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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第22話 追い剥ぎ(その13)】 

 四郎兵衛が帰り二人になると金を前に置き
「志津、今回の話で会所から頂いた、もう残っては居ない前金十両と、今日の礼金十両、それと刀は仕事で頂いたことにしましょう」
「そうですね。たまには尾頭付きも料理したいですから、そうして下さい」
「そうでしたね。尾頭付きといえば干物しか食べていませんね」
「はい、旦那様から頂いておりませんでしたので、これでお米も買えます」
「それは申し訳ありませんでした。まさか櫛簪は売っていないでしょうね」
「そこまではしていませんよ。貧乏暮らしの賄いはこれでも慣れていますから」
百両もの大金を目の前にして貧乏暮らしの話でその日は暮れていった。

 数日経った十八日、兵庫は父、多門と共に南町奉行所内の奉行の役宅に呼ばれていた。
「待たせて済まなかった。医者の治療を受けていたものでな」
奉行が尻を気にしながら座った。
「お奉行、倅兵庫がまた何か悪さを致しましたのでしょうか」
「悪さといえば悪さだが、わしが頼んだようなものゆえ、咎め立てはいたさぬ」
「その頼みごととは」
「多門も存じておろう。浅草で捕らえた六人のことを。あれだ」
「それは若林という若侍と町の者達が捕らえたと聞いておりましたが」
「そう言う事だが、実は一番手柄が兵庫なのだ」
「賊を捕まえるのが何ゆえ悪さで御座いますか」
「隠密廻りの調べでは、首謀者はさる大藩を脱藩したことになっている侍なのだ。表立った事件は起こしていないが、金を集めておる。豪商にも御用金としてかなりの額を出させたようだ」
「そのような者が何故、追い剥ぎのようなことを」
「それは分からぬが、まだ足らぬのであろう」
「町のものが捕らえられるのなら、吾等で捕らえることも出来ましょうが」
「すまぬ多門。わしも間も無く隠居をせねばならぬ。捕らえて後々命を付けねらわれるようなことはしたくないゆえ、兵庫に頼んだのだ」
「お奉行様、そのような裏事情があったのですか。それで水戸様から何か言ってきましたか」
「兵庫、何故、水戸と分かった」
「私の礫(つぶて)を受けた者が、水戸訛りでございました」
「やはり礫か。調べでは殴られ、顔を潰されたと聞いておったが、その者は水も飲まず断食し今朝方死におった。何も語らずにな。もう一人も長くはなさそうだ。これで水戸に知らせる義理立ても生じなくなる」
「左様でしたか。お話は伺いましたゆえ、下がらせていただきます」
「待て、兵庫。わしの下屋敷近くにやつらの隠れ家があってな、踏み込んだのだが、出てきたのは僅か数両だったそうだ。隠密の調べではこの一月(ひとつき)、藩邸のものとの接触はなく、奪った金を渡したとは思えぬと申して居るのだ。不思議ではないか」
「おそらくは追い剥ぎを追い剥ぐ者がいたのでしょう」
「そうか、それで謎が解けた。実はそれを知りたかったのだ。兵庫、追い剥ぎを追い剥ぐ者をまた追い剥ぐ者が居るかも知れぬぞ」
「顔を潰されぬよう致します」
「はっはっはっは~~」

第22話 追い剥ぎ 完

Posted on 2012/04/13 Fri. 05:24 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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【鐘巻兵庫 第22話 追い剥ぎ(その12)】 

 翌朝、兵庫が大あくびをしながら庭を見下ろすと志津が井戸で水汲みをしていた。
「水汲みは私がしますから、そのままにしておいて下さい」
兵庫の声に見上げる志津が、
「いいえ、少し力をつけておかないと、困りますから」
「困るとは、何かありましたか」
「はい、糠みその石が・・・」
「分かりました。頑張ってください」
そうは言っても兵庫は階段を駆け降りると、
「あとで稽古をしてあげますから水汲みは私がします」
「稽古って剣術のですか」
「いいえ、力をつける稽古です」
「私でも出来ますか」
「何事も、急がず、怠けずすれば出来るようになります」
その言葉は志津にとって嬉しいものであった。
怠けずにいればいつまでも稽古をしてくれる。
それは取りも直さず、長く連れ合うことを意味していたからだ。
生まれてから二十二年で初めて掴んだ幸せを末永く続けて行きたかったのだ。

 その日、来ることになっていた同心の久坂啓介は来なかった。
やって来たのは午前に大黒屋道太郎が四十七両から十両取って、残りの三十七両を持って来たのだ。
「皆さん、遠慮し過ぎですね」
「いいえ、会所の方からもかなり頂きましたので、それと持ちなれぬものを持たせますと間違いの元ですから」
「そうですか。これは受け取りますが何か困ったことが出来ましたら声を掛けてください。出来ることは致しますので」
「たまに親父に顔を見せていただければそれで十分で御座います」
そういい残すと道太郎は帰って行った。

 そして午後に吉原会所の四郎兵衛が上機嫌の様子を見せやってきた。
「鐘巻様、折角の五十両ですが、受け取らないことに決まりました。中の不始末を納めて頂いただけでも有り難いことで、お礼を出さねばならない身です」
と言って、渡した五十両の他に吉原から十両が積まれて、計六十両が持ち込まれたのだ。
困った兵庫が
「志津、どうすれば良いと思いますか」
「受け取れ、受け取れないの押し問答をしても仕方ありません。そのお金が吉原に有るよりは旦那様が持たれた方が役に立つ気がします。ですから受け取られたら如何ですか」
「そうですよ。金に麻痺している者がもっても無駄遣いしか出来ません。これで決まりましたな」
 と言うことで、この日に兵庫の元に九十七両と久坂に渡すはずだった三両と合わせ百両が転げ込んでしまった。

Posted on 2012/04/12 Thu. 05:24 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第22話 追い剥ぎ(その11)】 

 種蔵が探してきた付け木に火を点け、燭台に火を灯(とも)してみたが、金を隠してありそうな所は他に見つからなかった。
「種蔵さん、四郎兵衛さんに届けられそうなのは五十両ですがいいですかね」
兵庫から五十両を受け取った種蔵
「五十両全部戴いてよろしいのですか」
「盗られた方の面目が立つように返してあげてください」

 火の始末をして飯屋を出ると十三夜の月が冴え渡っていた。
「舟にはもう、料理は残っていないでしょうね」
「酒も・・」
腹を空かし、喉を嗄(か)らした三人が狭い掘割の水路から大川に出、御米蔵近くまで上って行くと灯りを点けた屋形舟が二艘と他にも舟が泊っている。
「何か、賑やかになっていますね」
「あれは廓の舟と取り巻き舟ですよ。おそらく花魁が桝田屋さんを迎えに来られたのでしょう」
種蔵の言うように、桝田屋は迎えに来た花魁の乗った舟に移っていた。
兵庫の乗った舟が横付けされると桝田屋が
「如何でしたか。守備は」
「二つ持って帰りました」
「これで、合わせて百になりましたな」
「はい、私の面目も保てました」
桝田屋はほんの一・二刻の間に百両もの金を手にした男に感心した様子で
「花魁、この方が志津様の御主人様ですよ」
兵庫が着飾った花魁に見入り、笑みを浮かべると
「良き殿御でありんすな~。是非遊びに来て・・」
「行かせませんよ、わたしの大事な殿御ですから」
別の船に乗って居た志津が花魁の言葉を遮って言った。
両方の屋形舟に笑いが起こり、種蔵が猪牙舟から花魁の屋形船に乗り移ると、舟は吉原へと上っていった。
「お腹が空いたのですが、何か残っていますか」
「はい、先ほど入船から深川鍋が届いていますよ」
届けられた深川鍋が猪牙舟に乗った三人と、屋形船の船頭卯之吉の膝元に置かれ食べ始めた。
「川風に吹かれての深川鍋、少し冷えていますが応えられませんね」
「旦那様、下ばかり見て食べていないで、たまには上も見てください。全てが十三夜のおかげですからね」
「そうですが下を見ていたのは・・・」
兵庫は手に持った箸の動きを止め、なにやら考え始め、笑うと
「出来ました。 “大川の波間に笑う十三夜”・・に見入っていたのですよ」
「あら、ほんと水の中でお月様が笑っています。それでは下の句を・・・」
志津は辺りを見回していた。
「出来ました。“虫も聞き入る流れの音よ”」
「ほんとですね。虫籠の虫ばかりでなく私の腹の虫も鳴くの止めています」
「まぁ~・・」
 一月(ひとつき)前の中秋に結ばれた二人の間には冗談が通じ合えるまでになっていた。
それを見ていた年寄りふたり
「“面白うてやがて悲しき月見かな”ですな」
「そうですな、そろそろ年寄りは上がりましょう」

Posted on 2012/04/11 Wed. 05:22 [edit]

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【鐘巻兵庫 第22話 追い剥ぎ(その10)】 

 そこへ捕り方を連れた役人がやって来た。
その役人、兵庫を見るや
「また、あんたかい」
「久坂さん。またはないでしょう。皆さんで捕まえたのです」
「皆さんで、こいつ一人か」
「裏に四人、座敷に一人の六人です」
「座敷?・・また斬ったのか」
「その、または止めてください。抵抗するので殴りつけたら顔が潰れました」
「それで、追い剥ぎと聞いたが、誰が幾ら取られたのだ」
「桝田屋さんが五両ほど」
「何、あの桝田屋が僅か五両か」
「お金は五十両ほど持っていたのですが、五両盗ったところで捕まえてしまったのです」
「それで、その桝田屋は何処に居る」
「今、大川で十三夜の月見をしています」
「何、月見・・・」
「桝田屋にとっては追い剥ぎも座興だったのでしょう」
そこへ四人が裏からしょっ引かれ、一人が戸板に乗せられ、縄を打たれていた梅吉に加わった。
「侍が居るようだが、刀はどうした」
「あれは川に・・」
「お主、刀を捨てた者をあれほどひどく殴ったのか」
「その辺の事情は明日、駒形で茶菓子を用意して待っています。今日は私も十三夜が見たいので」
「分かった。茶菓子頼むぞ」

 役人が賊を連れて去った後、兵庫が
「道太郎殿、すみませんが明日の茶菓子代三両ほど頂けませんか」
「五十両もあるのですから三両ぐらいの鼻薬が減っても文句を言うものは居ませんよ」
道太郎は笑いを堪えながら切餅を崩すと中から三両出し、兵庫に渡した。
「それでは、平九郎、種蔵さん。菊川まで行きますか」
「旦那、舟を使って下さい。太助頼むぞ」
兵庫は再び太助の舟に乗り、大川を下った。
途中、志津の乗っている屋形船により
「桝田屋さん。役人に聞かれたら金を五両出した所で、賊を私が捕まえたことにして下さい。獄門台に送りたくないものですから」
「分かりました。これから何処へ」
「先ほどの賊の家に行き、有り金を貰ってきます。内緒ですよ」
「はっ、はっ、は~~・・これほどの面白い月見をさせてくれた、あの追い剥ぎに礼を言わねばなりませんな」

 梅吉の言った通り、菊川町三丁目につぶれた飯屋がありすぐ見つかった。
裏から入り、
「皆、草履は脱げ、私らは賊ではないのです」
「暗いですね。火が残っていますかね」
兵庫は梅吉が言っていた座敷に入り、長火鉢に掛かる湯沸しをどけ灰の上に手を当ててみた
「付け木を探してください。火はあります」
そして長火鉢の引き出しを開けると切餅が二つと封が切られた小判が少し入っているのが目が慣れた薄明かりのなかに見えた。
「ここに五十両ありました。封を切られた金は残して帰りましょう。残しておかないと後から来る役人に怨まれますからね」

Posted on 2012/04/10 Tue. 05:19 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第22話 追い剥ぎ(その9)】 

 兵庫が屋形船に戻ると、舳先に乗っていた種蔵と呼ばれた会所から来た男は消え、代わりに屋形船の中には金を奪われた桝田屋が乗りこみ笑い声を上げていた。
「桝田屋殿ですか。金は取り戻しました。確かめてください」
「それは鐘巻様へのお礼にさせて下さい」
「こんなによいのですか」
「申し訳ありません、百ではなく五十です」
「志津、何を言ったのですか」
「はい、旦那様が追い剥ぎを追い剥ぎ百両貰うと言っていたことをですよ」
「そんなことまで、それより月が昇ってきましたよ。皆さんは月を愛でていて下さい。私はまだすることがありますので」
兵庫は切り餅を屋形船の船頭卯之吉に見せながら
「桝田屋殿にご祝儀頂きました。後ほどお届けします」
そう言うと、舟を大黒屋へと漕がせた。

 大黒屋に着くと案の定、種蔵が梅吉を締め上げていた。
「道太郎殿、他の賊は」
「一人は寝かせています。残りの四人は裏に縛ってありますが、もう直ぐ役人が来ると思います」
「そうでしたか、これは襲われた桝田屋殿からのご祝儀ですが、皆さんで分けて下さい。平九郎と卯之吉、それと私と志津のことも忘れずに」
 兵庫は懐から出した切餅二つ、五十両を道太郎に手渡した。
「ご・五十両もですか」
道太郎が眼を丸くしているのを、そのままに
「種蔵さん、それ以上折檻しないで下さい。聞くことがありますので」
種蔵が梅吉に最後の鉄拳を加え、梅吉から離れた。
「梅吉さん、住処(すみか)を教えて下さい。話してくれれば罪を減じるようにお奉行に頼んでみます」
「既にかなりの金を奪い取った以上首が無くなるのは分かりきったことだ」
「公には未だ先ほどの五十両しか盗って居ません。以前のは訴えが起きていません。金を隠してある場所を言えば、桝田屋から奪った金は十両以下にするよう、桝田屋さんに私から頼ます」
「嘘じゃねぇだろうな」
「私の嘘は顔に出るそうです。どうですか」
兵庫は梅吉の前に顔を近づけて見せた。
「梅吉、こちらの旦那は嘘の言えねぇお人だ。早くしねーと役人が来てお前達の盗んだ金を猫糞(ねこばば)されるぞ。挙句の果ては獄門台だ」
種蔵の脅しと説得に梅吉は首を縦に振った。
「分かった。深川菊川町三丁目のつぶれた飯屋だ」
「何ですか。お奉行の下屋敷の近くではないですか。ところで留守番は居ますか」
「いねぇ。裏から入れるよ」
「金は何処に・・」
「恐らく、奥の座敷の長火鉢の引き出し」
「恐らく?」
「怪我した侍の部屋だ。それ以上は分からん」
「分かった。信じましょう」

Posted on 2012/04/09 Mon. 05:19 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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