を得たために、己の間合いを一寸短くする不利を背負わされた。
兵庫の言葉で目を覚ました源三からの兵庫への厳しいが、‘更に修行に励め’の意を込めた感謝のお返しだった。
 朝の冷気を満たした道場に兵庫の気合いが飛び、床を踏み鳴らす音が聞こえ始めた。
道場主の倉之助はその音を、愛妻千代の膝枕で耳掃除させながら目を瞑って聞いていた。

月が如月(きさらぎ)と変って、武州屋が兵庫の元に訪れた。
拵え新たな銘・源三の大小を携えてである。
以後、兵庫の愛刀となった源三・二尺二寸五分を眺めながら、兵庫は姿を消した源三のことを思った。
その源三が四ツ谷正宗の異名をとった源清麿だと兵庫が知るのは、後年のことであった。

第六話 折れた虎徹 完

Posted on 2011/07/27 Wed. 05:11 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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【鐘巻兵庫 第六話 折れた虎徹(その26)】 

刀箱を抱えた庄太夫が座敷を出て行くのに倉之助は従った。
庄太夫は店の表座敷に控えていた小者に鋏箱の中から錦の袋に納められた刀を取り出させ、それを倉之助に渡すと、抱えていた刀箱を鋏箱に納めさせた。
土間に降り草履を並べる大和屋に
「世話になった」
大和屋は深々と頭を下げた。
店の者は皆外に並び店を出て行く旗本畑中庄太夫を姿が見えなくなるまで見送った。

 店の奥座敷に倉之助以下四人が戻った。
倉之助の前には、二十両と錦の袋に納められた刀、一振りが置かれている。
それを見て大和屋喜平は満面の笑みを浮かべ倉之助を見ていた。
「それでは」
倉之助は二十両の小判を掴むと、己の懐に入れた。
「あっ、それは手前どものでは」
「大和屋、お主が欲しいのは未払いの五十両であろう。この一振りでその五十両に引き当てろ」
怪訝な顔の大和屋に
「わしの懐の二十両の方が、お主が五十両で売ったこの刀より良いと申すのか。大和屋それほど利を貪っておるのか」
大和屋は笑いながら
「相川様、私の負でございます」
「しかし大事な客を一人無くさせてしまった気がするが、許してくれ」
「いえいえ、これまでに十分儲けさせていただきました。これも潮時というものでございましょう」
「潮時か。それではわし等も板橋へ漕ぎ出だすことにいたすか」

 まんまと二十両をせしめた倉之助は、その日道場に戻ると三人を呼び出した。
「さて、この二十両の配分だが、兵庫が刀を折らねばこの金は手に入らなかった。その働きは半分の十両と言いたいが、ここは八両で我慢してくれ。二十両せしめたわしが五両。佐々木と岡部が三両ずつ、残った一両は斬った犯人を仲間の一人と言い当てた役人の糟谷に渡すことに致す。依存はあるか」
 ほとんど濡れ手に粟で手に入った新年のお年玉、誰も不満の在ろう筈も無く、目の前に置かれた小判を懐に収めた。

Posted on 2011/07/26 Tue. 04:37 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第六話 折れた虎徹(その25)】 

 庄太夫は倉之助の待つ部屋に入ると、平伏している倉之助を一瞥し座布団の置かれた上座に座り、重々しい口調で
「相川殿か」
「拙者、板橋宿において道場を開いております相川倉之助と申す。お呼び出しした無礼はお許し願いたい」
倉之助は静かに頭をあげた。
「そのようなことはどうでもよい。珍品があると聞き参ったのだが、それに相違ないか」
「はい、いささかも」
「左様か、それでは見せてもらおうか」
倉之助は、己の後ろに控えていた大和屋に
「大和屋殿、これからは武家同士の話ゆえ聞かぬほうが良い。呼ぶまではこの部屋に誰も近づけぬようにな」
大和屋は尋常ならぬ気配を感じたのか、ただ一礼すると部屋から出て行った。
「それではご覧にいれますが、何分にも珍品ゆえ、お気に召さぬ折には次の買い手を捜します」
「ぐずぐず申さずに、早く見せろ」
倉之助は刀箱の蓋を開けると、庄太夫の前へ置き、刀を覆っている紙を取り払った。
血塗られた折れた刀身を見た庄太夫は全てを悟った。
「先日、板橋宿で一人の武家が斬られましてな、その折に使われた大業物でござる」
「この刀、他の誰かに見せたか」
「知っている者は拙者と、この刀を折り己の大切な刀を台無しにした者だけでござる」
庄太夫が倉之助を睨むのを見て
「武士に二言はござらぬ」
「分かった、買おう」
庄太夫は懐から二十両を出し、
「刀は小者の鋏箱の中に納めてある」
「これで何も起こらぬ。ようござった」
倉之助は血塗られた刀身に紙を被せ、蓋を閉めると、箱の脇に置かれていた二十両を取り懐に入れた。
「余談ですが、その刀、たいした業物でござった。ここ肩口から腰骨まで真っ二つに割り込んでおりました。折れたとは言え二尺程の刀身、磨り上げれば立派な物が出来ましょう。そのいわれを知ったものにとっては家宝にもなりましょう。決して損な買い物では御座らぬ」
「磨り上げるなら九寸五分に致そうか。それで、いつでも腹を切れるからな」
「そのようなことには、断じてなり申さぬ」
「此度のこと、本来ならお主に礼を言わねばならぬのかもしれぬが、素直に礼が申せぬ。ゆるせ。」
畑中は友を斬って戻った倅を庇(かば)ってきたが、折った刀のことは気掛かりだったのだ。
「勿体無いお言葉、痛み入ります」
用は済んだようだな。戻ると致す。

Posted on 2011/07/25 Mon. 04:49 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第六話 折れた虎徹(その24)】 

二人の話を聞いていた倉之助が
「大和屋、もし良ければ、この刀を買った者と話をつけ、双方に遺恨が残らぬように致すがどうじゃ」
己が売った刀が、目の前に折れた血刀となって居るのを見て、大和屋には商売より、恐怖の思いが湧き上がったのか、口をつぐんでしまった。
それを見た惣衛門が
「大和屋さん、こちらの相川様は板橋宿では加賀藩の御留守居役とも話をまとめられた御方です。力になって頂いたらいかがですか。お相手はどなたなのですか」
武州屋の促しに暫らく考えていた大和屋だったが、重い口を開き
「刀を買っていただいたのは、刀道楽で有名な御旗本の畑中庄太夫様でございます」
「その畑中とかいう旗本は何石取りかね」
「はい、確か千石と伺っております」
「千石取りか。四公六民として四百石、他に見入りも無かろうから道楽していては日々の暮らしも楽とは言えぬかもしれぬな」
「はい、今は未だ良いのですが、夏ともなれば庭の手入れも行き届いてはいませんでしたね」
「左様か、それでは落としどころだが、大和屋はあと二十両でよいか」
「はい取れないよりは二十両でも頂ければ文句は言いません」
「そうか、それでは早速だが、畑中殿に使いに行っては貰えぬか」
「使いと申されますと」
「板橋宿の武家、相川と言うものが、珍しい刀を持ってきて、買い手を捜している。何はともあれ最初にお声をかけねばならぬと思い参りましたとでも言いなさい」
「確かに珍品ですがそれで来られますかね」
「もし来るのを渋ったら、試し切りの証し付きと申したとでも付け加えろ」
「はい、分かりました。 それでは・・」
「まだだ、来るときには即金で二十両、他に五十両か大和屋から買い求めた五十両分の刀を持参願いたいとな。それと、買うか否かは見てから決めてもらってよいとも言ってくれ」
「何ですか、他の五十両とは」
「それはだな、この虎徹を折るほどに打ち込めば、いかなる名刀といえどもかなりの傷を受けるのじゃよ。だが、このことは言わんでくれ」
「分かりました。行って参りますが、早ければ四半刻ほどで戻りますので、表の方で刀など見ながらお待ち下さい」
 大和屋が店を出て行くと倉之助等は言われたように、店の表座敷に移り番頭が持ってくる刀の目利きを三人でしながら時の経つのを忘れ、興じていた。
「そろそろ七つ半、戻る頃だな。ところで惣衛門・兵庫、旗本との話はわし一人でする。血刀を売るには余計な気を使わせてはうまくはいかぬからな」
「分かっております。千石取りの旗本が出向いてくるだけでも体面を失いかねない話です。お話は、帰りの道でお聞かせ下さい」
やや不満気味であった惣衛門も兵庫の言葉を聞き納得したようであった。
そうこうしていると、大和屋の供をした手代が戻ってきて番頭に
「旦那さまと御旗本の畑中様が間も無く参られます」
それを聞いた倉之助は、立ち上がると奥へと消えていった。
暫らくして、惣衛門と旗本畑中庄太夫が小者を伴い店に入ってきた。
庄太夫は小者に待つように言うと、大和屋の案内で奥へと消えていった。

Posted on 2011/07/24 Sun. 05:03 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第六話 折れた虎徹(その23)】 

 兵庫は源三と話していた。
「確かに、この折れた刀はわしが打ったものに間違いありません。師に百振り打てと言われ、打った最初の一振りでしたが、仮柄を付け振ってみて分かったことは、代稽古まで勤めた私が持て余す物でした。不明を恥、銘を彫らずに師の元から出奔してしまいました。その後の事はお聞きくださいますな」
「そうでしたか、言い忘れましたが、この刀を折ったのは、源三殿が新しく打たれ、私が買い求めたものです。新しい刀が古い刀に勝(まさ)ったのですよ」
源三は兵庫の話にしばらく声も出せなかったが
「嬉しい話をお聞かせいただきました。何かせばならぬとの思いが湧き上がって来るようです」
「それは良かったです。これからも良い刀をお打ち下さい」
過去に何があったかは分からぬが、兵庫の言葉にうれし涙をうっすらと浮かべる源三であった。

 そしてそれから四半刻が経ち、武州屋の奥座敷で主人の惣衛門と倉之助、兵庫が話をしていた。
「どうだ、この刀、無銘の虎徹に相違ないか」
「はい、拝見した限り、大和屋さんから手前どもに回ってきました虎徹に相違ありません。大和屋さんでは、値打ち物は刀絵図を残されていますので照らし合わせれば、より確かかと存じますが」
「左様か、すまぬが、これから大和屋までわしに同道してはもらえぬか」
「ようございますとも、それでは、この刀身を納めます適当な刀箱を・・」
「惣衛門、刀の汚れは落とすではないぞ」
「分かっております。この刀を見たときの大和屋さんの驚く顔を私も見たいですからね」

 さらに一刻が過ぎ、倉之助、兵庫、武州屋惣衛門の姿が日本橋大和屋にあった。
惣衛門からあらましを聞かされた大和屋喜平は、虎徹の刀絵図を持ってきて倉之助の前に広げてみせた。
倉之助が頷くのを見た惣衛門が恐る恐る刀箱の蓋を開け、刀身に被せてある薄紙を取ると、血油で汚れた刀身が現れた。
「うあぁ~・・」
大和屋は口をあんぐりと開け声にならない叫びをあげ、目を大きく見開いた。
倉之助は箱から刀身を取り出すと、刀絵図と合わせるように置いてみた。
「間違いないようだな」
「あ、あの虎徹が折れてしまったのですか。まだ代金の一部が滞っているのですよ」
「大和屋さん、いかほど滞っているのですか」
惣衛門が気の毒そうに尋ねると
「八十の内、まだ三十両しか頂いておりません」
「それでは大分損をしますね」
「せめてあと二十両は頂かないと、しかし、即金で払うと言いながらこれですから、折れたとあっては、催促にも行きづらいです」

Posted on 2011/07/23 Sat. 05:19 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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