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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第75話 蚊帳(その15)】 

 落雷に橋のたもとの大名屋敷の角に在る辻番所から人が飛び出て来た。
「近くに落ちましたね。どちらですか」
「橋向こうです。雷に打たれ四人が倒れました」
兵庫と辻番は橋を渡り四人に歩み寄り見ると、動いて居なかった。
「辻番殿、此処の番をしていますので、自身番から人を呼んで頂けませんか。
待つことも無く、小止みに成り始めた雨の中、岡っ引きの金太が何人か連れて来て、倒れた浪人の近くに刀が落ちているのを見た。
「先生が」と兵庫の事を知って居るのか尋ねてきた。
「雷に打たれたことを聞かなかったのですか、血は流れて居ませんし、刀に落雷の後が在るでしょう」
「なるほど、それでは何故刀を抜いたのですか」
「浪人は先日、道場で相手をした三人組の二人です。恐らく私を斬りたかったのでしょうが、訳は本人に聞いて下さい」
「死人に口なしですよ」
「直撃を受けた侍は駄目でしょうが、やくざ者は仲間の様です。気絶しただけかもしれませんので聞いて下さい」
「分かりました。先生はお引き取り頂いて結構です」
「宜しくお願いします」

 押上の養育所に戻った兵庫は部屋で濡れた物を脱ぎ、稽古着に着替えた。
「何か御座いましたか」と着替えを手伝って居た志津が尋ねた。
「分かりますか」
「ひどい雨でしたから傘を差していても濡れるのは分かりますが、首筋までひどく濡れていますよ」
「それは雷が近くに落ちて、不覚にも傘を落してしまったのです」
「これからは雷が近づいたら、外歩きは控えて下さいよ」
「目の前で四人が倒れるのを見ましたから、気をつけますよ」
「まあ、その方々はどうなりましたか」
「分かりませんが浪人二人は死んだでしょう。やくざ者二人は良くて重症だと思います。自身番の金太さんに明日にでも聞いてみます」
「雷様に助けられたのですか」
「はい、刀を抜かずに済みました」
そして、又、外の雨音が激しく成り稲光が光り始めた。
それを見て兵庫は部屋に蚊帳を吊った。
暫くして近くにまた落雷が在ったのか、雷鳴が響き空気を震わせた。
「きゃ~」の悲鳴が母屋内に起こった
そして千丸が驚き泣き声を上げた。
志津が千丸を抱き、蚊帳の中へ、暫くして兵庫も蚊帳の中に入っていった。

第七十五話 蚊帳 完

Posted on 2015/09/05 Sat. 04:01 [edit]

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【鐘巻兵庫 第75話 蚊帳(その14)】 

 下谷の下島家の門を叩くと、下男の爺さんが出て来た。
「鐘巻兵庫と申します。祝の品を届けに参りました。取次ぎをお願いします」
「鐘巻様、御名は伺って居ります。取り次ぎますのでお入り下さい」
 下男の爺さんが玄関先から
「鐘巻様がお越しになられました」と中へ呼び掛けた。
直ぐに、千鶴が顔を見せた。
「鐘巻先生。どうぞお上がり下さいませ。苑様も参られております」
「そうですか、今日は御二方に蚊帳を届けに参ったのです。青山家にも寄る予定なのですが、どういたしましょうか」 
声が中に届いたのか、青山苑も顔を見せた。
「蚊帳を頂けるとは思っても居ませんでした。私どもで運びますので此処に置いて行って下さい」
「お手数掛けますが御願い致します。乙次郎さん、此処に二張を出します」
挟み箱を開け取り出し玄関框に置いた。
「まあ、立派な蚊帳ですね。高価な物を申しわけ御座いません」
「いいえ、高い物を安く仕入れる術を心得ていますので、それではこれで失礼します」
「有がとうございました」

 外に出ると空模様は更に暗く成って来ていた。
「早く戻りましょう」
兵庫としては正装を濡らしたくはない。
急いだ甲斐あって雨が降り始めたところで、駒形に戻ってきた。
そこで、雨宿りはせずに、草履を高下駄に履き替え、傘を借りて駒形を出た。
遠くで雷の鳴る音がし始め、風も強く成り立木の枝を揺すった。あとは篠突く雨が降れば本格的な雷雨になってしまう。そうなる前に押上に戻りたかった。
吾妻橋では川風も加わり横殴りの雨に傘を向け渡り、町筋に入ると、雨より怖い白刃に襲われてはと、視界を塞がないように傘を立て用心をした。そのため吹き付ける雨に濡れた。
そして町の外れに架かる業平橋まで来ると雨足は更に激しく成り、それまで道を歩いていた者たちが商家の軒下に身を隠した。
兵庫は早く橋を渡りたかった。
この橋は先日、弟子の高倉と菅原が三人の賊に襲われた所で、橋の上は逃げ場が無く、結局刀を使う羽目に陥った。
今、橋の近くに人影は見えない。証人となる者が居ない所で刀を抜くには罰を受ける覚悟が居る。
兵庫はその様な場合は逃げることにしているが、そのためには逃げ場のない橋を素早く渡り切る必要があった。

 兵庫は雨が吹きすさぶ中、橋に歩み寄り、数歩渡り始めた。
その時、橋の前方に笠を被った浪人二人と、やくざ者二人が姿を見せた。
その浪人二人に兵庫は見覚えがあった。
以前道場に来た者で、兵庫が余興で町人を相手に三人掛かりを試みようとした時、三人の浪人たちが兵庫への三人掛かりを強要したのだ。
止む無く受けたのだが、この時浪人は兵庫を甘く見たのか、三人で協力して兵庫に掛かる手段を取る前に兵庫に打ち掛かられ、結局は一対一の勝負と成り打ち負かされた。
これは道場見物にやって来た衆目の前での出来事だった。
大恥をかかされた三人は、道場の師範代に伴われ道場から少し離れた業平橋まで連れて来られ放免されたのだ。
身から出た錆とは言え、浪人の恨みは深かった。
その三人の浪人は先日、高倉と菅原をこの橋で襲い、一人が怪我をし、後に捕まり怪我が元で死亡している。
兵庫の前に立ったのは残りの二人だった。

 浪人は兵庫に向い、何やら叫んで居たが、風雨と橋板を叩く雨音にかき消され兵庫には聞こえなかった。
一人の浪人が刀を抜き、片手で持った刀の切っ先で天を刺し、もう一人も抜き肩に担いだ瞬間、兵庫の十間先に稲妻と雷鳴が同時に光り轟き、四人が倒れた。
兵庫も気を失いかけたが、傘を落す程度で済んだのは幸運だった。

Posted on 2015/09/04 Fri. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第75話 蚊帳(その13)】 

 その日の夕膳に高倉と菅原は戻って来なかった。
飯を食べに来ないと云うことは、それ以上のことが二人に起きていることを意味していた。
事情を知っている者たちばかり、誰が云うのでもなく
「婚儀の許しが出たようですね」
皆が頷き、相づちを打った。

 そして、一夜が明け嘉永六年五月十八日(1853-6-24)曇りの朝を迎えた。 
外の黒板塀が十軒店に変わることで、寮も養育所へと実態に合った姿に成っていった。
その養育所に外から通う者も多いが、一番早くやって来たのは高倉と菅原の二人だった。
稽古着に着替えた二人は稽古にやって来た者たちと、別れを惜しむ短い稽古をした。
そして、稽古が終わると、普段なら稽古着姿のまま、一日を養育所で過ごすことに成るのだが、この日は着替え直した。
 朝膳が終わったところで、高倉が
「皆さん」と声を上げた。
何か、話が在るだろうことは、皆、予期していたことで、二人並ぶ高倉と菅原に目が注がれた。
「昨日、先生の御用で、私は下島家、菅原は青山家の婚儀先に伺いました。双方共に婚儀のお許しを戴いたとのことで、習わしにより仲人の御願いをそれぞれの上役殿に行く支度をして居るところでした。と云うことで、私も菅原も挨拶など色々と在る様でこちらへの足が遠のくことに成りました。此れまでのこと、有難う御座いました」
「有難う御座いました」と二人が頭を下げた。
「良かったですね。ところで、私の用はどうなりましたか」
「蚊帳の件ですか。養育所から蚊帳の下され物が予定されているのですが、私は苑殿に、高倉は千鶴殿に宜しいかと尋ねたところ、赤面されました。先生でなければ思いつかない下され物だと申され、有難く頂くとの返事を貰いました」
夫婦になる者へ、兵庫からの贈り物が蚊帳だと、この朝飯で知った大人たち、笑いが堪え切れない様子を見せた。
「分かりました。出来れば今日中に届けておきます」

 朝飯を食べた高倉と菅原は、いつもは養育所内に置いておく剣術の道具を担ぎ帰って行った。
その後ろ姿を皆で見送った。
恐らく二人の姿を見ることは無いだろうと思う気持ちが別れの場に人を集めていた。

 稽古着から正装に着替え直した兵庫は駒形に向った。
空を見上げると不穏な雲が流れ、否応なしに兵庫は昨日後をつけられた、二人のやくざ者の事を思い出させた。
物陰の多い中之郷の道、用心のため、その道の中ほどを歩き抜け兵庫は安堵の息を吐いた。
 駒形の地天屋の暖簾をくぐった兵庫は帳場に座る内藤虎之助に、
「蚊帳は手に入りましたか」
「はい、八張と云うことでしたが、十も手に入りました」
「贈り物等にしたいのですが余って居ますか」
「余って居ます。幾つ必要ですか 」
「高倉さんと菅原さん、それと甚八郎の為に・・残りは一張一日四文で貸して下さい」
「分かりました。御三方用は四畳半で宜しいでしょうか」
「構いません。二張り分を届けますので挟み箱に入れて下さい」
「何方に担がせますか」
「乙次郎さんに頼んで下さい」

  駒形を出、下谷に向った兵庫と乙次郎、雑踏の中で話を始めた
「先生。押上から人が抜け寂しくなりましたね」
「そうですが、養育所は旅立ちの場所ですから、浪人さんは仕官を、部屋住みさんは婿養子に、喜ぶべきでしょう」
「私は?」
「乙次郎さんは私と同じで、形に嵌められるのが嫌いですから雇われるのは不向きです。今はその日、目の前の仕事をし、気に入った仕事に出会うまで、子供たちと過ごせば良いのではありませんか」
「以前は夕方になると、酒が飲みたくなりましたが、このところ酒が減りました。今の仕事が性に合って居るようですから、続けさせて貰います」

Posted on 2015/09/03 Thu. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第75話 蚊帳(その12)】 

 兵庫の話を聞いていた久坂が
「話を戻すが、怖い話を聞かせてくれ」
「そうでしたね、私は、稲葉殿の切腹を聞いて喜ぶ者が奥医師側に居るのでないかと思い、稲葉殿に尋ねました。巨魁は誰かと。その返事を貰いました」
「誰だ」
「名前は後日話しますが、私は稲葉殿が残した巨魁が真実なら、私が出来る何らかの仕置きをしようと思っているのです」
「仕置きか」
「はい。実は仕置きすることが稲葉殿から名を聞き出す条件だったのです」
「なるほど、鐘巻さんが巨魁の仕置きする約束したことで稲葉殿の曇って居た心が五月晴れに変わったようだな」
「そうかもしれません。ですから名前を教えるには仕置きに加担して頂くのが条件です。返事は今すぐでなくて結構です。巨魁の真偽を確かめるため、今一人、目付筋にも手助けをお願いしますので」
「目付筋にも知り合いが居るのか」
「知り合いと云うほどでは在りませんが、力になってくれそうな気がしています」
「わしは、巨魁が真だとしても、我らの手では殺さないと約束するなら手を貸しても良い。目付筋が受けてくれたら、次の話を聞かせてくれ」
「そのつもりです。有難う御座いました」

 久坂は自身番へと引き返し、兵庫は養育所の裏口に繋がる裏店を抜け地天屋に戻った。
そこには兵庫が来たことを知らされた高倉と菅原が待って居た。
「先生、良い物を頂きました」と高倉が帳場の床に置かれている風呂敷包みを指さし云うと、菅原が同意の頷きを見せた。
「それは良かった。私は押し上げに戻りますが、皆さんはそれを持って屋敷に戻り、蚊帳で良いか婚約者の屋敷に行き確かめて下さい」
「先生、待ってください。この稽古着姿では行けませんよ」と菅原が格好を気にすれば
「それと、昼飯を食べさせてくださいよ」と高倉が本音を言った。
「そうでしたね。それでは御願いが在ります」
「何でしょうか」
「ここに来る時、私は二人のやくざ風の男に後をつけられました。帰りにも怪しい者が後をつけるか確かめたいので、私がここを出たら百ほど数えてから皆さんもここを出て、私と皆さんの間に怪しい者が居ないか確かめて下さい。しかし、絶対にこちらから手を出さないで下さい」
「分かりました」
「お二人さんその荷は此処に置いていきなさい」と内藤が勧めた。
「そうさせて下さい」と簡易な具足の入った風呂敷包みを帳場の内藤に向け押し出した。

 兵庫が店を出て行った。
暫くして、「百、になったか」「お主はどうだ」と高倉と菅原が顔を見合わせ言った。
他力本願の二人に、内藤が「百に成りましたよ」と告げた。
きまり悪そうな様子で二人は店を出て行った。
 一町ほど先を行く兵庫との間に、二人のやくざ風の後ろ姿が見えた。
その状態が崩れたのは、兵庫が吾妻橋を渡り始めた時だった。
やくざ者の一人が前を行く兵庫を追い走りだしたのだ。そして、追いつき、抜いていった。
「菅原、何かが起こりそうだな」
「だとすれば、待ち伏せだ」
「相手の人数は分からんぞ。知らせた方が良い」
「そうしよう」
高倉と菅原は足を早め、一人残って兵庫の後をつけているやくざ者に迫った。
「おい、前を行く稽古着姿の御方は先生ではないか」と高倉が大声でいった。
この大声を聞きやくざ者ばかりではなく、行き交う者が大声の主を見た。

「その様だ。追おう」と偶然を装い、やくざ者を追い抜いていった。
追い抜かれたやくざ者、稽古着姿の侍を見て舌打ちをし、足を早めた。
橋の中ほどで兵庫に追いついた高倉と菅原が事情を話して居ると、後ろからやって来たやくざ者が追い抜いていった。
それを見て高倉が
「間違いなく先生が的ですね
「狙われて居ることがはっきりしただけでも良しとしましょう」
三人が業平橋ちかくまでやって来ると、やくざ者の影が動いた。
「気をつけてください」
しかし何も起こらず、押上の養育所まで戻って来た。
 この日、高倉と菅原は昼飯を食べると、着替え直し帰って行った。高倉も菅原も婚約者の屋敷に、兵庫から蚊帳の贈り物が予定されていることを伝える有難い用事を受けていたからだった。

Posted on 2015/08/29 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第75話 蚊帳(その11)】 

 兵庫が歩きはじめると釣りをしていた男の一人が、
「今日は釣れねぇ、日が悪い。お仕舞にしようぜ」と言えば
「そうだな」と相づちを返した。
釣竿を茶店に返した男は、兵庫の後を付かず離れずの距離を保ち、つけて行った。
一方兵庫は自分が標的だったことに、少々変だが安堵していた。
相手の狙がはっきりした訳ではないが、良い話でないことは明らかで、他の者が狙われては兵庫が気を休める暇が無くなってしまうからだ。
 兵庫は後をつけられながら折角駒形に来たのだから、気に掛けている仕事をやろうと思いながら地天屋の暖簾をくぐった。
つけてきた二人は兵庫が地天屋に入るのを見届け、地天屋が見える大川沿いに建てられたよしず張りの影に身を隠した。
「鐘巻さん、今日は来られないと伺って居たのですが、何か在りましたな」
「はい、良からぬ者が押上を窺って居りましたので、誘ったらついて来ました。狙いは私の様です」
「それはそれは、鐘巻さんを付け狙うとはよそ者のようですね」
「よそでもめ事を起こしていないつもりですが。・・・ところで高倉さんと菅原さんは」
「今、具足を着付けて居るところです」
「そうですか、私は自身番に行って久坂さんが居れば、会ってきます」
「そうしなさい」と内藤は今、兵庫から聞いたことを相談に行くと思い返事をした。
「表のどこかに隠れて居るかもしれませんので、裏から行ってきます」

 駒形の自身番に行くと岡っ引の勇三が居た。
「先生、お久しぶりです。久坂の旦那でしたら、もうすぐ来ますよ。昼をここで摂るようにしていますから」
「そうですか、内緒話があるので、道場の方にお越し頂きたいと伝えて下さい」
「分かりました」
 自身番を出た兵庫が隣町・諏訪町の方を見ると南町奉行所定廻り同心・久坂啓介がやって来た。
兵庫は今、出ていたばかりの自身番の戸を開け、中に、
「久坂さんが来たので連れて行きます」と云い、勇三の頷くのを見て戸を閉めた。
やって来た久坂の方から
「厄介な話しか」と先手をとった。
「はい、話しだけでも聞いて下さい」
「聞くだけだぞ」
「道場で」
「いや、歩きながらだ」
 二人は日光街道の往来を、それもほぼ中央お浅草寺に向って歩き始めた。
「内緒話と云うことでお願いします」
「口外無用か、わかった」
「与力の稲葉殿が切腹する日の昼前でしたが、会い少しばかり話をしました」
「引導を渡したのはお主だったのか」
「引導? 何ですか」
「聞いて居ないのか、稲葉殿の辞世が“目覚めれば死出の旅路は五月晴れ”だったそうだ。お奉行が会ったのは前日の夕刻だったそうだが、稲葉殿の御気持ちは五月晴れとは程遠いものだったそうだ。一夜明けただけで五月晴れに成るとは考えられないとお奉行が・・・何を話したのだ」
「内緒話ですからね」
「怖い話か」
「はい」
「今は夏だ、怖い話を聞き涼むことにする」
「稲葉殿が阿片の抜け荷で仕置きされた早川江雲とは知己の間柄だったことは御存じですね」
「ああ、それは聞いた」
「それで、稲葉殿が切腹しなければ成らない理由は何でしょうか。賊に襲われ怪我をしただけで腹を切らせますか。やはり稲葉殿は抜け荷に関与していたと見るべきでしょう。しかし、それを明らかにして裁きに掛けては奉行所が傷つく、だから因果を含め名誉の切腹をさせた。この筋立おかしいですか」
「そんなところかも知れぬな」
「本来なら、裁きに掛け奥医師側の悪事を暴きたい、しかし奥医師、早川江雲の斬罪だけでこの事は一件落着していて、奥医師側を裁きに掛ける新たな証拠が無い。お奉行も身内だけの裁きで済ませたのだと思います」

Posted on 2015/08/28 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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