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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第54話 初夢(その40)】 

「親父さん、丼と箸を用意した方が早いかな」
虎之助が投げかけた。
「お願いできれば助かります」
出来上がった蕎麦は用意された丼に盛られ、子供たちから振る舞われていった。
 碁四郎は蕎麦を一杯食べると帰ったが、子供たちは二杯目を食べ終わってもまだ物ほしそうな様子を見せた。
「みんな、まだ食べたいようだが、明日の旨い朝飯が食えなくなるぞ」
「朝飯・・・」
内藤の言葉に、一言応じた子供たちは、改めて兵庫を見た。
「五つの鐘が鳴るころがここの朝飯だ」
「お玉にも、この蕎麦をくわせてやりてぇ」
「そうか、おろち丸は優しいな。蕎麦屋さん、食べられなかった者が居るので、蕎麦の玉と汁を六人分頼みます。いくらになりますか」
「へい、全部で二十杯ですんで、四百文になります」
「世話をかけましたので、これで、釣りは要りません」
「これは、どうも」
蕎麦屋は、残り物を全部、笊や鍋に入れ帰って行った。

「約束どおり蕎麦は腹に入りました。しかし、お玉は病気になり蕎麦を食べられませんでした。浮浪の暮らしをしていては、何時か皆もお玉と同じように病気になってしまう。みんな。ここは身寄りのない子供を預かり、読み書きのほか何か手仕事を教える所です。ここで暮らしてみる気はないか」
「飯が食えるのか」
「子供たちには飯の心配はさせません。ここでは、将来、飯を食べる、食べさせるための勉強をしながら、苦労に耐えられるように体を鍛えるのです」
「小さい下駄や藁草履がある・・・」
「二階に先日まで、皆と同じ暮らしをしていた子供が五人います。観太、音吉と大助と、他に娘が二人だ」
「観太がいるのか、喧嘩したことがある」
おろち丸がつぶやいた
「それは互いに生きるためだろう。ここに入った子は皆、私を兄と呼び、志津を母と呼ぶ家族になるのです。もし喧嘩したくなったら私と剣術をしましょう。お玉は暫く動かさない方が良い。先のことはまた明日考えることにして、今晩は泊まっていきなさい」
「わかった」
「内藤さん。上に布団は残っていますか」
「二組ですが、小さい子供ですから何とかなるでしょう」
「この子らは、今日は下に寝かせます。布団を下しておきますので内藤さんすみませんが、用を足した後、風呂場で手足だけでも洗わせて下さい」

 兵庫は二階に上がり子供たちの部屋に行くと、有明行燈の薄明かりの中寝入っていた。
肩や腕を出し寝ている子に布団を掛け直していると、小夜の顔に笑みが浮かんだ。
「小夜、千夏。鯉三郎の小父さんの仇は取ったぞ。良い夢を見なさい」

布団を下ろし、一階の表部屋に敷き、子供たちが来るの待っていると、満面に笑みを浮かべやって来た。
「温かかった」
身体の冷え切った子供たちにとっては、冷めた風呂の残り湯も暖かったのだろう。
「冷めぬ内に早く、この綿入れ半纏を着て布団の中に入り寝なさい」
「温かい」
子供たちが仲よく布団に入ったのを見て、兵庫は志津の居る、隣の部屋に移った。
「越ヶ谷の方は何とかなったようですね。遅くまでご苦労様でした」
冷え切ったお玉と添い寝して温めていた志津が兵庫を労った。
「はい、その帰り山谷堀であの子たちに会いました。考えてみれば熊蔵のお蔭です」
「これで怖がっていた小夜たちも良い初夢を見られますよ」
「はい、先ほど笑っている寝顔を見てきました」
「このお玉にも良い初夢を見せてあげたいですね」

第五十四話 初夢 完

Posted on 2013/11/13 Wed. 04:30 [edit]

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【鐘巻兵庫 第54話 初夢(その39)】 

 その声で子供たちが駆け寄り、兵庫と碁四郎を敵意の目で囲んだ
「勘違いするな。夜泣き蕎麦を一緒に食おう。よければ付いてきなさい」
「どこまでだ」
「兵さん。この辺りの屋台は吉原帰りの上客を相手にしているから、こんなに子供が行っては迷惑が掛かる。知って居るところはありますか」
「吾妻橋のたもとの蕎麦屋が旨いという評判だ」
「よし、そこに行きましょう」
兵庫、碁四郎の後を、少し離れ子供たちが付いてきた。
途中、その足音が止まったため、振り返ると仲間を背負うとしている大柄な子がいた。
「どうした」
「たまが熱を出した」
「それはいかん。私の家は駒形だが、そこで休ませたらどうだ」
「たま、どうする」
「みんなと一緒にいたい」
「みんなと一緒か。何人いるのだ、ここにいる六人か」
「そうだ」
「お前が一番大きいが、名は何と言う」
「おろち丸と呼ばれている」
「おろち丸、背負っている子は暖かい所で休ませねばだめだ。こうしている間にも冷えてしまう。お前が頭だ、皆を連れて私の家に来るか、それとも蕎麦だけ食って帰るか、どちらにする」
「俺たちを騙すなよ」
「騙すつもりはない。居心地が悪ければいつでも出て行って構わない」
「分かった。お侍の家に行く」
「よし、付いてきなさい」
花川戸を過ぎ、吾妻橋のたもとまでやってきた。
「碁四郎さん。蕎麦屋が何軒か出ている。残りが二十杯在るか、足らなければ二軒でも三軒でも連れて来て下さい」
「分かった」

 家の前まで来た兵庫は石を拾い二階の雨戸に戸を叩く感じで投げた。
石が雨戸を叩き、つづいて「内藤さん、兵庫です」と呼びかけた。
同じことを二度繰り返すと雨戸が開き、内藤が顔をだした。
「私です。戻りました。戸を開けて下さい」
「待っていて下さい」
二階の雨戸が閉められ、暫くすると店の戸が開けられた。
「蕎麦屋まで引き連れてのお戻りですか」
「皆、入りなさい。蕎麦屋さんも入って下さい」
この騒ぎで目を覚まさなかったのは二階で寝ている子供たちだけで、志津も厚手の物を羽織り、顔を見せた。
「志津、この子が熱を出している。暖かい所に寝かせて下さい。おろち丸そのまま上がって構わぬから奥に連れて行きなさい」
おろち丸は申し訳なさそうに汚れた足で帳場に上がり、玉を寝かせ帰って来た。
 碁四郎さん、今晩は遅い、泊まっていったらどうですか。
「我が家は船宿の客商売ですよ。まだ宵の口で出入りが出来ます」
「そうですか。それでは渡してなかった今日のお手当です」
「要りませんよ。養育所の足しにしてください」
「ありがたい。せめて蕎麦でも食べて帰って下さい」
「この匂いを嗅がされては素直に帰れませんよ」

Posted on 2013/11/12 Tue. 04:30 [edit]

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【鐘巻兵庫 第54話 初夢(その38)】 

 元のみすぼらしい浪人姿と、いなせな町人姿に着替え終えた二人は町の年寄に挨拶を済ませると、呆れ顔の年寄を背に弓張り提灯を片手に脇本陣を飛び出した。
 途中、福寿屋によると、代官所の者たちは未だ家内捜索をしていた。
兵庫と碁四郎のあまりにも変わった様子に、手付頭の近藤弥一郎は言葉を失った。
「三郎さん、居ますか」
兵庫の大声で、広間で飲み直していた三郎が出て来た。
「旦那方。何でしょうか」
「これから浅草まで帰りますので・・・皆さん色々と有難う御座いました」
「だんな、あっしは、酔っ払ってとてもお供が出来ません。新門には内緒でお願いします」
「分かっています。明日一緒に帰ったことにしましょう」
「お気を付けて・・」

 兵庫と碁四郎が皆に背を向けると、
「鐘巻殿、山中殿。ちょっと待ってくれ。渡す物がある」
近藤に呼ばれ二人が振り返った
「押収した金箱を開けろ」と近藤が命じた。
開けられた金箱にはかなりの小判が入っていた。
近藤は無造作に手をつっこみ、小判を掴み出し
「二人分の手当てだ。後で分けてくれ、役人からの袖の下だ」と兵庫の袖の下に入れながら笑った。
「有難く頂戴いたします。それでは」

 二人は旅籠を飛び出していった。
日頃から朝駆けを続けて来た二人にとって、四里の距離を走りとおすことは容易だった。
出来る事なら、江戸に入るのが厳しくならない四つまでに千住大橋を渡ろうと二人は急いだ。
その甲斐あって、正月二日の夜四つの鐘が鳴る前に千住大橋を渡り切った。
曲がりなりにも江戸に入った二人は駆けるのを止め、早足で浅草へ向かっていると四つの鐘が鳴り始めた。
夜四つは江戸中の木戸が閉まる時刻で、夜の通行が制限される。
しかし、夜に出歩くことが多い者たちは裏道を心得ていた。
吉原の大門も建前上は浅草寺の鐘に合わせ閉じられるのだが、実際の出入りが出来なくなるのは一刻遅い子の刻を過ぎたころが常態化していた。
この時刻に吉原に出入りする者たちの中には木戸を避け、舟を利用する者が少なくなかった。
兵庫と碁四郎がその船着場に成っている山谷堀まで来ると、小さな子供が碁四郎にまとわりついてきた。
「腹が空いているのか」と碁四郎が聞くと
子どもが頷いた。
「夜泣き蕎麦でも食うか」
また、子供が頷いた。
「よし、食べさせてやる。仲間を呼びなさい」
「おろちまる」
喜んだ子供が叫んだ。

Posted on 2013/11/11 Mon. 04:30 [edit]

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【鐘巻兵庫 第54話 初夢(その37)】 

 兵庫にしても碁四郎にしても相手の油断をつき戦うのを心得としていた。
「行くぞ!」兵庫の掛け声で
兵庫と碁四郎は土間を蹴り、帳場へ飛び上がり、その勢いを落とさず前を塞ぐやくざの中に飛び込んだ。
虚を突かれたやくざ者に悲鳴が上がった。
十手で利き手の小手や痛いところを叩かれたのだ。
これが合図だったのか、座敷内で様子を伺っていた馬之助が徳利で熊蔵の鼻っ柱に一撃を与え、逃げると、春駒座の者たちが熊蔵一家の者へ殴りかかったのだ。
熊蔵等にとって不幸は、草加から来た六人を除けば宴席に脇差を持ち込んで居なかったことだ。
その上に大酒を飲まされており、勝負は始めから決まっていたのだ。
少々遅れたが、座敷に上がって来た代官所の者たちの餌食になって行った。

 縄を掛けられ土間に座らされた熊蔵の前に兵庫と碁四郎が立った。
その二人を、顔を腫らした熊蔵が見上げ
「あんたは・・・」
「荒巻ではなく、鐘巻兵庫と申します。実は以前、この宿に泊まった娘二人に頼まれ、女衒の鯉三郎の仇を取らせて貰います」
兵庫が脇差を抜いた。
「何故だ。娘たちにとっては鯉三郎もわしも似たようなものだろが」
「違います。娘たちにとって鯉三郎は貧しい父母に金を与えたうえに、娘たちを奉公させてくれるおじさんなのです」
「馬鹿を言え。鯉三郎はあの二人を廓に売るつもりだったのだぞ」
「そうでしょうが、幼い娘たちには良い小父さんだったのですよ」
兵庫が迫った。
「助けてくれ!」
「殺しはしません。娘たちへの土産は、髷です。押さえつけてください」
嫌がる熊蔵の髷が切られた。
「近藤様。これにて私等のお役の任をお解き下さい」
「うむ。御二方の働きで怪我人を出さずに済ませることが出来ました。十手をお返しください」
十手を返した兵庫
「拙者らは、明日早立ち致しますので、これより脇本陣に参り、着替え直します。お借りしました物はそちらに置いておきますので、お戻りの際、お引き取り下さい。
「分かった」
兵庫と碁四郎、福寿屋を飛び出していった。
 脇本陣にはまだ町の年寄が残っていて、熊蔵一家が捕えられたことを、様子を見に出した者から聞き安堵していた。

 兵庫と碁四郎の訪れに、脇本陣大沢屋の主、庄左衛門が何事かと出てきた。
「着替えに参りました」
「その様なことは明日でよろしいのですよ」
「正月早々家を空けましたので、明日は早立ちし戻ろうと思っています」
「そうでした、瑞穂屋の清右衛門さんから聞きました。御二方ともお美しい奥様を、しかも身重だとか・・・」
「そうでした。碁四郎さんこれから帰りませんか」
「庄左衛門殿。千住までは何里でしょうか」
「確か、四里ですが」
「四つまでまだ半刻少し、ぎりぎり千住大橋を渡れそうですね」
「走られるのですか」
「歩いては寒いですからね。すみませんが新しい草鞋を二つずつと一刻程燃える提灯一つ、お願いできませんか」
「お易いご用です」

Posted on 2013/11/10 Sun. 04:30 [edit]

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【鐘巻兵庫 第54話 初夢(その36)】 

「お役は手代として先方で踏み込んで頂きます。その手当ては拙者の一存で一分お支払しますが、傷や物損等が生じても手当て致しかねるが宜しいか」
「そちらの事情は分かっております」
碁四郎も頷いた。
「無事熊蔵等を捕えた折りに、働きに応じお代官よりなにがしかが出るのが習わしになっております。ただそれは後日のことですので如何いたしますか」
「褒美は辞退致します」
碁四郎も頷いた。
「もし、御懸念事項があればお聞きいたします」
「お役は、熊蔵等に縄を掛け終えたところまでとして任をお解き下さい。堅苦しいのは性に合わないのです」
「分かりました。それでは十手を貸与致しますが、鐘巻殿はよしとして、山中殿は使われたことは御座いますか」
「御懸念無く」
「失礼致しました」
「それでは、行きましょう」
「目印の鉢巻と襷をお願いします」

 町の年寄たちに見送られ脇本陣を出たのは、代官所の手付三人、兵庫と碁四郎、その後に士分ではない捕り方五人の十名であった。
 その十名が福寿屋に向ったことは、兵庫と碁四郎を案内した為吉が、いち早く福寿屋に戻ることで、三郎や春駒座の者たちに伝えられた。
座主の馬之助が立ち上がった。
「役者衆は二階でお色直しを済ませ、また下りて来なさい」
馬之助の声で、一階の広間で熊蔵一家の荒くれ者たちと縁に興じていた女が一人二人と座を立ち、続いて争い事とは縁のない役者たちも二階へと姿を消していった。

 一階の広間に春駒座の印半纏を着て残ったのは三郎と為吉、春駒座座主の馬之助と荷車を引いてきた六人の男だが、皆、熊蔵等に縄張を奪われた一家の者たちだった。
それに対し熊蔵一家の者は十人と草加からやってきた六人を加えた十六人だった。
座が白けぬようにと、春駒座の印半纏が動き回っていた。

 そこに、旅籠の戸を開け白襷に鉢巻を締めた二人の武家姿の兵庫と碁四郎が入り、土間を進むとその後ろから、さらに刺股、突く棒、袖がらみを手にした者たち、そして三人の武家がよどみなく入り、最後に入って来た侍、近藤弥一郎が進み出た。
「熊蔵とその仲間の者共、徒党を組み街道を騒がすに飽き足らず、浪人三人、泊り客一人を殺害した咎により捕縛致す。神妙に縛につけ」

 役者衆が抜け、座が白けているところに、とんだ飛び入りに熊蔵がいきり立った。
「しゃらくせい。腰抜けどもがやっと神輿(みこし)を上げやがった。こっちの方が多い、生かして帰(けー)すな」
熊蔵の一声で、酔いを醒まさせられた者たちが長脇差を片手に飛び出してくると、代官所の者たちはその威勢に押され数歩退き、兵庫と碁四郎が前に残った。
度胸一つで喧嘩をし、時には侍相手でも、その徒党の威勢で刀を抜くのを躊躇わせてきたやくざ者だった。
代官所の多くの者たちが己らの威勢に怖じけ、下がったことが、やくざ者たちに組み易いとの油断を生じさせた。

Posted on 2013/11/09 Sat. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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