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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第73話 たてまえ(その24)】 

 午後、志津は子供たちの髪を結い直すことにして、場を広間の廊下に代えた。
正直、髪を結い直すのは。子供たちにとって、それ程楽しいことではないのだが・・この時だけは名を呼ばれるのを誰もが待った。
 そうした中、兵庫にとっても嬉しい出来事が起きた。
稽古をしていると入門を願う武家の子息が親に付き添われ、やって来たのだ。
話を聞くため、志津に髪を結い直されている子供とその様子を見守る子供たちの前方を通り抜け、入門志願の親子を自室の外に案内し、二人を縁側から招き入れた。

 付き添いの親に、道場を選んだ訳をと有り触れた投げかけをした。
「それはこちらの道場の評判で御座います」
「どの様な」
「強いこと、教えかたが上手と云った良い評判と気になる評判も在り迷って居りました。ところが気になる評判の方が無くなったと聞き、確かめに来て表の貼り紙を読みました。剣術見物が無くなったので、参ったので御座います」
「そうでしたか。剣術見物の催しは真に剣術を学びたいと思う方々に対し、当道場の強さを知らしめた反面、品の無さも曝け出し、入門に二の足を踏ませていたのですか」
「はい、子供たちが誇りを持てる道場になったと思い、通わせることに致しました」

 兵庫たちが剣術見物を許し、わざわざ他流試合を受けることを貼り出したのは強さに自信が在り勝つことで道場の名を知らしめることだった。そしてその狙いは達成し、連日、賑やかな見物人に囲まれて来た。
道場の名が広まると出る杭は打とうと、他道場が、鐘巻道場は剣術の神聖さを汚していると奉行所に訴えた。兵庫は奉行所から来た知人の定廻り同心坂牧の意見を入れ即座に見物の催しを中止した。そして見物人に話を持ち掛け門人にした。門人なら稽古を見るだけに来ても咎められることも無いと思ったからだ。
建て前としては普通の道場に近づいた。しかし、昨日道場に名を連ねた新しい門人は来なかった。端午の節句、仕事の多くは休みで独り者の男は稽古に来ても良さそうなのだが、やはり稽古より、他流試合を見たかったのだろう、それが期待できない道場にはやって来ないのだろうと推測した。

 しかし、子供だが侍の門人が一人加わることになった。
兵庫の名が高まるのをよしとしない他道場の訴えが、少々異質な道場から剣術見物の看板を下ろさせ、建前上は普通の道場に戻させた。
そして、建て前の道場に、真に剣術を学ぼうとする者が訪れて来た。
それは兵庫が望む者だった。
名前、住所、年齢を聞き取り、道場の事を話した兵庫は木札を取り出し、中居正行と聞き取った入門者の名を書いた。そして、
「正行殿。この名札を道場に掛けに行きましょう」

 喧騒の道場に戻ると、先ず、名札を一番下の桟に掛けさせた。
そこには、九枚の苗字の無い名前の他に北島象二郎、中島百合之助、関根新之助の札が掛けられていた。
兵庫は庭を見廻し、「象二郎」と大声で呼んだ。
暫くして象二郎が中島百合之助と茶店の出入り口から姿を見せ、駆け寄って来た。
「先生、お待たせしました。釣りをしていたのです」
「仲間が入りましたので呼びました」と云い、正行を二人の前に押し出した。
「中居正行、十歳です。宜しくお願いします」
「北島象二郎、十歳です」
「中島百合之助、九歳です」
「みんな、仲よくして下さい。稽古相手が多い方が上達も早いですからね」
「分かりました。正行さん、時間が在れば案内します」
正行は母親を見た。
「先生に暫く伺いますので、行ってきなさい」
子供たちが寮内に出来た長屋の着替え場所へ入って行くのを見ていた正行の母親が、
「お子様が多いとは伺っておりましたが、こんなに門弟さんが居られるとは思って居ませんでした」と云いながら掛けられている名札を見た。
「建前は門人ですが、中段のほとんどは職人で、建前通り道場に通って居ては暮らしが立たなくなってしまう方々です。やはり門人は本音で修業しようと思う方に限ります」
「大道場に建前で席を置くお武家も居られるそうですが・・・」
「道場を営むにはその様な方も居られないと苦しいから除籍しないのでしょうが、張り合いが在りません。張り合いがなくなった道場から、張り合いを求めて名も無い道場にやって来た師範代さんに、建前で門人に成るような方を増やしていては逃げられてしまいます。
やはり本音で修業しようと思う方々が増えないと・・・」
 着替え部屋に入った三人が出て来て、今度は井戸の方に向い走っていった。
それを見た髪を結い終わった子供たちが庭に下り、追った。
「久しぶりに正行が身体で喜ぶ姿を見ました。ここが気に入ったようです」
「それは良かった。私は稽古に戻ります」
「私は、正行が戻るまで、剣術の見物させて頂きます」
兵庫が笑い、面を被った。

第七十三話 たてまえ 完

Posted on 2015/07/02 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第73話 たてまえ(その23)】 

 寮内に入った子供たちは迷うことなく裏庭に廻り、道場には目もくれず志津の部屋の縁側に走った。
「母上様」が競うように発せられた。
子供たちが志津に集まることは誰しもが分かって居て、台所まで届いた声を聞いた女たちの顔をほころばせた。
「皆、上がりお入りなさい」志津が待って居たよと、声を掛けた。
一歩でも近づきたい子供たちだが、朝稽古で来た時はそれが出来ないで、せいぜい縁先に出て来た志津に頭を撫でて貰う程度だった。
大助、己之吉、亀次郎・・・と幼い順に上がり、最後に正三が上がっていった。

 部屋に入った子供たちを見て、座布団の上に寝かされていた赤子の千丸が言葉に成らない声を上げて足をばたつかせた。
「千丸が目を覚ましました。皆、弟にそっと触ってもいいよ」
こうして男の子たちと志津の触れ合いが、始められ、志津の部屋から嬉しそうな声が流れ出た。
それに反して、幼い女の子のお玉とお鶴は、邪魔をしてはいけないと思う気遣いからか志津の部屋には近寄らず、庭に出て犬の蘭丸と遊んでいた。
そして、兵庫や甚八郎が稽古休みを取ると、それを待って居たかのようにやって来た。
「母上を取られちゃったのか」
兵庫の問い掛けに、お玉とお鶴はコックリした。
「そうか、男の子は駒形に住んで居て毎日寂しい思いをしているのだから今日は我慢しなさい」
また、コックリした。
「よし、お昼が出来るまで外に出て、土手の花でも摘もう」
こうして、兵庫は子供たちの兄役を果たし始めた。
「土手を下りては駄目だよ」
「は~い。鶴ちゃん、この黄色いお花はツヅミグサだよ」とお玉が御姉さんになって教えた。
「ツヅミグサ、ツヅミグサ」とお鶴は復唱し妹に成った。
もうそこには兄が入る余地はなく、兵庫はただ見守って居た。
通りを行き交う者の中で、稽古着に剣術の胴を着けた兵庫が、子供を見守る姿を見て、会釈をする者が居た。
兵庫はその度に、見知らぬ者へ礼を返した。
昼が近づいて居たが茶店に客の姿は無かった。
そして、昼を知らせる板木が打たれた。

 昼飯は鯛めしに鯛の汁。イナダの焼き物、小松菜のお浸し、唐茄子(とうなす)の煮物だった。
鯛は棒手振りに成った中西肝太郎が魚河岸の仲卸海幸で仕入れたものだが、実は海幸からの贈り物だった。と云うのは海幸と兵庫との絆は強く、その兵庫と縁ある肝太郎が普段買わない鯛を選んでいたため主の福助が何か在るなと肝太郎に訳を尋ねたのだ。
養育所の子供たちのため、節句に鯛めしを作ると知り大ぶりの鯛をくれたのだ。肝太郎は用意した金で出世魚のイナダを買い、押上のお琴に届けたのだった。

 子供たちに尾頭付きを出すほどの余裕はないが鯛めしなら、とのことだったが、大きな鯛で十分な鯛めしが出来、寮内の他、辰五郎や栄吉の家にも届けられた。
駒形にしろ、押上にしろ、養育所の食事は人数の多いことも在り三食必ず飯を炊くことに成り、温かい飯が食える。
それは、皆にとって嬉しい節句の昼飯だった。

Posted on 2015/07/01 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第73話 たてまえ(その22)】 

 嘉永六年五月五日(1853-6-11)の夜が明けようとしていた。
女たちが外に出て空を見上げた。
「星は見えないけど、何とか持ちそうな気がするけど」
「そうだね、茶店の方の仕込は、昨日までの半分にしましょう。お琴さん、子供たちの昼の鯛めしはお願いします」
「はい、肝太郎さんが、安くて良い鯛を持って来てくれると、皆さんもご相伴が出来るんだけど」
「今日は端午の節句で目出度いものは値が上がるから無理でしょう。かといって、今日は鰯は食べさせられないからね。男たちは、女たちの苦労が分かっているのかね」
「苦労は分からなくても、残さず食べてくれるだけで、私たちの腕が上がったと教えてくれている。これも皆、お琴さんを仕込んだ奥様の御蔭だね」
「美人で、料理が旨い奥様が、部屋住みの先生の所に押しかけ女房。世の中一寸先に光明ですね」
台所の女たちに笑いが起こった。
そんな話をしている台所に、兵庫のくしゃみが聞こえて来て、また笑いが起こった。

 稽古着に着替えた兵庫は、昨晩妻の志津と書いた名札の中から、己を含めた大人の分を持った。
薄暗い外に出た兵庫は迷うことなく、道場脇の黒板塀に取りつけた木札掛けまで行った。
その一番上の桟、これは養育所の為に汗を流す剣術家の名札を掛けるもので、最初に顧問札を掛け、その脇に奥村弥太郎と山中碁四郎の名札を掛けた。
一つ空け師範札と鐘巻兵庫の札を掛けた。
また一つ空け師範代札と菅原文次郎、高倉健四郎、根津甚八郎の札を掛けた。
更に師範代並の札に続き、轟与三郎、田村栄助、近藤小六の札を掛けた。
そして助役札をかけ、常吉、乙次郎、仙吉、勘助の札を掛けた。
最後に水野賢太郎、水野粟吉そして辰五郎の札が掛けられた
一歩下がり掛けた名札を見直し兵庫は頷いた。

 縁側に置いておいた胴を着け、道場で身体をほぐしていると明け六つの鐘が聞こえて来た。
兵庫が己の名札を反転させ朱文字を黒文字にしてから暫くすると寮内に住む男たちが、稽古支度をして道場に顔を見せた。
挨拶が交わされると、
「皆さん、名札を反転させて下さい」
象二郎と、水野親子が反転させ、軽い稽古が始まった。
こうして時が経つにつれ朱文字が黒文字へと変わって行った。
駒形から子供たちが来ると、子供たちが一人ずつ呼ばれ、志津が書いた名札が手渡され、一番下の桟に自ら掛けて行った。
それから四半刻(約30分)ほどは子供たち優先の稽古が大人たちの指導で行われた。
この中には昨日門人登録をした関根新之助や脇坂家から来る中島百合之助も居た。
しかし、稽古を終えた子供たちが帰った後に成っても、昨日門人登録した大人で朝稽古に姿を見せたのは弥助ただ一人だった。

 朝飯が終わって暫くすると、また稽古が始まった。
しかし、昨日登録した門人は来なかった。
ただ道場への足が途絶えた訳ではなく、剣術見物が止められた事を知らない者がやって来て、黒板塀に看板の代わりに貼り紙を読み、事情を知りそれ以上の事を茶店の者に尋ねることもなく、通り過ぎていったのだ。

 稽古が始まって四半刻ほど経ち、稽古休みとなり竹刀の音が途絶えた。
そこに駒形方面より、保安方の乙次郎と仙吉に伴われた九人の子供たちが下駄を鳴らしながら歩いてやって来た。
端午の節句を親代わりの兵庫や志津と一日過ごさせようと云う、駒形側の大人たちの計らいで、押上に泊まることに成って居た。

Posted on 2015/06/30 Tue. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第73話 たてまえ(その21)】 

 四半刻ほど竹刀を振った男たちに休みが与えられ、縁台に座った。
「先生。弥助と申すます。晩飯を食うには何足草鞋を作ればよいのですか」
「ここの飯の値段は中の者には四十八文、茶店の客には六十文と他の飯屋に比べやや高いかもしれませんが、その分、質・量で勝って居ると思って居ます」
「それは分かって居ます。それで何足・・」
「草鞋ですか・・確かな物の売り値は十六文ですから、等価交換の建前ですと三足になります」
「ちなみに建て前で三足ですと本音はでは何足ですか」
「本音は茶店の値段にあわせ四足です。草鞋は一足十文で銭に代えられます。剣術の着替え部屋の隣が作業部屋に割り当てられていますので使って下さい。後片付けはお願いします。それと夕飯の注文を台所に出しておいて下さい」
「分かりました、部屋使わせて貰います」

休みを終えた門人たちは思い思いの動きをした。
打ち込み稽古を続ける者、防具を借り打ち合い稽古をする者、仕事部屋では一人弥助が草鞋作りの為、先ず藁縄作りをしていた。
そして表の黒板塀、剣術見物の看板が掛けられていた所に、剣術を見せることを止めた趣旨の貼り紙が出されていた。
ただ道場を閉めていないことは、聞こえて来る気合いや竹刀の音が教えてくれていた。
道を通る者の中で以前と様子が変わったと判る者が貼り紙を読み、そのまま帰る者、茶店に入り何かを頼みそして訳を聞き帰って行く者と、風変わりな道場に起きた変化に気を止めるものが少なからず居た。
剣術見物が出来ることで賑わっていた押上の鐘巻道場が、見物入場を止めたことはその日の内に近隣に広まったようで、わざわざその噂を確かめにやって来る者さえ居た。

 七つ(午後四時頃)少し前にその日の稽古が終わり、掛けられていた木札が、残って稽古をしていた各々の手で裏返され、朱文字一色になった。
そして門弟は草鞋作りの弥助一人残し帰っていった。
夕食後女たちから声が上がった。
「先生、明日からかなり減ると思うのですが、茶店は利益を出すほかに女たちの将来の為の力を付けさせる役割が在ります。その為にはある一定量出ないと、皆が料理の稽古を出来ないのです。何とか成りませんでしょうか」
「剣術も料理も稽古が大事ということですね」
兵庫は考えていた。そして、
「こうしましょう。門弟への売り値を四十八文から三十二文まで値下げしましょう。利益は減りますが、門人さんも手ごろな値段になり食べてくれるでしょう」
「食べますよ。稽古が出来ない雨の日でも食いに通いますよ」
「稽古に来て貰うのは嬉しいのですが、弥助さんの生業に励んでください」
「先生、生業に精を出すさないと嫁も来ません。その嫁が来るまで弁当をお願いできませんでしょうか」
「それは、独り者の多い江戸では弁当商いは流行るかも知れませんね。皆さん試してみては如何ですか」
「分かりました。弥助殿は明朝、来られるのでしたら、一つ作ってみます。日替わりで十日ほど食べて頂きますので、ご意見をお願い致します」
「ありがてぇ。しかし、明日も節句で仕事がねぇが、作って下さい。ここで仕事をし、庭で頂きます」
「弥助さんの仕事は何ですか」
「畳屋です。と言っても、大将に仕事を貰っての手間稼ぎです。」
「いつか店を持つようになった時は、駒形とここの畳をお願いしましょう」
「そうなる日が来るのを、気長に待っていて下さい」

Posted on 2015/06/29 Mon. 04:01 [edit]

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【鐘巻兵庫 第73話 たてまえ(その20)】 

 座が静まったところで、兵庫が口を開いた。
「皆さん、門人登録有難う御座います。お礼に昼を用意しました。と云うより午後見に来る方々の為茶店が用意した物が、剣術見物の看板を下ろしたため余ってしまうので、余り物です。明日は、余り物は出ませんので、ただ飯が食えると思って来ないで下さい」
「それは、残念だ」
「まったくだ」と合いの手が入った。
「それより、お見かけした所、本来なら仕事に出かけていなければならない方が数多く居られるようです。明日は此処に暇つぶしの為に来ないことを願って居ます」
「お見通しだぜ。一文で暇つぶしが出来る所はねぇからな」
「まったくだ」
「しかし、世の中は厳しいです。仕事が無い時は仕事が在ったと見栄を張らずに来てください。道場の消耗品の草鞋作りや、他の手伝いをして貰います。お礼は飯です」
「草鞋で飯が食えるとは思っても見なかったぜ」
「まったくだ」
「最後に、今日、多くの門人の方々と引き合わせてくれた立役者にお礼を申し上げます。その立役者はそちらに座って居られます南町奉行所定廻り同心の久坂殿と中之郷瓦町の金太さんです。御二方は剣術を見世物にするのはけしからんと云う方が居られるので気を付けろと教えてくれたのです。ですから先程剣術見物の看板を下ろしたのです。そして、見物人だった方々の多くが道場の門人に成ってくれました。お蔭で私は門弟の居る道場を持てることに成りました」
「鐘巻さん、形はそうかも知れぬが、この門弟では道場とは名ばかりで、以前と何も変わっては居らんと思うが」
「確かに形は半刻も在ればこのように変えられますが、その本質を変えるには年月を要します。私は本音を言えば本質を求めるのですが、たてまえである形にうるさいのが世の中です。その世の中の一員ですからたてまえも大事です」
「先生、たてまえはもういいです。本音を言えば腹が鳴いています」
「そうだ、先生本音で行きましょう」
女たちが堪え切れずに笑い出した。
「そうしましょう。それでは頂きます」

 食後、門人に登録した者の多くが道場に残った。
そもそも、これと言って行く宛もなく押上の道場に来た者だから、稽古をしようと云うことになったのだ。
そして、稽古に必要な物は・・襷だったことを思い出し、縄襷を作ることに成り、大量に買い入れてあった稲わらを貰い、己が使う縄を綯ったのだ。
縄が出来ると、襷がけをし、竹刀を借り道場に出た。
草鞋は履かず皆素足の男たちが、常吉や勘助の指導で竹刀の振り方、足の運びを、少々荒っぽく教え込まれていた。

一方、行儀見習いのため来た叶屋の娘・知代は住み込むことに成り、お琴から地味な代え着を借り、慣れない台所仕事の手伝いを始めていた。

 道場の師範代たちは門人登録で受け付けた名を、急遽彦次郎に作らせた木札に書いていた。
表は黒、裏は朱で書かれた。
兵庫も一枚、自分が受け付けた関根新之助の木札を書いた。
彦次郎は木札を掛ける釘を等寸巾で打ち込んだ、長さ五・六尺の桟を二本と三尺の物を一本作って居た。そして出来上がった桟は寮の道場近くの黒板塀に打ち付けられた。
 門弟たちが呼ばれ木札が渡されると嬉しそうに見ていたが、木札を掛けに行った。
掛けられた木札は子供が一人、大人が二十三人で昼食後帰ったため渡せなかった木札が五枚残った。

Posted on 2015/06/28 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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