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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第24話 本所狸狩り(その23)】 

「色々とその旗本のことをお調べになられたお奉行はやはり辻斬りの目星が付いておられたのですね」
「ああ、刀自慢の腕自慢、己も無役でありながら無役のものを無駄飯食いとののしっておった。腕自慢の斉藤殿にはいざ鎌倉の折には働ける自負心が有ったのであろう。それゆえ無為に日をおくるだけの者を許せなかったのであろう。その様な家など潰れても良いと跡取りの決まっていない者を斬ったのだろうが家は取り潰せなかった」
「無役が悪いのではなく仕事を与えられない幕府が悪いのですよ。その点、人を上手に使うお奉行は善人で御座います」
「使ったのは十両分の筈が、その何倍も稼がれてしまったような気がするが。善人というよりお人よしかもしれぬな」
「いいえ、何倍も稼げたのは“早起きは三文の徳”で、たまたま狢(むじな)に出会わせただけのこと。十両は夜に出なかった狸の御蔭です」
「夜出るのが狸で、朝出るのが狢か」
「はい」
「そう言えば篠塚佐門が申しておった」
「なんと」
「月の出が遅くなってから、お主は見張りより本所界隈を物見遊山していたとな」
「そうでしたか。篠塚様も月末近くには物見遊山しておられました。お奉行が教えられたのですね。狸が死んだことを」
「いずれにしても気掛かりであった、事件にならぬ辻斬りが落着したようだな。来年には隠居しようと考えている。その時、狸いや狢殿の残した刀を見せて貰おうか」
「宜しいですが、狢に取り憑かれぬよう、稲荷にでも詣でておいてください」
「それほどのものか」
「志津に抜いて見せたところ村正と言いますので調べましたが、銘は潰されておりました」
「村正に間違いないであろう」
「何故、そのように言い切れるのですか」
「まだ、分からぬのか。篠塚の話ではお主の連れ合い殿が河内屋に入ったと聞いておる」
「はい、確かに」
「あの折、志津殿はお主が奪った刀の自慢話を聞かされておったのじゃよ。狢殿にな」
「その様なこと、一言も言いませんでしたが」
「村正の話しは推測だが、腹を切った旗本があの席に居たのは確かな話だ」
「そうでしたか。どうやら狸を狢に変えた狐が出ていたのですね」
「その様だな。ところで刀、幾らで売る」
「もう取り憑(つ)かれましたね」
「分かった。狐殿のご利益を貰うため、来年の恵方では稲荷に詣でることにする」
「それでは、ご隠居なされた頃に下屋敷にお伺いいたします」

 次の日、駒形の家に遠山左衛門尉の使いが来て十両とあぶらげを置いて帰った。
「旦那様。何でしょうか、このあぶらげ」
「それは、我が家に住み着いた狐殿へお奉行からの捧げ物ですよ」
「そうでしたか。尻尾のない花魁(おいらん)の手管を知られてしまいましたか」
「晩飯にあぶらげの入った味噌汁でも飲みながら、その話を聞かせてもらいますよ」
「そうですね。それまで間がありますので・・・」
「分かりました。その目は・・・水でも汲みに行って来ます」
志津の言葉を遮り兵庫は立ち上がると、水桶を持ち裏庭へと出て行った。
それを見送る志津の顔が笑っていた。

第24話 本所、狸狩り 完

Posted on 2012/05/22 Tue. 04:55 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第24話 本所狸狩り(その22)】 

 茶を入れなおした志津がやってきて
「随分と楽しそうなお話ですが蓼につく虫をお世話頂くには及びませんよ。もう、付いておりますので」
「その様だな、養子に来ぬかと口説いていた所だったのだが、当てが外れた」
「あら、婿殿でしたら、若林様は如何でしょうか」
「いや、こちら金子様はお旗本、若林の家は御家人百五十石の家、家格が合わぬでしょう」
「その若林という者、歳は幾つじゃ」
「確か、十八かと」
「剣術の腕前は」
「先日、桶町の千葉道場で試合を行ったのですが、中目録の者を打ち負かしました。伸び盛りですのでまだまだ上達致しましょう」
「左様か。よい話を聞かせて貰った。昼までに帰ると言って出てきたのでそろそろ帰らねばならぬ」
「それでは、またお越し下さい」
「次にハゼを持ってくる日が楽しみなったぞ」
「お待ちしております」
金子宗太夫は機嫌よく帰って行った。

 月の出が遅くなった霜月の十八日からまた九人による三家の見張りが始まった。
変わったことと言えば、見張り役が竪川、御竹倉の堀そして北割り下水の堀に釣り糸を垂らす暇つぶしを見つけたことぐらいだった。
それが存外釣れるのだ。
多くはハゼだったが、川魚のウグイなども釣れた。
こうして、釣をしながらの見張りが晦日まで続けられたが何も起こらずに終わった。

 月が替わった師走の一日、兵庫は南町奉行所、遠山左衛門尉の役宅に居た。
「兵庫、何しに参った」
「何しにとは・・お忘れですか。十両頂に参りました」
「何だ。十両とは」
「確か、狸が出ぬ場合は十両工面して頂くとになっておりましたが」
「覚えておったか」
「私と篠塚殿の他に七人雇いました。延べ二十四日の見張りで十両二分出費した他、三食の面倒もみました。此度のお役は散財で御座いました」
「分かった十両は後ほど届ける」
「有難う御座います」
「ところで、折角来たのだから不思議な話を聞かせよう」
「どのような」
「本所のある旗本だが倅殿の惣領願を出し、先日お城の畳廊下で上様とのお目見えを済ませたそうだ」
「それでしたら、お家安泰で結構な話でございます」
「そうだ。それで安心したのであろうか、死んだそうだ。腹を切ったという噂がもっまらだ」
「何故腹を?」
「その旗本が家禄を譲った訳が、利き腕を折り、お役を果たせなくなったからだそうだ」
「そんなことで、腹を切るとは思いませんでした」
「兵庫、そっちの話を聞かせてくれ」
「はい。見張りを解いた翌日の朝方、本所へ朝駆けに出ましたら、釣りに出かけられた金子宗太夫殿を襲う賊に遭遇したため、これを懲らしめ、両刀を奪い帰しました」
「それで、つながった」
「何がですか」
「小者の話では、朝出かけ無腰で戻ってきたそうだ。家の者にも大切にしていた刀がどうなったかも語らずに逝ってしまったそうだ」

Posted on 2012/05/21 Mon. 04:53 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第24話 本所狸狩り(その21)】 

 その日の朝四つごろ、客がやってきた。
志津が髪結いに出かけていたため兵庫が出ていくと、金子宗太夫が立っていた。
「これは金子殿、お越し頂かなくても宜しいものを、どうぞお上がり下さい」
奥の部屋に通された金子は興味ありげに色々と見ていた。
茶を入れて持って来た兵庫に
「今朝ほどは礼を言うことも出来ず失礼申しました。命の恩人にどのような礼を申しても足らぬのは分かっているのだが、貧乏旗本の気持ちじゃ、受け取ってくれ」
出されたのは袱紗に包まれた小判のようであった。
「御気持ちだけで結構で御座います。それに持ち慣れぬものを持つのは怪我の元ですので」
「その様に言われても、こちらも困る。是非受け取って頂きたい」
「困りました」
暫らく考えていた兵庫だったが
「それでは私の願いを聞いて頂くことで、此度のお気持ちにさせていただきます」
「何にかな。その願いとは」
「釣りがお好きなようですのでお願いしたいのですが、正月料理にしたいのでハゼを百尾ほど釣って頂きたい。それと、この月は御用など無い時は表に出られぬようにして頂きたいのですが」
「この月は禁足して、来月羽を伸ばせということか」
「はい、それで結構で御座います」
「これは有難すぎて涙が出るような願いごとじゃよ。我が家の連れ合い殿に暫らく出歩くのは止めろと云われ、渋々だが聞くことにしたのだ。じゃから今月ぐらいはおとなしくしてようと思っておった。来月からは命の恩人からの頼まれごと、その釣りに行くのを止(よ)せとは言えまい」
「お聞き届けいただき有難う御座います」
「ところで、地天流剣術指南と看板が掛かっていたが、道場は?」
「道場ですか」
兵庫は立ち上がると障子を開け、掃き清められた庭を見せた
「庭が道場か」
「御蔭で草鞋を編むのも上手くなりました」
「それにしても門弟がおらぬな」
「はい、一番多いときで十名ほどでしたが、今はたまにやってくるものが一人だけです」
「それでは暮らしが成り立たぬであろう。どうだ嫁を貰わぬか」
「暮らしが楽ではないのは仰せのとおりですが、嫁は居りますので」
「嘘を申すな。どうだ婿に来ぬか」
そこへ髪を結いなおした志津が帰ってきた。
「お客様でしたか。どうも留守にして申し訳ありませんでした」
「御旗本の金子様です」
金子は茶を入れ替えている志津を見ながら
「お主のか?」
「はい、そのようです」
「わしの娘もなかなかなのだが、とてもかなわぬ」
「もそっと、小さな声でお話下さい」

Posted on 2012/05/20 Sun. 04:44 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第24話 本所狸狩り(その20)】 

「何故、笑うのですか」
「それは十八日以降の見張りはしなくても良くなったからです」
「いいえ、見張りは続けます」
「どうしてですか」
「辻斬りが出るとお奉行からは一文も頂けません。辻斬りから奪えといわれました。出なければ十両頂けます。これまで七人に十一日分の日当七十七朱ですから四両三分一朱の支払いをしています。それに三食付けているのですから持ち出しを取り戻さねばなりません」
「でも・・辻斬りはお役人に渡したのではありませんか」
「辻斬りと取引してこの二本を貰い、放免しました」
「そんなことをしたら。またしますよ」
「大丈夫です。利き腕を使えないようにしましたから」
「そんな立派なお刀をお持ちの武家が、何故、辻斬りをするのでしょうか」
「知りたいですか」
「はい」
兵庫、辻斬りから奪った刀を抜いて、志津に見せた
「私には、お刀のことは分かりませんが、これは・・・村正の様ですね」

 志津は兵庫が持ち帰った刀を見たとき、その刀が先日河内屋で斉藤某の持っていた刀であることを知ったのだ。
あの夜、斉藤は酔うほどに刀談義を志津に聞かせた。
「わしの今夜の刀は、大きな声では申せぬが村正なのだ」
志津は驚く振りを見せ、斉藤を満足させた。
その斉藤が辻斬りの犯人だとすると、斉藤は大枚掛け人を呼び餌食となる者を選んでいたのかもしれないと思えた。
その餌食として選ばれたのが、あの席に来ずに斉藤を怒らせた金子だったのだなと思った。

 その様なことを聞かされていない兵庫は志津が刀をチラット見ただけで“村正”と言ったことに驚かされた。
「私も刀のことは判らないのですが、これはなかなかの刀です。もしこの刀が村正なら辻斬りをさせたのが分かる様な気がします」
「その様な刀を持たれて旦那様は平気なのですか」
「それは平気です。人それぞれで何に惹かれるかは違いますから」
「私が旦那様の所に参ります時“何故行くの”と問われたことがありました。辻斬りにとってのその刀は私にとっての旦那様のようなものだったのですね」
「ちょっと違います。この刀はおそらく本物の名刀ですが、志津の場合は“蓼食う虫も好き好き”という類でしょう」
「旦那様が“蓼”でしたら安心できるのですが」
「そうですか。安心して下さい」
刀の話が、蓼に代わり、その話を続けながら志津は冷えた汗で湿った兵庫の着替えを手伝った。

Posted on 2012/05/19 Sat. 04:44 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第24話 本所狸狩り(その19)】 

 寺の前を過ぎていく宗太夫の背後に黒い影が迫っていた。
「まてっ!」
兵庫の大声が刀を抜きかかった頭巾を被り目だけを出した侍の動きを一瞬止させ、振り返らせた。
宗太夫を斬ろうとした侍の刀は、急速に迫る兵庫目がけて唐竹割に切り下ろされた。
縦に振られる刀を避けるには、ほんの身体半分体をかわせばよい。
言うのは簡単だが、かわす間を見極めるのは難しい。
兵庫は刃音を聞きながら、辻斬りの脇を通り抜けると呆然と立ち尽くす宗太夫の前に立ち
「辻斬りです。脇差をお貸し下さい」
ようやく事情を察した宗太夫から脇差を受け取った兵庫
「地天流、鐘巻兵庫お相手・・・」
兵庫の声が終わらぬうちに、歩み寄って来た侍の二太刀目が兵庫を襲った。
受け流すことも出来たが、後ろに居る宗太夫に刃が向いてはと思い、辻斬りの振り下ろす刀を脇差の鞘ごと受けながら体を捻り、相手の向こう脛を蹴った。
片足を外され、のめる様に倒れた侍の右籠手を抜き放たれた脇差の棟が激しく打っていた。
刀を取り落とした侍に
「両刀を置いて去ればよし、さもなければ役人に引き渡す」
利き手の骨を打ち砕かれた侍に抗(あらが)う余地は無かった。
腕を押さえ足早に去っていく辻斬りを背に
「お刀の鞘を傷つけてしまいました。申し訳ありません」
そう言い、兵庫は脇差を宗太夫に返し、薄暗い道に置かれていた抜き身の大刀を拾い上げ鞘に納め、脇差を拾い上げると
「今朝の釣果は太刀魚二本、悪くは無い」
と言い立ち去ろうとする兵庫に
「鐘巻殿と申されましたな。拙者、金子宗太夫と申す。危うい所をお助け頂きお礼の言葉も御座らぬ。拙宅が近くですのでお越し願いたい」
「ご無事で何よりです。私も稽古中ですのでこれにて失礼仕ります」
「それでは困ります。せめてお住まいをお聞かせ願いたい」
「川向こう駒形で流行(はや)らない道場を開いて居ります」
走り去っていく兵庫を見送りながら、宗太夫は釣竿を拾い上げると釣りには行かずに兵庫の後を追うように屋敷に戻っていった。

 朝駆けから戻った兵庫が刀を二本持ち帰ったのを見て、志津が
「お怪我はありませんでしたか」
「いや、大丈夫です」
志津は兵庫の周りを回って、
「半纏の右袖が少し斬られていますから繕っておきます」
「これで辻斬りは出なくなるでしょう」
「えっ?、襲ったのは夜出るはずの辻斬りだったのですか」
「恐らくそうです。先日まで見張っていた金子殿が襲われたのですから」
「そうでしたか」
頷いた志津はなぜか笑みを見せた。

Posted on 2012/05/18 Fri. 04:40 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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