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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十八話 芽生え(その17)】 

 潮干狩りの帰り、片方の船には、みやげ物を積み本所、亀戸から来たものが乗り送られていき、兵庫の舟には幸と又五郎だけで、船頭は浅吉であった。
船がもう直ぐ花川戸に着く頃になって積まれた浅利を見て兵庫は幸に
「少しばかり獲りすぎましたね」
「刀が手に入るとは思って居なかった証ですね」
「当たり前ですよ。剥(む)き身はどうすれば出来ますか」
「少し開いた口から‘ともがい’と呼ばれる貝剥きを差し込んで貝柱を切るのです」
「私に出来ますか」
「あれだけやれば、嫌でも上手になりますよ」
「大黒屋さんに一笊引き取ってもらい、長屋に二笊配りましょう」
「そうしましょう。私も毎日浅利の顔は見たくありませんから」
「やっと意見が合いましたね」
「合ったのではありません。合わせて差し上げたのです」
二人の掛け合いを聞き笑っていた又五郎、舟が岸に寄り始めたのを見て
「いや~。今日は楽しかったですよ。またお願いします」
「大黒屋さん。お願いがあります」
「何でしょうか」
「日傘は大黒屋さんから返して頂けませんか。それと収穫した刀に浅蜊と持ち込んだ荷物運び・・・」
「はい、お安い御用で御座いますよ」
なんとか話しが着いたところで、花川戸・大黒屋の船着場に舟が横付けされた。
「へい、着きました」
兵庫が降り、幸に手を貸し船から降ろし、手を引きながら店へ上がって行った。
それを見送りながら又五郎が
「いい男だね~」
「まったくです」
「浅吉、あとは頼むよ」
兵庫は幸を大黒屋で一服させた後、幸は駕籠を断わり来た時と同じように二人並んで帰って行った。
 二人は家に戻ると庭の隅に芽生えた榎に少し水を与え、顔を見合わせると微笑んだ。
エノキ双葉

第十八話 芽生え 完

Posted on 2012/02/25 Sat. 04:36 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第十八話 芽生え(その16)】 

 その様子を見ていた兵庫
「形勢はこちっが多くなったようですね。隣に居る者が真剣勝負をしたいと申しているのですがやってみますか。太助、船頭を捕まえろ」
太助と浅吉が砂地に乗り上げた舟に向かって駆け、ほとんど無抵抗な船頭を捕らえた。
「退路は無い。ここで死ぬか、その長いものを置いていくのか決めてもらいましょう」
そう言うと、兵庫は侍二人に迫った。
それを追うように栄次郎。
相手は斬られると思ったのであろう、刀を抜きかけたのだが遅かった。
日頃稽古に励んでいる者の勢いにはとても勝てない。
急所を拳で打たれ、柄頭とこじりで突かれどちらの侍も戦意を無くし砂地に尻を着いてしまった。
「お手前方には両刀を差す資格は御座らぬ。親父殿に引渡し腹を切らせてもよいのですが、此度は目こぼし致します。栄次郎、二人の両刀を頂け」
栄次郎は頷くと手に持った己の刀を兵庫に預け、二人の両刀を鞘ごと抜き取った。
「太助、浅吉。船を見て刀があったらこちらの舟に移せ」
やはり無腰の男も侍で、六人分十二振りの刀が兵庫の舟に持ち込まれた。
「それでは、私の気が変わらぬうちにお戻り下さい」
その言葉で倒れていた侍六人が立ち上がり、舟に乗り水路を帰っていった。

 「旦那様、お若い方に危ないことをさせないで下さい」
幸が、顔を赤くして言った
「済みません。以後気をつけます」
「まあまあ、相手が悪いのです。許してあげて下さい」
「そうではありません。旦那様はお志津様を使い、あのようなものをおびき寄せたのです」
「幸、もう言うな。当初はこのような目論見ではなかったのですが、お志津殿が参られると分かり、傘を借り華やかにしたのです。お母上様、お志津どの申し訳ありませんでした」
「何を申されますか。私も楽しませていただきました。さあさあ、焼き蛤を食べて下さい」
兵庫の腕前を知り、信じている志津は騒ぎの中でも、平然と蛤を焼いていたのだ。
「志津様、分かっていたのですか」
「はい、この傘は私が昔使った長柄傘ですから」
「旦那様、行かれたのですか」
「勘弁して下さい。四郎兵衛さんのところまでです」
「それは変です。会所の煙草の匂いがしませんでしたよ」
「私は同じ失敗はしないようにしていますから、入らず呼び出しました。第一遊ぶお金など持っていませんよ」
「鐘巻様も奥様には分が悪いようですな」
兵庫は頭を掻きながら、舟の片側の日傘を抜き閉じると浅吉も傘を抜き閉じ、それを兵庫に戻した。
傘を抱えて空舟へ戻っていく兵庫の後ろに笑い声が起こっていた。

Posted on 2012/02/24 Fri. 04:58 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第十八話 芽生え(その15)】 

 船の中に用意されていた大笊が一つ・二つと一杯になり、五つ全てが浅利で満たされるまでさほどかからなかった。
「飯にします」
兵庫の大声が潮干狩りに飽き始めた手を止めさせた。
舟に戻ってきた者が持ち寄った荷を解き、並べ始めると子どもの目が輝き、女衆が皿に少しずつ盛り付けそれを子どもに渡し、賑やかな昼飯が始まった。
勿論、兵庫も舟の外から皿を受け取り、船頭の浅吉も太助も志津の手渡しを受け取り嬉しそうに食べはじめた。

 兵庫は一皿に置かれた握り飯と惣菜を食べ終わると、三人を集め己の舟に戻った。
「健次郎は七輪の火をおこしたら、向こうの船に運んでくれ。隆三郎は蛤をザルに出して運ぶように」
「私は・・・」
「栄次郎は護衛だ」
兵庫の「護衛」という言葉に三人が反応し、兵庫を見、兵庫の視線の先に目を移した。
「刀は差しておらぬが、あの四人は侍だ」
「旦那、まだ居ますよ。舟道に舟が・・」
「あっちは刀を差しているな。あの日傘の模様が客を招いたようだな」
「どうしますか」
「相手が手を出すまでは、何も出来ぬ。二人は蛤を焼きに行け」
健次郎と隆三郎が運んだ七輪と蛤で、舟の中の焼き蛤が始まり、舟の中が賑やかになった。
その声と、華やかな日傘、遠目からも美しい志津に吸い寄せられるように、干潟から四人、水路から二人が近づいてきた。
「先生、二人は刀を差したままです」
「栄次郎殿は真剣勝負をしたことがありますか」
「ありません」
「それでは、腕試しでもしますか。だが斬るな」
兵庫はそういうと、左手に大刀を、右手に浅利を幾つか掴み、舟を降りやってきた二人の侍と女たちが乗る舟の間に入った。
栄次郎も兵庫に従っていた。
ここまで来ると舟の中で焼き蛤を楽しんでいた声もなくなり、健次郎と隆三郎も四人と対峙していた。
「なんだ、若造の護衛付きかい。だが、こっちの方が多かったな」
「健次郎、隆三郎遠慮は入らぬ。足を使え」
刀を差した男の首が少しばかり振られると、無腰の四人が健次郎と隆三郎に襲い掛かった。
兵庫は素早く、四人の二人に浅利を投げつけると一人は額を割られ、もう一人は鼻を少しそがれて動きを止めた。
その怯(ひる)んだ二人は、志津を助けようとする船頭太助と浅吉の体当たりを喰らい、倒れると馬乗りにされ、腕っ節の強い二人に伸されてしまった。
健次郎と隆三郎は掛かってくる侍から飛びのき、侍を舟から離しながらおちょくった。
「その腰つきで侍か」
追いかける侍の一人は足を切り止った所を健次郎に倒され、もう一人はすぐに息が上がり隆三郎の餌食になった。

Posted on 2012/02/23 Thu. 05:24 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第十八話 芽生え(その14)】 

「大きい蛤があったら、焼いて食おう。家に持ち帰っても、御主らの口に入る保証はない。ここで食っていくのが良いと思わぬか」
門弟三人が顔を見合わせ、納得したようである。
「蛤は舟の桶に海水を汲み、その中に入れ少しでも砂を吐かせろ。もっと掘って来い」
旨いものを食わされ、兵庫の言葉に従順になった門弟達は、舟の近くで笊の貝を砂地に開け、中から蛤を拾い出し、言われたように桶に海水を汲み、蛤を入れると掘っていた所へ戻っていった。

 だいぶ減ってしまった平目の刺身を盛った皿を舟に乗ったまま、お喋りを楽しんでいるところへ持って行き、
「刺身が出来ました」
「あら~・・、ずいぶん小さくなりましたね」
「骨と皮の方についていた肉のほうが多いくらいでした。それと食われました」
「五枚におろすなんて私には出来ません」
「志津様、私もこちらに来てから五枚に下ろすような魚とは縁がありませんから」
「縁が無いと言えば、ひらめの縁側どうしましたか」
「あれは私と門弟さん、子ども達で分けました」
「まぁ、しっかりしていますね」
「う~・・旨い。今頃のひらめを猫跨ぎなどと悪口を言う者がいますが、なかなかなものですよ」
「それはよかった。焼き蛤が出来るような大きな蛤が獲れたか見てきます」
「私らも折角来たのですから、貝は獲らなくても少し海の上を歩きませんか」
最も歩くのが大変そうな幸の一言で、幸を気遣い舟に留まっていた者が今度は己の裾が濡れるのを気遣いながら舟を降りた。
降りると不思議なもので、幼い頃足の裏で感じた記憶が蘇り、少しばかりたまっている水の中に足を踏み入れていく。
楽しかったことが思い出され、舟で談笑したものとは違った笑いが干潟のそこかしこから、兵庫の耳に届いてきた。
獲れた蛤はやや小粒だったが数だけはあった。
目を蛤から干潟に転じると、皆がかがみ貝を獲っている中で幸と志津が遠くの海原を眺めながら立ち、暫らく笑みの見えない話しをしていた。
何を話しているのか気になったのだが、二人の顔が笑い始めると兵庫の気掛かりも消え去ってしまった。
「よし、浅利を獲ろう」
兵庫は熊手と大き目の笊を手に持つと暫らく干潟の起伏を見ながら歩き、盛り上がった瀬を見つけ、瀬に沿いながら少し斜面になった所を掘り始めた。
幼い頃父多門から教えられた技であり、その技は期待を裏切ることはなかった。
掘り起こした所からは浅利が出始めると、そこは宝の山で、あっという間に笊が一杯になった。
その場所を子ども達に譲り、次の宝の山を掘り当てるとまた譲ることを繰り返した。

Posted on 2012/02/22 Wed. 05:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第十八話 芽生え(その13)】 

 兵庫は子ども達の声を聞きながら、積んでいた大きな長柄傘を二本持つと、大人の乗った舟へ行き、船縁の傘立てに柄を差込んだ。
兵庫から傘を受け取った船頭の浅吉も反対側の船縁に傘を立てた。
その華やかさは遠くからも見えるものだった。
「吉衛門殿、わざわざお越しいただき有難う御座いました」
「いや、近頃出無精になっていたのだすが、貴方に会いたくなり無理を言って連れてきてもらったのです」
「お母上様、健次郎殿はかなり腕前を上げなさいました。今日来た若侍は津軽家のものですが、屋敷で五本の指に入る者です。それに互して打ち合えるようになりました」
「有難う御座います。なにやら剣の修行が楽しくなったようで、感謝しております」
「それでは、私は先ほどの平目を刺身にする修行をして参ります」

 兵庫は盥から俎板と出刃を出すと、船道の塩水で洗い、俎板を砂地に置き先ほど獲ったひらめを五枚に下ろし始めた。
出刃の背でうろこを落とし、塩水に浸け流し、首に両側から切込みを入れ落とし内臓を抜きまた塩水で洗い流すと小魚が寄って来た。
背骨上に切り込みを入れそこから縁側に向かって出刃の刃を入れ片身の更に半分が切り落とされた。
同じように残りを落とし片側から二枚の切り身が落とされ皿に乗った。
裏側も同じで要領で四枚の肉片が出来た。
兵庫は五枚目の骨を、いや、かなりまだ肉がついているものを惜しみなく舟道の流れに投げ捨てた。
四枚の切り身から縁側部を切り取り、肉片が八枚になった。
その身が、さらに皮を剥ぐ時に身を減じた。
兵庫は辺りを見回し
「健次郎、栄次郎、隆三郎」
師である兵庫の声に三人は反応し、子ども四人を連れやってきた。
「先生。何か御用でしょうか」
「いや、我らが滅多に食えない旨いものを食わせてあげます」
「何ですか。それは」
「さっき獲った平目をおろした。おぬしらには旨い縁側を食わせてやる」
そう言うと、兵庫は四片の縁側を頭数に切り分け、少し醤油を掛け、
「一切れずつだ」
兵庫が一切れ取り口に放り込んで旨そうな顔を見せると
門弟三人と子ども四人の手が伸び、皿から縁側が消え、それぞれの口に放り込まれた。
「旨い」
「おいしい」
ぺろりと食べてしまった三人と四人の目が、皿に乗っている身を見ている
「これは、縁側より味が落ちるが、食いたいか」
七人が首をたてに振った。
「これは、向こうで話をしている爺様と女衆に用意したのだが、半分わし等で食おう」
兵庫は切り身を二切れ俎板に乗せると、八つに切り分け醤油を軽く掛けた。
「一切れずつ取れ」
弱肉強食、兵庫、門弟、子どもと大きい順に切り身が無くなり八人の腹に納まった。

Posted on 2012/02/21 Tue. 05:42 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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