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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【湯上り侍無頼控え 六話 賭場船(その23)】 

 碁四郎が都鳥から浮橋に戻って来ると、中で花川戸の清衛門が待っていた。
「お待ちしていました」
「何でしょうか」
「昨晩は、色々と手配いただき、散財させたようですな。そのお礼に参りました」
「それでしたら、博打で儲けた金で間に合って居ます」
「あれは、あれです。少しばかり持参したのですが、お恥ずかしい、足りませんでした」
「何ですか、足らないとは」
「いやね、五両持って来たのですが、ここの皆さんの話では一分ずつ払われたそうで、番頭さんに確かめましたら払ったのは八両だったと伺いました。とても手前どもには真似が出来ません」
「番頭さん、余計なことを言いましたね」
「すいません」
「番頭さんは悪くはありません。どうですか山中様、花川戸まで、昨晩の手柄話も聞かせたいので」
「それでは、行きましょう。番頭さん、奥には花川戸へ行くと言っておいて下さい」
「しかし三途丸に乗るのはもう結構ですよ」
二人は花川戸に向かって歩き始めた。
「昨晩の出入りでは色々と、ああでもない、こうでもないと作戦を練ったのですが、相手の弓が最後まで気になり、結局花火を使いました」
「一発目は舟を突き抜いたのですかね。向島側の舟脇で花が咲くのが見えました」
「はい、二発目は浅草側で、あんなに上手く行くとは思いませんでした」
「それで、怪我人は何人出ましたか」
「それが、あれだけの大喧嘩をやっても、こっちには一人も怪我人が出ませんでした」
「それは良かったですね」
「それも、石ころの御蔭でした」
「石も使いましたか」
「小舟の野郎どもは隠れる場所が無いんですから、気の毒なもので頭を抱えていました」
「そう言えば医者も、やくざの喧嘩にしては、打身ばかりで用意した金創薬の出番が無いと言っていましたよ」
「小舟の雑魚どもをやっつけた後は、大船を皆で攻め立てました。顔を出す者には石をぶつけ、竿で突きました。邪魔をされることも無く舟に上がると、元気な者は川に飛び込み、怪我をした者は降参しました。後は掛け矢と鳶口でつかいものにならねぇように壊しました」
「無残な舟は、朝駆けで吾妻橋の上から下っていくのを見ましたよ」
「そうでしたか。少しやりすぎたかもしれません」
「やりすぎたのは浜五郎の方でしょう。博打などは隠れてやるものですよ」
「そうなんですが・・・浜五郎の野郎、しっかり寺銭を抱えて逃げやがった」
「それでも、あれほど舟を壊されては元を取れないでしょう」
「元を取れないのはこっちも同じです。花火の台船代、たった二発でしたが、急がせたので高くつきました。その上、断り無く打った花火のことを隠すため、役人への鼻薬、せめて寺銭が手に入れば良かったんですが、喧嘩に勝っても散財でした」
「真に申し訳ありません。私だけが博打に勝って漁夫の利を得たようですね」
「はっはっはっは~・・そうですな」
碁四郎と清衛門の賭場船の顛末話は歩いている間に大方終わり、花川戸の米屋、清衛門の家につく頃には先日起きた碁四郎と新門の揉め事で同じ時を過ごした団野道場、唯念寺の思い出話になっていた。
碁四郎は清衛門の家に上がることも無く、清衛門が気張って出した十両を受け取ると、今歩いてきた道を戻っていた。
一番の悪党は己だと思いながら・・・

六話 賭場船 完

Posted on 2011/04/01 Fri. 13:46 [edit]

thread: 幕末物語

janre 小説・文学

【湯上り侍無頼控え 六話 賭場船(その22)】 

翌朝二十日、碁四郎が朝駆けに出て、本所を巡り吾妻橋に差し掛かると、大船が舳先を川下に向け下り始めていた。
屋形の部分は打ち壊しに遭い見る影もなくなっていた。
その船の上には艪や竿を使いう何人かの船頭の姿と、床に腰を下ろす男達の気の抜けた姿があった。
 昨晩大船を狙った花火の筒を乗せた台船の陰も無く、大船の存在さえ除けば何時もの朝の風景だった。
雷門と浅草御門を結ぶ大路を一気に駆け抜けた碁四郎は、先日まで寝起きしていた湯屋・富士の湯の裏から入った。
「松蔵さん。湯借りますよ」
「ああ、よく掻き混ぜておいてくだせぇ。あっしの手間が省けますんで」
井戸水の温度は夏冬さほど変わらないのだが、前日の晩汲み置いただけで水温が上がるのか、夏の方が早く沸き、碁四郎は熱い湯をかき混ぜ浸かった。
湯から出ると身体を拭くところまでは、以前と同じだが、碁四郎は一年ほど住み着いていた二階に上がらず、番台に置かれている物を着た。
これは、静と一緒に住むようになった次の日から、静が碁四郎の着替えと履物を富士の湯に運んでいたのだ。
湯屋から、船宿までの道には芸者置屋の都鳥がある。
夜が明けたばかりだが、起きた芸者が、寝乱れた姿を隠すでもなく、少しでも涼しい風の入る窓際の敷居に腰をかけていた。
「碁四郎さん!・・お静姐さん、お目出度だって」
噂が流れたのか、お静が言ったのか定かではないが次の日には耳に届いていたようだった。
「はい」
「ひと月前の、浦島だね」
「そのようです」
ひと月ほど前、若い二人を殺し心中者に仕立てて大川に浮かべた浪人を捕らえるために、六間堀の船宿・浦島にお静と泊まったのを碁四郎は思い出していた。
お吉の言葉が聞こえたのか、二階のほかの芸者や半玉が顔を出し、湯上り姿に着替えた物が入っている風呂敷包みを下げ、去っていく碁四郎を見送っていた。

 浮橋に戻り朝飯を食い終わった碁四郎は侍姿になり、先ほど冷やかされた都鳥の暖簾をくぐった。
「碁四郎さん、お静さん、お目出度だって」
「はい、女将さん。未だ、はっきりしませんが、そのようです」
「兎に角良かった。ところで何ですか」
「はい、残りの五十両持ってきました」
「残り?・・お静のかい。それだったら要らないよ」
「受け取ってください。昔の父には負けられませんので」
「えっ、父・・源さんにかい」
「はい」
「そうかい。それなら受け取るよ。それにしても新門の一件から未だ日がさほど経っていないのに五十両も作るとは大したもんだ」
「有難う御座います」
「金を貰って礼まで言われたのは初めてだよ」
「長居すると湯屋に行っている皆さんが戻ってきますので、失礼します」

Posted on 2011/04/01 Fri. 13:06 [edit]

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janre 小説・文学

【湯上り侍無頼控え 六話 賭場船(その21)】 

碁四郎は奥から箱を持ってきて番頭の前に置いた。
「金銀と銭が入っているはずです。これを金種に分け数えて下さい。お礼は少なくても一両です」
「数えるだけで一両も・・・」
「いいえ、分けのある金ですので、口止め料ですよ」
「口止め料?・・・口止め料いただきますので訳を聞かせて下さい」
「この金は昨晩と今晩、先ほどのやくざ者が川上で賭博を開帳し稼いだ寺銭です。そこを新門に襲われ、持ち出し逃げるところを私と三人の船頭で奪ったのです」
「顔は見られて居ませんか」
「頬被りしたうえ。がん灯の後ろに居ましたので、相手には見えなかったでしょう。また、相手は奪ったのは新門と思っているでしょうから、此処には来ませんよ。あっ、来るとすれば命を助けられた礼を言うのを忘れた先程の四人でしょう」

 番頭の幸吉が金種を分け数え始めたのを、碁四郎、お静、お蔦が見ていた。
暫らくして、順庵を送り届けた船頭の三人も戻り、番頭が金を数え終わるのを見物した。
「え~と。小判が百八十三枚、一分金銀が六十三、一朱銀が二百三十六、銭はありません。〆て・・・」
番頭が算盤を入れ始めた。
「二百十三両と2分になります」
「旦那の目論見どおりですね」
「それでは、先ず、先ほど皆に一分払い足が出た分は・・」
「え~と、前金二両戴いていますので六両です」
碁四郎は山になった一分銀から六両分の二十四枚を別に分けた。
「はい、この六両分の一分銀は店に戻して下さい」
「分かりました」
「それでは、お分けします。不満はあるでしょうが、皆さんに十両お分けしますので、番頭さん、小判八枚、一分銀四枚、一朱銀16枚の山を四つずつ作って下さい」
金種毎に山が四つ出来ると、
「どうぞ、取って下さい。残りは私の借財四百両の穴埋めに使わせて下さい」
「これだけ頂けたら、御の字ですよ」
「旦那に借財がある間は、旨い話がこれからもあるという話ですね」
「はい、悪党を探し出して下さい」

船頭が帰り、番頭も部屋に引き上げた。
むき出しに残った金の中から小判を百五十枚を取り、百両を大女将のお蔦に渡した。
「これで残りはあと二百五十ですね」
「義理堅いね。残りの五十は都鳥かい」
「はい」
「それで碁四郎さんの所にはいくら残るんだい」
残っているのは小判一枚に一分銀と一朱銀の山だった。
「確か十七両二分あるはずですが・・」

Posted on 2011/04/01 Fri. 11:26 [edit]

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【湯上り侍無頼控え 六話 賭場船(その20)】 

 この夜、傷を負い船宿・浮橋に運び込まれた者は、みな浜五郎の手下で、碁四郎に突き落とされた浪人一人にやくざ者三人だった。
その者達の怪我を見ていた医者の順庵
「何ですか。金創の薬を買って持って来たのに、打身ばかりじゃな。あれ?焼けどもいるな」
四人の治療が終わったところに、清衛門がまだ灯りの点る浮橋に手下を連れてやってきた。
「山中様。何人か救い上げられましたか」
「はい、四人です。傷の治療は終わっています」
「それは、どうも。その四人、渡してもらえますか」
「それは出来ません。折角、助けたのですから」
「心配しないでくだせい。あの大船に乗せ帰すだけです。邪魔ですからね」
「信用しますよ」
清衛門は四人を引き取ると帰って行った。

「番頭さん。手伝ってくれた船頭衆と店の者に一分ずつ渡して下さい」
「一朱でなく一分もですか」
「昼に渡した金で不足でしょうから、それは後ほど私が店に返します」
「分かりました」
番頭の幸吉は、少しばかりの酒を飲み湯漬けを啜っている船頭達に金を渡しに姿をけした。
「順庵先生には夜分まで馬鹿者どもの治療して頂き有難う御座いました。静、お礼を」
用意されていた金子を静が順庵に握らせた。
「すまんな。こんなに・・・」
「また、無理を言いますので、お願いします。お静、船頭の三人を呼んできて下さい」
やってきた、捨吉、銀太、宮五郎の三人に
「まだ、逃げたやくざ者がこの辺りに潜んで居るかもしれません。先生を家まで送り届けて、ここに戻ってきて下さい」
「分かりました」

捨吉らが医者の順庵を送りに、湯漬けを食い終わった船頭衆が一分を懐に入れ上機嫌で帰っていくと、番頭の幸吉が戻ってきた。
「旦那様。だいぶ大きな足が出ましたよ」
「どの位ですか」
「船頭、賄い、中居、帳場、手伝いで三十一名ですから七両三分掛かりました」
「そうですか。今日、都合で休んだ者は居ませんか」
「仲居のお春さんが、母親の看病で夜は帰りました」
「看病ですか。お春さんにも一分あげて下さい。それと明日にでも順庵先生に見させなさい。支払いは私が持ちますから・・」
「分かりました。そのように致します。それでは私も引き取らせて頂きます」
「番頭さん。申し訳ないのですが、まだ仕事が残っています」
「何でしょうか」

Posted on 2011/04/01 Fri. 11:04 [edit]

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【湯上り侍無頼控え 六話 賭場船(その19)】 

 吾妻橋の下手に停まっていた二艘の篝(かがり)舟に薪が足され炎を高くした篝火が水面を照らし始めると、捨吉の持つがん灯が回され船団は大船に向かって進み出した。
吾妻橋を潜り、大船から二十間ほど離れた所で再び捨吉のがん灯が回され舟は停まった。
怒号と時折り起こる、人の落ちる水音が聞こえてくる中、碁四郎は灯りが消された大船の様子を目をこらして見ていた。
この時、碁四郎は大川の左岸、向島側に停まり、提灯の火を消し、がん灯は大船からは目立たぬように反対の虚空に向け、舟自体の姿を消すようにしていた。
それは木更津の浜五郎が逃げ出すとすれば、攻められている浅草側より向島側にするとの読みだった。
そして、その読みは当たり、大船を捨てる動きが見えたのだ。
大船の中程に小さな灯りが現れ、いつの間にか寄ったのか脇に横付けされた小舟に下りようとする黒い影を照らし出たのだ。
ほんの僅かの間だけ灯された火が消され小舟の姿が闇の中に消えた。
「捨吉さん。静に進んで下さい」
碁四郎の乗る三途丸に従うように、銀太と安五郎の乗る猪牙舟も灯りを見た辺りに向かって川を遡っていった。
速さを増し近づく碁四郎等の舟に気づいたのか何か声が上がった。
それを合図に銀太の持っていたがん灯が逃げようとする舟に向けられた。
驚いた様子でがん灯の火を見る浜五郎と手槍の穂先を光らせた浪人、そして舟を漕ぐ三人の姿が浮かび上がり、その揺れる影を大川に写した。
暗闇でがん灯の光を見た三人は、より闇の世界に落とされ灯りを見せない碁四郎の舟の近づくのを見失っていた。
頃合いを見て碁四郎の左手に持つがん灯が身を低く構えている浪人に向けられ、同時に竿が突き出された。
竿の先が浪人の喉を突き、もんどりうって落ち水しぶきが上がった。
「銀太、浪人を助けてやれ」
碁四郎は浜五郎にがん灯を向けながら
「逃してやる。足元の銭函を貰おうか。その前に脇差の鐺(こじり)を持ってこちらによこせ」
沈黙のまま脇差を握る浜五郎の顔を碁四郎の竿が横に払った。
ばしっ!
横面を張られ横たわる浜五郎に恐怖の影が走った。
「銀太、頂け」
宮五郎が舟を寄せ、銀太が浜五郎の舟に乗り移り、脇差を奪い取ると碁四郎の船に投げ込み、金箱を持つと、己の舟に引き返した。
そして勝負が決まったのか、最後まで大船の上で戦っていた者達が川に飛び込む音をたて始めた。
「終わったな。引き上げだ」
碁四郎は溺れて居る者が居ないか水面をがん灯で照らしたが、飛び込んだ者たちは皆泳ぎ上手で碁四郎の向ける明かりから遠のくように岸へと逃げ去っていった。
碁四郎は引き上げる途中、浮きのように立って流れる浪人が手放した槍を拾い上げ船宿へ戻った。

Posted on 2011/04/01 Fri. 10:26 [edit]

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