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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第42話 用心棒(その22)】 

 兵庫がわざわざ遠山金四郎に頼むなどの算段をして、野州屋に百両の鼻薬を使わせずに済まさせたのは、百両は兎も角その半分、四半分を期待してのことだったのだが、志津が折角の百両の礼金を五両で済ませてしまったことにため息を吐きたい気分だった。

 泉州屋に問われた志津の判じ物めいた話に兵庫も考えさせられ、ことの流れをさかのぼっていた。そして志津に野州屋に出かける目的は使用人を助けることだと言ったことを思い出し、合点がいったのか、ようやく口を開いた。
「志津が出された百両から少し多いと言い九十五両もの大金を戻し、五両を沢山と言い戴いたのなら、それは恐らく分ける人数が違うからでしょう。頂いた五両は私と志津の二人ですから大金ですが、九十五両でも店の者に長年にわたり分け与えれば一度に渡す金は少しになるということではありませんか。九十五両は店で働く者のために役立てて下さい」
ほんの少しだが沈黙が続いたが六左衛門が納得したのか、頭を下げた。
「重ね重ね奥様には恐れ入りました」
「重ねがさね?・・・」
「はい。帰り際に奥様から戴いた短冊が私に倅を許す決心をさせてくれました」
といって、大事そうに文箱から出し兵庫に手渡した。
そこには、万葉の歌が書かれていた
“白金も黄金も珠もなにせむにまされる宝子にしかめやも”
兵庫は黙読して頷いて見せた。
「志津が待っていますので、私はこれで失礼致します」
「お手間を取らせ申し訳ありませんでした」

 駒形の家に戻ると既に大戸が下ろされていた。
潜り戸を押し開け入ると、志津が表の部屋で組紐を網ながら一人待って居る姿を燭台の火が照らしていた。
「皆さんは」
「先ほどまで居ましたが、旦那様のお腹の音が聞こえたのでしょうか、気を利かして出て行きましたよ」
「確かに腹は大騒ぎしています。野州屋は何とか、無事治まったようです」
「それはお疲れ様でした」

 遅くなった夕飯を食い、旅の疲れと汚れを風呂で流し出てきた兵庫は、代わって風呂に行くお志津の腹を撫でながら
「まされる宝子にしかめやも」
志津は兵庫の手に己の手を重ね笑って見せた。

第四十二話 用心棒 完

Posted on 2013/03/19 Tue. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第42話 用心棒(その21)】 

通された部屋の空いていた上座に兵庫座ると、主の六左衛門が口を開いた
「鐘巻様。ここに居る者で隣が女房のそめで、下に控えますのが惣吉の兄、仙太郎で御座います」
「鐘巻兵庫申し、駒形で道場を開き、具足の商いをしております」
「鐘巻様には此度のことが表沙汰にならぬよう一方ならぬお世話を頂き、野州屋六左衛門感謝しております。此度の事件は昨晩鐘巻様よりお聞きした話と仙太郎の話と合わせて私なりに判断しますと、仙太郎の囲い者のさだが仕組んだことのようです。手を貸した手代の松吉も神妙に白状いたしました」
「どのようなことでしたか」
「欲得から、仙太郎が野州屋に戻り跡を継ぐことを願う者が、惣吉に子が出来たことで慌てたようです。仙太郎は勘当されていますがその気風と気前の良さが惣吉より良いのです。
そのため、外の良からぬ企てに、中で働く者も誘いに乗ってしまったようです」
「外の欲張り者はどうするつもりですか」
「どうするも、仙太郎の店の小金を持って消えてしまったそうです」
「これ以上悪さをするものは居なくなったわけですね」
「お蔭様で。しかし、元はと言えば主である私の至らぬところと承知しております。二度とこのようなことが起こらぬよう、二人の倅どもを目の届く所に置き商いの道に励ますようにさせます」
「それはよう御座いました。仙太郎殿をお許しなさるのですね」

「はい、ばらまくだけで金遣いの下手な仙太郎も三年ほど外で商いし、まいた金を取り戻す使い方を覚えたようです。惣吉、お前は金の使い方、兄よりは益しだったが、みみっちぃのです。それだから、お前が野州屋の主に納まるのを嫌われたのです。今後、店を任された時の話だが、周りの店よりお手当てが少ないと良い使用人は集まりませんよ」
「六左衛門殿、お小言はその辺にして下さい。私も屋敷に戻ったような気がしていけません」
兵庫の冗談が座の緊張を和らげた。
「今日は町人育ちの私には分からぬことが御座いましたので、教えて下さい」
「何でしょうか」
六左衛門は懐から切餅三つと財布から二十両、合わせて九十五両を畳の上に置いた。
「この金はいざとなったら栗橋の役人に使う鼻薬として用意した百両の一分です。鐘巻様のお働きで栗橋では使わずに済みましたので、帰りに駒形に寄り鐘巻様の奥様に御礼として渡したら、少し多いのでと言われ封を切られ五両取られたのです。そしてその五両を、こんなに沢山戴き申し訳御座いませんといわれたのです。奥様は私に何をいいたかったのでしょうか」

Posted on 2013/03/18 Mon. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第42話 用心棒(その20)】 

「店の事情を知って居る者から洩れたとしか私には思えませんが。店に仙太郎さん、浪人、女、逃げたやくざ者などとつながる者は居ませんか」
「母が兄への使いに手代の松吉を使っています」
「仙太郎さんは勘当されたと聞きましたが、その居場所が分かるのですか」
「それは母の実家、叔父さんに独り立ち出来るまで世話を頼み、今は近くの京橋南尾張町二丁目で小間物屋をやっているようです」
「それともう一つ。二十三日に出立が遅れたため夜になり襲われたと考えると、遅れた訳が知りたいのですが、何が在ったのですか」
「部屋に飾ってあった納める呉服に糸ほつれが見付かったのです。そう言えばそれを見つけたのは・・・」
「松吉さんでしたか」
「はい」

 兵庫は惣吉から気になっていたことを聞き終えた。
「それでは出掛けてきます。先に寝ていて下さい」
「どちらへ?」
「惣吉さんを狙う者をどうしたら無くせるか考えてきます」
「ありがたいのですが、わざわざ外にいくのですか」
「惣吉さんは自分のことですから眠れないでしょうが、私にとっては他人事です。布団に入ったら寝てしまうでしょう」
惣吉は兵庫の冗談に初めて笑みを見せ
「納得しました。お出かけください」

 利根屋を出た兵庫は、本陣に泊まっている六左衛門の部屋で、惣吉と話し得たことを話していた。
「仙太郎の仕業とは思いたくありませんが、悪い話しか出てきませんな」
「私は仙太郎殿について聞いたこと以外知るところが何もありません。出来ることなら会ってことの真偽を確かめたいものです」
六左衛門は頷いていた。
「六左衛門殿。惣吉殿と私は明朝遅れて出ますので、先にお戻りいただき惣吉殿を出迎えて下さい」
「そうさせて貰います」

 翌朝、兵庫と惣吉は朝六つ半に宿を出た。
道中、惣吉が心配していたようなことは何事も起こらず、半日経った夕六つ過ぎ、日本橋室町の野州屋の店前に着いた。
「有難う御座いました」
惣吉は一言礼を述べ、懐から財布を取り出した。
「昨日、今日の二日分として、気張って一分お出しします」
兵庫は軽く頭を下げ、受け取り帰ろうとすると、番頭が暖簾を分け出てきた。
「鐘巻様。主人六左衛門が奥で待っております。若旦那様もご一緒にとのことで御座います」
怪訝な顔を見せる惣吉を背に兵庫は暖簾を潜り入って行った。

Posted on 2013/03/17 Sun. 04:30 [edit]

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【鐘巻兵庫 第42話 用心棒(その19)】 

「それにしても酒が来ぬな」
「その話をネタに酒を飲みに来たのでしょう」
「図星。もしやと思い来たのだが、お主の形(なり)を見てがっかりしたぞ」
「がっかりしたからと言って、変な目で見ないで下さい」
「やぁ~、すまぬ」

 島田の喉が十分渇いたところで、二合徳利が二本運ばれてきた。
「ここで飲まれるは構いませんが、私たちは明日が早いので、その辺のことを考えて下さい」
「分かっておる。ここに在るだけ飲めば帰る」
「それでは」と兵庫が徳利をとって島田に酒を勧め始めた。
「嫌われたかな」
「人が酒を飲むのを見ても面白くありませんよ」
「それは、わしも同じだ。だが、見させるのは苦にならぬ」
「参った」
「あはは、ところでお主、これまでに何人、人を斬った」
「その様なことを、お役人様の前で言えますか」
「今は役人ではないぞ」
「真剣勝負は何度か在ります。負けたのは、この首に傷を受けた時だけです」
兵庫は首の傷を指差して見せた。
「なるほど。負けたが生きているな。相手はどうした」
「墓の下です」
「生きているお主が負けで、墓の下に居る者が勝ちか」
「気持ちの問題です」
「わからぬ」
「お役人なら過去の斬った、斬られたがどのように行われたか調べることも出来るでしょう。その多くは罪人が仕置きされる様に無抵抗なものです」
「そうだな。辻斬り、闇討ち、まともな勝負などないかもしれぬな」
「この首の傷は闇討ちと言えば闇討ちでした。ただ、闇討ちがあることは分かっていたので用心はしていました。しかし、この通り防ぎきれず、兄弟子の手を借りました」
「そう云うことか」
島田は手から猪口を離すことなく、四半刻ほど兵庫に物騒な話をさせていた。
「御酒無くなったようですよ」
兵庫は島田の前の徳利を逆さまにして見せた。
「そのようだな。良い話を聞かせて貰いました」
島田は言葉通り目の前に置かれていた酒を飲み干すと帰って行った。

 島田を見送り部屋に戻った兵庫は、惣吉と向かい合った。
「惣吉さん。死んだ浪人を見たのは何時何処だったか覚えていますか」
「はい、二度ほど店に来ていました。女のお客様のお供といった感じでした」
「仙太郎さんとその浪人は知り合いというのは確かですね」
「実は、二人が一緒に居たのを見たことはありませんが、買い物にきた女と兄が一緒に居たのは見たことが御座います」
「なるほど。もう一つ聞きたいのですが、浪人は惣吉さんが宇都宮まで出かけることをどうして知ったのでしょうか」
「そのことを私も考えていたのですが・・・確かなことは言えません」

Posted on 2013/03/16 Sat. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第42話 用心棒(その18)】 

「川向こうまで行かれたのですか」
「出来ればお持ち頂いた重いものを使わずに済ませられればと思ったのです。私の軽いものは、あの荷ですか」
「はい」
兵庫は荷を取り出すと、着ていた物を脱ぎ着替え始めた。
六左衛門は兵庫が無造作に脱ぎ捨てていく侍らしからぬ様子を見、口を開いた。
「奥様のことは会うまで信じられませんでしたよ」
「私も、未だに信じられません」
「はは、面白いお方だ。しかし、この度のお働きを見ますと、分かるような気がしてきました」
着替えを終えた兵庫、
「すみませんが、脱いだものは女中を呼び畳ませて下さい。私が持参した風呂敷の荷も預かっておいて下さい」
日本橋で会った時の姿に戻った兵庫を六左衛門は玄関まで送った。

 兵庫が旅籠・利根屋の部屋に入り暫らくすると暮れ六つの鐘が打ち鳴らされた。
最後の渡し船に乗っても関所を素通りできれば四半刻は掛からない。
旅人は早く関所を抜けたいと思い、役人も一日の仕事が早く終わることを願うので滞ることは滅多に起こらない。
そして四半刻を待たずに惣吉が宿に着き、部屋にやって来た。
惣吉は兵庫の形(なり)が先ほど会った時と余りにも代わっているのを見て、言葉に詰まった。
「惣吉殿、一人二役です。川向こうで見た私のことは忘れて下さい。無事、通れたようですが、どうでしたか」
「それが、鐘巻様の申されましたように、嫌なものを見せられました」
「やはり、見せられましたか。それで、知り合いでしたか」
「見たことのある顔でした」
「仙太郎殿の知り合いでしたか」
「はい、恐らく」
「分かりました。今日、ここに私たちが泊まるのを知って居るのは関所の島田殿。来るかもしれませんので、その時は、もう命を狙われる心配事が無くなっていますので陽気に振舞ってください」
「分かりました」
 
 二人が晩飯を食っていると、案の定、島田がやってきた。
「随分と早いですね。先日は未だ問屋場に居た時刻ですよ」
「今日暮六つでお役の番代わり。明日から暫らく手足を伸ばせる」
「そうでしたか。お役は何家で交代されておられるのですか」
「四家だ。そんなことより不思議な話がある。聞いてくれ」
「聞かせて下さい。惣吉さん、お酒を頼んで下さい」
「それには及ばない。頼んできた」
「それでは不思議な話を聞かせて下さい」
「それだが、お役目が終わり今日書かれた、当家の関所番録に目を通していたら、なんとお主と同じ名の武家が朝夕通って居たのだ。お主とは違い立派な形をしていたそうだ」
島田は兵庫の普段着姿を見て首を横に振った。
「それは偶然とは言え私も不思議な気分です。しかし私より立派だったのが気に入りませんね」

Posted on 2013/03/15 Fri. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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