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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第61話 結び直し(その43)】 

 この日、たまたま訪れた山口瀬左衛門が一人分だが具足に予約を入れたことで、具足商(あきな)いに光明射したのか、いつもより皆の手がはかどり、仕上がっていく具足が増えて行った。
 夕食が済み、片付けが終わると皆が帰って行った。
兵庫が雨戸を閉めようと部屋の障子を開けると道場の床に月明かりが射し込んで来ていた。
兵庫は雨戸を閉めずに、部屋の障子を閉め道場へと行くと、屋根の上に如月の十三夜が昇って居るのが壁の無い素通しに近い道場から見えた。
兵庫が戻らないのを不思議に思った志津が部屋の障子を開け見たものは、月明かりの道場に寝そべり、月を見上げている兵庫の姿だった
その兵庫に誘われた志津が部屋を出、道場へやって来て、道場の中を回る様に歩き始めた。
その志津の膨らんだ腹を見ながら兵庫、
「碁四郎さんの所も産まれそうだと言って居ました」
「そうですね。もう十月(とつき)目に入って居ますからね」
それきり会話が途切れ、ただ志津だけが兵庫の周りを歩いていた。
何週回ったかは分からないが、志津は歩むのを止め、兵庫の脇に座った。
月が二人を照らしていた。
「旦那様。この月はまだ半ばですが思わぬこと、それも良いことが色々と・・・」
「源次郎が戻り、お道との解かれた縁が結び直されるでしょう。更に罰を避けるために奥方を離縁した江田殿、名を桜田と変えましたが離縁した奥方が江戸に出てくれば、桜田殿と縁を結び直すでしょう。この様に解けたものが結び直されることが同時に起こるとは・・・」
「それだけでは在りませんよ」
「えっ、他に在りましたか」
「宇野様と浦島の女将・おりょうさんですよ」
「碁四郎さんが、おりょうさんの腹の子を吾が子と思っていたら宇野さんの子だったとは・・・」
「宇野様とおりょうさんの縁を結び直せたのは、仏の道の修業を成された山中様が罪を犯した宇野様を助けた慈悲の現れですから、今は良かったと思われていると思いますよ」
「そうですね」
寝ていた兵庫の顔を照らしていた月明かりが消えた。
代わりに兵庫は迫って来る志津の顔を見ていた。

第六十一話 結び直し 完

Posted on 2014/09/24 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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【鐘巻兵庫 第61話 結び直し(その42)】 

 源次郎と甚八郎が奥へ姿を消すと、入れ代わりるように表戸が開き出掛けていた奥村弥太郎が、元鳥越の医師服部仲明に預けた若侍、水野小次郎、中西要蔵、山内勇太郎の三人を伴い戻ってきた。
奥村は見慣れぬ客、山口瀬左衛門に会釈をし、「鐘巻さん後ほど」と一声残し通り庭を抜け裏へと姿を消した。

 その後ろ姿を見ていた瀬左衛門が
「侍の出入りが多いな」
「皆、縁あって知り合った者で、手助け戴いて居ります」
「どの様な」
「今通りました、先頭の方には子供たちの教授方をお願いしており、若い三人には薬の勉強をさせており、近々店を開く薬屋の手伝いをお願いするつもりです」
「薬屋をやるのか」
「はい、須田町の継志堂にて蝋燭と薬を商いますので、ご利用いただければ有難いです」
「具足で防ぎきれなかった怪我には薬か・・・出来過ぎではないか」
「なるほど、出来過ぎですが、具足を始めたのは京橋具足町で具足商いをなさる方に観音様のお導きで出会ったのが始めで、薬屋を始めることに成ったのは薬屋に押し入った賊を取り押さえる手伝いをしたのが発端です。薬は貧しい者の為に始めようと思ったのですが・・万が一の戦を考えれば、包帯、金創薬など武家相手の商いも流行るような気がしてきました」
「負けたよ。あまり侍衆を待たせては申し訳ない。私は帰るよ」
「本日は良い話をお聞かせいただき有難う御座いました」

 山口瀬左衛門を見送った兵庫は奥村等が待つ道場にいくと
「鐘巻さん。桜田から思わぬ話を聞かされた」
「どのような」
「便りでは、江田が離別した奥方が、仕置きされた夫の墓参りを許され、鳥羽に連れられ江戸に出て来るそうだ。もちろん墓参りは口実で、お仕置きを免れ桜田と名を変えた江田の元に来ると云うことだ」
「奥村先生の戻りが遅いので、何か在ったと心配していたのですが、私には良い話に聞こえました」
「良い話だが、鳥羽から聞かされたのだろう辛い話も書かれていた」
「どのような」
「主を斬られ廃絶となった渡辺家の家臣は禄を失ったが他家に引き取られた者は居らず離散の憂き目だそうだ。ここに居る水野、中西、山内の三家は江戸で暮らし始めた子を尋ねここにやって来るそうだ」
「それは私の読みの範囲ですから驚きませんが、何か気がかりなことが在るのですか」
「それが~・・」
「何ですか小次郎さん」
「我が家は子沢山で、両親と私の他に兄に弟と妹の六人家族なのです」
「あ~家の心配ですね。それは金で済むことですから何とかしますので心配しないで下さい。私には札差が付いて居るのですからね。心配事、他にありますか」
「働き口は在るでしょうか」
「かしこまった侍仕事の世話は出来ませんが、形振(なりふ)り構わぬ覚悟が在れば仕事に困ることはありません。そうはいっても身に着いた侍意識は抜けないでしょうから、折り合いの付く仕事を見つけましょう」
「心配事が無くなったら、勉強をしに戻れ。親が来たら頑張った証を見せてやれ」
奥村に活を入れられた三人は、気がかりが薄らいだことも在り帰って行った。

Posted on 2014/09/23 Tue. 04:01 [edit]

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【鐘巻兵庫 第61話 結び直し(その41)】 

 帳場に案内された山口瀬左衛門は辺りを見回し、
「先程、道場では盛んに鎖などを仕上げているようだったが、内職では無いようだな」
「頼まれ仕事ではないので、本業といえば本業です」
「それにしても、この様に客が来なくては確かに寝床になりそうだな」
「それでは、客になってください。先日は吉原の付け馬が来まして、七両二分を取り損なったと嘆きましたので、一両渡し返しました。友三郎殿の具足が未だでしたらあつらえられては如何ですか。異国船が来る前に」
「異国の船が来ると思うか」
「思っています。ですから作っているのです」
「友三郎の物をあつらえると、おおよそいくらに成る。七両二分でとてもは払えぬ」
「値段は仕入れ値に先ほど見られた当方の手間に布代と利益を加えて、来月から売り出すのですが、売り出し初日から五日までは、当方の利益抜きで鎖、.鉢巻、籠手、脛当てなどで一両二分二朱で販売予定です」
「なに、一両二分二朱とは安すぎないか。品物がいい加減では安物買いの命失いになってしまう」
「品物は確かです。友三郎殿の体躯は大柄ですか」
「いや、源次郎殿とさほど変わらぬ」
「それでしたら少々お待ちください」
兵庫は立ち上がると奥に引き下がり、暫くして戻ってきた。
「源次郎が着けてきますので確かめてください」
「参考までに聞くが、五日が過ぎた後には、いくら利を乗せる気だ」
「異国船が来るまでは一両の利ですが、来た後は品薄になり二両は乗ってしまうでしょう」
と云うことは、買うなら・・
「今です」と話を聞いていた内藤虎之助が、引札の下書きを広げて見せた。
「今、引札を取りあえず千枚頼んで居ます。駒形近くから幕臣の家に配る手配をしています」
「本気のようだな」
「はい、仕入れだけでも千両を越えるのです、冗談では済みませんからね」
「千両もか・・・」
そこに、奥から源次郎と甚八郎が具足をつけてやって来た。
「どうぞ、品の確かさをご覧ください」
山口は立ち上がり二人を眺めていた。
「中々の武者振りだな、胴の寂しいのは剣術の防具を着ければ形は整いそうだな」
「はい、形が整えばそれで良いのです。異国との大砲などの飛び道具合戦では役に立ちませんからね」
「そこだ、たいして役に立たぬ物に金を使わねばならない。武家は旧弊に縛られているからな」
「そこが商売する者の付け目で千両賭けて千両稼ぐつもりです」
「お主、武士なのに武士を嘲笑って居るな」
「滅相もない。私も武家の端くれ故に、事前に配る引札千枚で五日までに参られる武家には利を取らずにお分けする所存。ただ、期日までに武家が武家として動かないのなら、その後は利を戴き、その金を浄財と思い子供たちのために使うのです」
「む~~・・理屈も敵わぬ」と腫れの引かない額を押さえる山口だった。
「先生、戻って宜しいでしょうか」源次郎が戻りたそうに尋ねた。
「構いません」
「いや、待て。源次郎殿が着用している物を買いた。二三日で金は用意するので取っておいて貰いたい」山口瀬左衛門が苦しい決断をした。
「山口様、お待ちしております。源次郎、聞いた通り大切に分けておいて下さい」
「分かりました」

Posted on 2014/09/22 Mon. 04:01 [edit]

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【鐘巻兵庫 第61話 結び直し(その40)】 

 見知らぬ武家と兵庫の立ち合いが行われることは、直ぐに伝わり、子供たちは遊びを止め、大人は仕事の手を休め、見物人になった。
山口は防具をつけることなく下座に座った。
「勝負は何本にしましょうか」
「一本でお願いしたい」
「分かりました」

 何時もの事だが兵庫の勝負は早い。
互いに正眼に向かい合い、間合いを詰めていく兵庫に対し、山口が兵庫を芯として回り始めると、山口の背後になった子たちがあわてて耳を押さえた。
これは先日の兵庫と碁四郎の一本勝負を、たまたま碁四郎の後ろで見ていた子供の一人が兵庫の気合いで倒されたことがあり、あとで奥村から耳を塞ぐよう教えられたのだ。
その瞬間、兵庫の気合いが山口に飛び、同時に床を蹴り飛び込んでいた。
打撃音がして、額を打たれた山口がふらつき後ずさり、何とか踏みとどまると膝をついた。
「参った」
「お強い、危なく喉を突かれるところでした。座敷で茶でも如何ですか」
「そう言えば、未だ茶を飲んで居なかった」
源次郎がすまなそうな顔をしたのを見た兵庫、
「山口殿はここの娘には嫌われていますからね」
「源次郎殿をさらった悪党と云う役回りらしいな」

 座敷に席を移した山口瀬左衛門は志津、お道、お玉に迎えられた。
「ようこそお越しくださいました。鐘巻の妻、志津に御座います。お道、お茶を・・」
お道が部屋を出て行った
「鐘巻殿の腕前と云い、奥方の美しさと云い、聞きしに勝る者ものだな」
「恐れ入ります。私らの事はさておいて、源次郎の事でその後の話が在ればお聞かせください」
「その事なら、今日、源次郎殿を山口の家から籍を抜き、大村家に戻す願い書を出した。その帰りに大村殿に在って来た、それだけだ」
「源次郎、これでお主は名実ともに大村源次郎に戻ったな」
「はい、山口様、有難う御座いました」
部屋の外で女の声・・・
「お道、入りなさい」志津がうながした。
障子が開き、目を潤ませたお道が盆に茶を乗せ入って来た。

 茶が出されて、それを飲んだ山口が、
「源次郎殿のお蔭で、娘の百々は友三郎と縁を結び直すことができ喜んだ、その陰では引き裂かれたままのお道殿が泣いていた。申し訳なかった。ここに来る前に源次郎殿の親御に会い、事の次第を話してきた。大村殿は吉衛門殿に会いに行くと云って居(お)った。そちらの縁も結び直されるだろうよ」
「それは良い土産話。有難う御座います」
お道は堪え切れなくなったのか、部屋を出て行ってしまった。
「私の参った用は済んだのだが・・気になるものを見てしまったので、帰れなくなった。もう少し居座りたいのだが」
「それは構いませんが、私以外は色々と用が在りますので、場所を私の寝床、帳場に移したいのですが」
「お主が居ればどこでも良い」

Posted on 2014/09/21 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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【鐘巻兵庫 第61話 結び直し(その39)】 

 この日の昼少し前、円通寺の墓参りから戻ると、思わぬ便りが駒形の兵庫の家に届けられていた。
とは言っても、兵庫宛ではなく桜田健三宛で、差出人は早苗と書かれていた。
兵庫の家に便りを届ければ桜田に届くことを知る者は限られている。
もしやと思った兵庫は、桜田の剣術師匠であった奥村弥太郎に尋ねると、奥村はさらに妻の志乃に確かめ戻ってきた。
「間違いない。江田の奥方の名だ。宛名が江田ではなく桜田となって居るのを見ると国に戻った鳥羽から事情を聞かされたのだろう。江田は斬首されたことに成って居るからな」
「この便りは私より奥村先生が届けた方が良いでしょう。便りの内容は分かりませんが桜田さんの今後のことでしたら、出来るお手伝いはしますので桜田さんの本心を確かめてください」
「そうだな、鐘巻さんが行っては、何事にも遠慮しがちな桜田のことだから口をつぐんでしまうだろうな」
「それでは、昼を食べたらお願いします」

 昼飯後、兵庫は、内神田須田町の継志堂に用心棒として入っている桜田健三を訪ねて行く奥村弥太郎を見送った。
戸が閉まる音が出囃子にでもなったのか、外出着に着替えた志津が帳場にやって来た。
「内藤さん、行ってきます」
「ごゆっくり」
兵庫と志津が出かける先は、兵庫の先妻・幸の眠る本法寺だ。
これまでも折に触れ二人で墓参りをしてきたのだが、産み月が近づいている志津の腹を見ると、今回は出かけない方が良いと話してはみたが、少し歩いたほうがむしろ良いと聞き入れる様子を見せなかった。

 この墓参りは二人にとって、特に志津にとっては意味深いものだった。
志津は兵庫の先妻、身重だった幸から万が一の時には、時を置かず、兵庫の家に入って欲しいと言われるほどの仲だった。
そして、幸は一子、幸太郎を生むと力尽きた。
幸の四十九日が済み、暫くして志津は押しかけ女房として兵庫の家の二階に住み着いたのだ。
(二十一話 押しかけ女房)
 志津が外出する時、兵庫が付き添わないことはまずない。
志津の美貌が諸刃の剣となり、自分を傷つける恐れが潜んでいたからだ。
本来なら武家としては供の者を伴うものなのだが、無禄の兵庫に家来は居ない。
その分、気兼ねなく二人は近づき歩けた。
 本法寺は駒形の家から七町(800m弱)の所に在り近い。
お参り以外特に寄ることはしなかった二人だったが、お参りに時間をかけたうえ、のんびりと往復したため一刻程経った八つ半に駒形に戻ってきた。

 兵庫が戸を開け一歩足を踏み入れるのを待っていた内藤虎之助、
「鐘巻さん、道場に山口様が先ほど参られて、源次郎さんが道場でお相手しています」
「何の用でしょうか」
「それは・・・」
 兵庫が急ぎ道場へ行くと、
「鐘巻先生が参られました」と源次郎が話しをしていた武家に知らせた。
「山口瀬左衛門と申します。大村殿にお会いした帰り、源次郎殿から聞かされた話を思い出し参ったしだい」
「それは、わざわざ、どの様な話かは知りませんが、なにか御不審が御座いますか」
「不審など何もないが、折角来たので私の頭を叩いて貰えぬか」
その物言いには叩けるものなら叩いてみろとの自信を窺わせていた。
「だいぶ修業なされたご様子ですね。私は未だ修業中、竹刀での立会いでしたら喜んでお願いいたします」

Posted on 2014/09/20 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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