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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第50話 小春日和(その27)】 

 賊たちとの会話が途切れ時が経っていった。
「先生。片づけが終わりました」
「ご苦労でした。あちらの方が国への頼りを届けたいと申しています。源次郎は吉衛門殿の部屋に文机がありますので、廊下に出して書き取って下さい。甚八郎と富三郎は警護して下さい」
暫らくして富三郎がひとりやってきた。
「先生。脇差も届けたいと申しておりますが、如何致しましょうか」
「奉行所に脇差のこと聞かれた時、侍として持って居無いことに出来るのなら預かり、願いを叶えてあげましょう」

 夜明けは夕べの雲が消え、晴れ渡り、冷たい大気が茜に染まる中、朝日が昇った。
賊を捕まえた一報は、夜中に引き上げた大黒屋の船頭から駒形の兵庫の家に泊まった吉衛門夫妻にも伝えられ、朝飯を食うと舟で亀戸まで戻ってきた。
 知らせを受け奉行所同心の坂牧が捕り方をつれやってきたのは、五つの鐘が鳴り、兵庫と吉衛門が口裏を合わせた後だった。
「坂巻さん。遅いですよ。寝ずの番をさせられましたよ」
「すまぬ、こっちも寝てはおらん。夕べは商売繁盛でな手配中の賊が竪川添いの商家に入る動きを見せたのだ。こっちは鐘巻さんに任せておけば何とかなると思ったのだ。お手柄お手柄」
「坂牧さん。お手柄は、あの三人ですよ」
兵庫が母屋の縁側、陽だまりのなか主の吉衛門と話を交わしている、若い門弟を指差した。
「本当か? まぁ良いだろう。賊を捕えた恩賞の銀五十枚はあの三人で分けてもらうよう手配しておく」
「私は訴人で銀十枚になりませんか」
「八丁堀で育ったのなら、訴人とは奉行所に届けることぐらい知っているだろう。久坂に言付けしただけでは駄目だ」
 同心の坂牧は若い門弟三人と吉衛門から話を聞き、それを書留めると、他にもまだ事件を抱えているのか賊五人を引っ立て帰って行った。

 小春日和の陽射しの中、兵庫と道場に戻ってきた門弟三人は若い娘たちに出迎えられた。
逞しさを増した男を見る女たちの眼差しは弟子たちにとって小春日和の陽射しの中に身を置くように心地よさそうに見えた。
 異国船話で、道場から門弟三人が消え、火の気を失ったような時期が続いていたが、今は以前より温もりが増していた。

 その日の午後、兵庫が紋付き袴姿に着替え待っていると吉衛門が正装して道場にやってきた。
吉衛門が賊を捕えた若者たちの家に礼を述べたいと、兵庫に頼んでいたのだ。
兵庫に伴われた吉衛門が根津家、志村家そして大村家を訪れ、礼を言い、持参した十両の礼金を渡して回った。
どの家も、まだわが子から話を聞いていないため驚いていたが、子の成長を喜んでいた。
兵庫も又嬉しかった。

第五十話 小春日和 完

Posted on 2013/08/05 Mon. 04:30 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第50話 小春日和(その26)】 

「鐘巻さん。用が済んだようだ、帰っても構わぬか。船宿の朝は早いのだ」
「お手数かけました。陸路は木戸も多いので舟で送らせます」
「いや、賊は舟で来たのだろう。その舟を借りて帰ります」
碁四郎が出て行くと、今度は太助と浅吉が
「あっし等もけぇ~りやす」
そして辰五郎と栄吉も帰って行った。

 十人居たが助っ人の五人が帰り、寒い庭に兵庫、甚八郎、源次郎、富三郎と下男の耕作が残された。
「耕作さん、寒いので庭の中程に薪を井桁に五・六段組んで篝火を焚いて下さい。皆も手伝いなさい」
耕作がその支度に門弟三人と裏へと行くと、提灯の火がなくなり暗くなった。

 兵庫は闇の中でも後悔の念を隠しきれない浪人を見ていたが、その浪人の前に立った。
「お気の毒ですが、夜が明けたら皆さんを奉行所の手に渡します。恐らく重い咎を受けることになるでしょう。奉行所で身元を正直に言えない方で願い事が御座いましたらお伺いし、出来る限りのことを致します」
うなだれていた一人の浪人が頭を上げた。
「すまぬが、国へ頼りを送って貰えぬか」
「分かりました。後ほどお伺いいたします」

 裏に行った四人が薪を抱え戻り、庭に井桁に組上げると、耕作がその中に燃えやすい焚き付けを入れ、火を付けた。
「甚八郎、源次郎、富三郎、廊下の竹柵を取り払い、竹は束ね、使えぬ物は燃やしなさい」
「はい。先生」
捕らえられた者が若侍三人の動き回る様子を眺めていた。
「私は自身番へ行ってきます」
「耕作さん。お願いします」

 賊の廻りには兵庫一人になった。
「平蔵。楽な仕事には成らなかったな。季節は合わぬが飛んで火にいる夏の虫だった」
「すいません。これほど用意されているとは・・・」
「お主、先生と呼ばれていたが何の先生だ」
「私は、鐘巻といい、駒形で剣術道場を開いています。弟子はあの三人だけですが」
「あんたが鐘巻さんかい。どうりで、帰って行った、碁四郎とかいう若い者も強かった」
「碁四郎さんは、ある剣術流派の三代目ですよ」
浪人は納得したのか頷いた。
「それにしても、わしらが押し込むのをどこで知った。教えてくれ」
「黒門の高札前で良からぬ話をしていた方を、吾妻橋を渡るとき又お見かけし、気になったので後をつけたら、この家の周りを巡り、一膳飯屋に入りました。私も近くに座りお話を聞きました」
「そう云う事か、だが飯屋で侍は見なかったぞ」
「あの時は、股引きに腹掛けに綿入れ半纏を着ていました」
「お主、剣術を教える侍だろう」
「はい。形だけの侍を通しても暮らしが立ちません。二本差さずに生きる修業しているのです。おかげで近頃は食えるようになりました。二本に頼ればどうなるかお分かりでしょう」

Posted on 2013/08/04 Sun. 04:18 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第50話 小春日和(その25)】 

 何もせずに待つのは長いのだが、時は流れ四つの鐘の音が聞こえて来た。
「旦那、そろそろあっしと浅吉は舟に行きますんで」
「お願いします。私たちも皆、外に出、賊が思わぬ所から来るかもしれませんので用心しましょう」
こうして、身ごしらえを整えた侍衆も外に出、更に待つ身の辛さを寒空の下で味会うことになった。

 間もなく子の刻の鐘が鳴る頃になって、兵庫たちの推測どおり賊たちは小舟に乗り横十間川の南からやってきて天神橋付近の船着場に泊まった。
薄雲を通して届く月の光が地上に上がった黒い影が動くのを見させた。
黒い影が川端から消えていくのを船着場から離れた所に舫(もや)った船の中で筵(むしろ)を被り見ていた太助と浅吉
「太助あにぃ、二本差し三人にやくざ者二人だ」
「分かった」
太助は筵を跳ね除けると見事な犬の遠吠えをし、それに続け野太い犬の鳴き声を三度、そして仔犬の鳴き声を二度あげた。
 犬の鳴き声は吉衛門屋敷や他を見張っていた者にも届いた。
「賊は五人。侍三人に町人二人だ。皆、持ち場に着け」

 兵庫たちが寝ずの番をしているとも知らずにやってきた賊の五人、生垣の外から屋敷内を覗いていたが嫌な顔をした。
「臭ぇと思ったら、下肥を撒きやがった。もう少し茂らせるつもりのようだ」
「幾ら何でも、門の辺りには撒かんだろう」
生垣の隙間から入ることを諦めたのか、賊の五人は表門までやってきた。
やくざ者が、少し持ち上げるように戸を押すと開いてしまった。

 屋敷内に入った賊は玄関へ通じる玉砂利に足を踏み入れたが、存外大きな音がするため砂利道を避け進んだ。
そして母屋南側の庭に導かれてしまった。
「よし、誰か雨戸を外せ」
その声で、やくざ者が進み出て、その一人が匕首を抜き、慣れた手つきで雨戸の下に差込むと、雨戸が持ち上がり、二人で音を立てぬように外した。
押し込もうとしたが、廊下には青竹が組まれた柵が出来ていた。
出鼻を挫かれた五人の賊、中でも後ろに居た浪人三人が異変に気づき抜刀し、四方を見た。
その一人に兵庫が気合いと伴に印地打ちすると、「うっ」とうめき声があがり、うずくまった。
 これが合図となって庭に隠れていた侍五人が飛び出し押し包みながら木刀を抜き身を持つ賊の腕や小手に振り下ろした。
「刀を捨て地に伏せろ。捨てるまで容赦せず打て」
流石に刀を捨てる浪人は居なかったが、更に腕・拳を木刀で打たれ刀は手から離れていった。
傷めた手で脇差を抜いてはみたが、激しく刀身を打たれると堪えられず弾け飛んでしまい、逃げようとしたものは脛を打たれ悲鳴をあげた。
五人の賊は、たいした抵抗も出来ずに動きを止めた。
「もう一度言う。叩かれたくなければ、その場に座れ」
殆ど動くことも出来ずに賊の五人は地に座してしまった。
兵庫は木の枝に掛けておいた拍子木を取ると打ち鳴らした。
物音が静まると、提灯を下げ、縄を持った耕作、辰五郎、栄吉が裏から、表からは太助と浅吉がやってきた。
門弟たちが賊の使った得物を集め終わると、侍たちが見守る中で賊の五人が次々と縛り上げられていった。

Posted on 2013/08/03 Sat. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第50話 小春日和(その24)】 

 兵庫は耕作がこしらえた筵の囲いへ皆を連れて行った。
「表の出入り口に近い囲いには一人も逃さぬため山中さん頼みます」
碁四郎が頷いた。
兵庫は庭を歩き、廊下の前の庭の囲いを指差した。
「あの囲いには私が潜み、賊が雨戸を外したのを見届け飛び出します。これを合図に皆も飛び出て下さい。甚八郎、源次郎、富三郎の三人は奥の囲いに潜んで下さい」
侍衆が頷いた。
「これが、ここの手配りです」
「鐘巻さん。手配り通りいかぬ時にはどうしますか」
「その時は、私と山中さんで侍を倒しましょう。ただ、この家で死人は出したくないので急所は外して打って下さい」
「旦那、あっしらは?」
「太助さん、浅吉さん。栄吉さんに辰五郎は賊が来たことを早めに知らせてほしいのです」
「何処から来るか検討でもついているんですかい」
「鐘巻さん。この時期、真夜に提灯も付けずに歩くのは見咎められる。恐らく横十間川を使うでしょう」
「私も山中さんの推測に乗ります。やつらは今朝、横十間川と竪川のぶつかる辺りの一膳飯屋に入りました。ねぐらもあの辺りかと思います」
「わかりやした。あっしは横十間川の天神橋付近に舟を泊め、見張りやす」
「水の上で見張っては、知らせが遅れますよ」
「旦那、走るより早く知らせますよ」
「どのように」
「犬の遠吠えが捨て鐘と思ってください。その後に犬が賊の頭数だけ鳴きますから」
「それでは侍二人にやくざが一人来たとして、聞かせて下さい」
「遠吠え一朱にひと鳴き百文とすると、一朱と三百になります」
「わかりました。それぐらいなら払えます」
冗談が終わると太助が顎を挙げて虚空を見て口を開いた。
太助の喉が震え長い遠吠えが始まり、それが終わると野太い犬の鳴き声が二つ、そして一つ甲高く短く鳴く声が発せられた。
それは皆が頷き感心するほど見事なものだった。
「これなら夜間、二町・三町先でも聞こえるでしょう」

 この見事な犬の遠吠えと鳴き声をあげた男は大黒屋の船頭太助だった。太助は大黒屋の隠居又五郎に拾われたとき犬と居たため、当所犬助と呼ばれていた男で、人別に入るとき「犬」では可哀相だと点の位置が変わった「太」となる経緯を持っていた。

「わ・わたしは、な・なけねぇ」
栄吉が申し訳なさそうに云い、兵庫を見た。
「栄吉さんと辰五郎は向島からの道を見張り、賊が来たら走って貰えれば充分です」
皆の役割が決まった所で、吉衛門家の下男の耕作が何か言いたそうに出てきた。
「耕作さんは賊を捕まえたら拍子木を叩き呼びますので、頭数を確認し、亀戸の自身番まで知らせて下さい。それまでは隠れていて下さい」
これで、皆の役割が決まった。

 夕飯を取りに行った辰五郎が駒形から運んできた盥には、握り飯の山の他に漏斗(じょうご)で入れたのか月見で使った白鳥徳利に入った汁が二本と御重が乗って居た。
普段使われていない離れに男十人が集い、華の無い宴が始まり終わった。
「木戸が閉まる四つまでは賊も動かないでしょう。それまで離れで寝るなりしていてください。門弟の三人は母屋の戸締りをして、勝手口から出なさい。耕作さんは勝手口の戸締りとして、あの御呪(まじな)いの肥え桶を置い下さい」

Posted on 2013/08/02 Fri. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第50話 小春日和(その23)】 

 甚八郎は暫らく考えた。
「先生。賊を捕らえるのが狙いでしたら、われ等が家の中で待っていては逃げられてしまうおそれがあります。賊を奥庭まで導き、雨戸を開けさせたところで我らが押し包むのは如何でしょうか。表庭には潜むところも多いです」
「よし、甚八郎の策を使おう。だが、賊に家にはいられては攻めにくくなるうえ、火でも付けられたらいけませんので、雨戸を開けたぐらいでは部屋に入れぬよう、廊下に柵をつくりましょう」
「廊下は長いです。どの雨戸を外すか分かりませんから、柵を作るには長い木が要りますよ」
「間に合わせの柵ですから木でなくて竹でも良いでしょう」
「分かりました。辰五郎さんの所に行き、竹刀用に斬った竹を取ってきます」
「二人に訳を話し、栄吉さんを留守番に残し、辰五郎を連れてきなさい」

 甚八郎が出ていくと兵庫は表庭を見て回った。
何処に誰を潜ませるかを決め、その支度をするためだった。
その場所が決まった頃、鼻をつまみたくなる臭いが漂い始めた。
 兵庫の思考が止まったまま開け放たれた廊下に座って居ると、駒形から源次郎がやってきた。
「この臭い、先生の仕業ですね」
「分かるか」
「耕作さんが楽しんでいました。ところで、甚八郎は」
「辰五郎の所に竹を取りに行きました。そろそろ戻りますから手伝って下さい」

 駕籠かきよろしく、前を甚八郎、後ろを辰五郎が数本ずつ束ねた長い青竹を左右にぶら下げやってきた。
「甚八郎、竹刀用の竹を何に使うのだ」
「賊が廊下の雨戸を外しても直ぐにはいれぬよう、見掛け倒しの柵を作るのだ」
「そうか、見掛け倒しなら、わしらにも出来るな」

 生垣の切れ目、切れ目に下肥を撒き終えた耕作に、兵庫は五人が身を隠す囲いを、筵を使い作らせた。
賊を迎える支度が整うなか、富三郎、大黒屋からは船頭の太助と浅吉そして山中碁四郎がやってきた。
「辰五郎、そろそろ道場に夕飯が出来ている、魚盥を担いで取りに行って下さい。皆さん、助っ人有難う御座います」
「鐘巻さん、支度が出来ているようですが手筈を聞かせて下さい」
碁四郎が鼻をつまむ真似をしながら聞いてきた。
「家の周りに臭いものを撒いたのは賊を大手門から入らせるためです。次に何処から家に入り込ますかですが、母屋の廊下の雨戸を外し入ってもらうことにしました。だが、あのように廊下に邪魔が出来ており、一瞬、踏み込むのを躊躇うでしょう。そこを我ら侍五人で襲うことにしました。配置だが来てください」

Posted on 2013/08/01 Thu. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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