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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第77話 気配(その21)】 

 そんな事とはつゆ知らず、兵庫が押上に帰って来たのは、子供たちの食事が終わった暮れ六つ少し前だった。
迎えに出た志津は兵庫の頭から足元まで見て、無傷な様子にひと安心すると、
「どうでしたか」と尋ねた。
「でかいのが四艘来ていました。その中には鉄で出来た船で大筒を数多く積んで居て、帆の他に水車を回して航行させるものも在り、この手で触ってきました。あれを見ては幕府も腰が引けるでしょうね」と感心しきりに話した。
「戦に成らねば良いのですが」
「相手は戦の為に来た訳でもないでしょうから、その心配は無いでしょうが・・力を背景に交渉を迫る相手ですから実力を見透かされている幕府の損は避けられないでしょう」
「損な取引ですか」
「それは先の話です。今日は異人の下っ端と名も無い日本人が取引をしました。私の野良着の帯と異人の帯(ベルト)との交換でした」と云い野良着を包んで居る風呂敷からベルトを取り出した。
「随分と細く短い帯ですね」
「そうですね。進んだ国の者が身に着けていた物です。学ぶところは多いと思うので、明日にでも駒形に持参しようと思っています」
「明日では駄目です。駒形は、いま大変なことに成って居ます。甚八郎さんも手助けに出かけて居ますよ」
「何か在りましたか」
「気配だけで見えなかったものが現われたため、目を覚ました武家が押しかけているようです。商いを木戸が閉まるまでするとのことです」
「よくぞ目覚めてくれました。これで、具足で大損は出さないことがはっきりしたようです」

 晩飯代わりの握り飯を頬張りながら押上を出た兵庫の前方、夕映えの空には月初めの細い三日月が輝き、兵庫の夢を膨らませた。
地天屋の暖簾をくぐり、入ると帳場には内藤が座り、互いに向き合うように奥村弥太郎と甚八郎が座り話をしていた。
「先生、お帰りなさい。如何でしたか」
「その前にお客様は?」
「二人来ています。道場に着替え場を三つ造りそちらで、心次郎、乙次郎、仙吉が見て居ます」
兵庫は頷き見て来たことを語り始めた。
「四艘の大船見てきました。大将の乗る船は鋼鉄製で、触りましたが決して張子の虎では在りませんでした。あの船を造るには、この国の刀槍をすべて集めても足りるかどうか。足りたにしても、熔かして板にして船の形にする全ての技を持ち合わせて居ない。持って居るのは大和魂。甚八郎、暫く武の時代が戻ってくるぞ。だが、物騒な世が長く続かないように暴れよう」
「はい、先生」
「奥村先生、異国船が江戸の入口に来たことで、韮山代官江川様の所で勉強中のご子息・隼太殿ですが、遠からず戻られるでしょう。その時、新発田藩に戻る気は御座いませんか」
「戻る気が在っても戻れるとは思えぬが、何の確信が在ってその様なことを言うのだ」
「確信が在る訳では在りませんが、気配を感じるのです。具足屋を始めたのも、隼太殿を江川様の所で勉強させるためにお奉行にお願いしたのも、皆、気配が私を動かしたのです。江川様は幕府の旗本、国防と云っても江戸を守る小さな国防しか出来ないでしょう。日本を守るためには大名の力を借りねば出来ません。お奉行からの隼人隼太殿の口添え状には新発田藩浪人と書かれて居る筈です。お奉行からは奥村先生の事を事細かく聞かれ話しましたのでその辺りのことも。異国船が来てしまった以上、もう勉学では在りません。江川様は預かった者たちを日本の国防の為に戻す筈です。しかし隼太殿の戻し先が浪人の父では何のために教えて来たか無駄になります。隼太殿を生かすには、自ら使うか、添え状に書かれていた新発田藩へ話をするかの二者択一です。万が一親元に戻されても、新発田藩への伝手は出来て居ます。国に帰らず何とかお守役に取り立てられた鳥羽伏見之助殿が居ます。確信では在りませんが気配では駄目でしょうか」
「気配か・・・有難い話だ」と云い奥村は目頭を熱くした。

第七十七話 気配 完

皆様の激励が明日への力に成って居ます。

Posted on 2015/10/28 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第77話 気配(その20)】 

 一方、兵庫が江戸湾で朝飯を食べていたころ、駒形で具足商いをしている地天屋には客が集まり始めていた。
そしてその客は帳場に貼られている案内を読んでいた。そこには、
“当店では春より、来たるべき日に備え大幅値引きの奉仕値販売をし、その薄利を以て養育所経営にあてて参りました。しかしながら諸物価値上がりの先々を思い、本日を以て大幅値引きを終わらせ、明日よりは値引き幅を減らし売り値を一両増しの三両二分二朱にさせて頂きます”と書かれていた。
「明日からは一両も上がるのか・・・」
「引札が配られた春に買っておけば今より一両も安かったのだが・・」
「それを悔いても仕方あるまい。明日に成る前に来られたのが我らの才覚だよ」
「そうだとすれば、地天屋の主は侍らしいが、その才覚は並外れているな」
「押上に道場も開いているらしいが、めっぽう強いらしい」
待たされている侍の話が兵庫の話に及ぶと、
「御女中、主(あるじ)殿は来られて居らぬようだが」と侍の一人が帳場に座らされているお雪に尋ねた。
「はい、鐘巻先生は大船(おおぶね)を確かめに、早舟を仕立てて出掛けて居ります。お戻りは夕刻になりますがこちらに来られるかは分かりません」
「そうか、ところで、この様に並んでいるが更に増えるだろう。我らも侍だ、具足着付けの出来るところは自分らでするゆえ、始めから終わりまで付きっ切りで見て貰わなくとも構わぬ。丁寧なやり方は有難いが、このままでは今日中に終わらず剣呑(けんのん)なことが起きかねん。考えて貰えまいか」
「分かりました。最初のお客様が間もなく終わりますので暫くお待ちください」

 二人の客が満足した様子で次々と試着場から出て来て、金を払い帰って行った。
事情をお雪から聞かされた内藤が、
「お客様、私はここを任されています内藤と申します。この店へのお客様は日に数人来て頂ければ良い方でした。そのため、試着場も二部屋あれば待たせることなく出来たのですが、いま此処には既に十一人もの方々がお見えに成っておられます。提案ですが、試着場と多少の心得の在る手助けを用意しますので、先ずは皆様と手助けの者とで着付けて頂けませんか。後日の手直しには応じます。如何ですか」
「それで良い、拙者等も急いでいるゆえ、贅沢は言わぬ」
「分かりました。用意致します。御二方お上がりください。心次郎お世話をお願いします」
と言い残し、道場に向った。

 道場に行った内藤は事情を話し、道場に衝立障子を使い着替え場を造らせ、衣桁、刀掛け、床几を運び入れさせた。
出来た試着場は三つで表と合わせ五つが、四人の手で動き出した。
仕事は捗(はかど)った。と云うより侍たちが急いだことも手伝って細かい注文を付けなかったことにも助けられた。
急ぐ客の中には明らかに出仕前に用を済まそうと来た者も居たのだ。
一方、今日が非番で良かったと言って帰る者も居た。
そう云う者には
「今日は遅くまで、無くなるまで致しますとお勤めの方に知らせ下さい」
と伝えた。
兎に角、繁盛した。
その繁盛が、在庫を減らしていった。
「内藤さん、売り切れ店じまいにしますか」と心次郎が耳打ちしてきた。
「それは駄目だ。売切れた翌日に、ここに売り物が山ほどあったら、地天屋すなわち養育所の評判が落ちます。鐘巻流兵法は与えて後に得るだからな」
「分かりました。乙次郎さんと仙吉さんに運ぶように頼んできます」
「押上の大八車を使うように言って下さい」

皆様の激励が明日への力に成って居ます。

Posted on 2015/10/27 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第77話 気配(その19)】 

 遠くから大船を見ながら、持参した握り飯を食べていた山中碁四郎が、
「兵さん。大船は見ましたが…」と云い口を閉ざした。
碁四郎の意を察した兵庫が、
「人を見たいのですか」と問い正すと
碁四郎が頷いた。
「私も会ってみたいです。今日を逃すと、その機会は無くなりますね」
「お触れが出れば、この様に見物も出来なくなるでしょうね」
「異人さんは新式の飛び道具を持って居ますから。穏やかに会わないと怪我をするのはこっちですから、近づくときは笑顔を絶やさぬようにしてくださいよ」
「あとは、奴さんたちが下りて来るのを待つだけですね」
「下りて来る? 捨吉さん、どう云うことですか」と兵庫が尋ねた。
「旦那、大船が横付け出来るような所は在りませんから、小舟を使うのですよ」
「その小舟は?」
「よく大船を見て下さい。積んでるでしょう」
兵庫の目は大船の上で動く小さな人の辺りを見ていると、変わった形だが船らしきものが吊り下げられていた。
「なるほど。船に舟を乗せて居るのが分かりました。下ろすのを見たいですね」
「兵さん、それは私も同じです。浮橋でも川から陸に上げるのに骨を折って居るので参考にしたいです」

 待って居ると、海上に変化が生じ始めていた。見物船が減り始めたことと、それに呼応したかのように役人の乗る伝馬船の数も減ったのだ。
そして、大船の上にも動きが生じ、舟を下ろし始めた。
「やっと動き始めました。海に下りたら何をするか後をつけ、様子を見て接近することにします。漕ぐのは艪だけにしましょう。皆、櫂は上げて下さい」

 こうして、のんびりとした追跡が始まった。
「それにしても、面白い漕ぎ方だな」
「全くだ。後ろ向きでこいて居やがる。旦那、土産話が出来ましたね」
「そうですね。しかし、あれはあれで、理に叶って居るはずです。鉄の大船を造った国がすることです。前方を見られない不利を帳消しにしてさらに余る有利が在るのでしょう。漕ぎ手に無駄な動きが無く、全身を使って力強くこいて居ます」
「鐘巻さんの言う通りです。向こうは二人漕ぎですが、銀太さん一人では追いつけそうもない。こちらも二挺艪にしましょう」
こうして、二人力比べに成ったが負けず嫌いの捨吉、銀太の漕ぐ船が追いついていった。
このことは、後ろを向いてこいている異人の漕ぎ手には見えるため気がつき、漕ぐ手を緩めた。
 この時、兵庫は異人の一人が糸を垂れて居るのを見て、測量していると思ったが、銃を持って居る者も居たため、
「笑って、手を振れ。友好で行きましょう」と兵庫が言った。
「それが無難です」碁四郎と同意した。
友好の証が通じたのか異人も笑い手を振り応えた。
追いつき船は並んで止まった。

 これからが意思疎通の難しさを互いに知ることに成るのだが、互いに努力し手振り身振りでつたえあった。
努力の甲斐あって、銀太と捨吉が向こうの船を漕がせて貰い、異人の二人がこちらの艪の漕ぎ方の手ほどきを受けたのだ。
別れる時、何かを交換することに成ったのだが、兵庫は締めていた帯を送り、相手からはベルトを貰った。
これが最初の庶民レベルでの日米友好だったのだが、残念ながら両国にその記録は残ってはいない。


皆様の激励が明日への力に成って居ます。

Posted on 2015/10/26 Mon. 04:01 [edit]

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janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第77話 気配(その18)】 

 嘉永六年六月四日、寝床で朝七つ(4時ごろ)の鐘の音を聞いた兵庫は蚊帳を抜け出した。
用意しておいた物に着替えた兵庫は提灯の蝋燭に有明行燈の灯を移し、更に風呂敷包みを持った。
この様子を布団に座り見ている妻の志津に、
「行ってきます。碁四郎さんの話では海上十四里ほどだそうですから、漕ぎ手を増やせば明るい内に戻れます。行ってきます」
兵庫が出立する時刻は出入り口の番をする茂吉にしか知らせて居ない。見送りをさせない配慮からで、志津も部屋から出ることなく見送った。
 表口の土間には灯りがつき、茂吉が戸の心張棒を外して待って居た。
戸が静かに開けられた。
「早くからすみません。行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
羽織はかまに両刀を差した武家姿に提灯をぶら下げていた。これは途中、辻番などでとがめられないようにするためだった。
その功あって、何事も無く小さな明かりを点した浅草平右衛門町の船宿・浮橋に着いた。
そこには碁四郎を含め荒くれ姿の男が七人待って居た。
兵庫は武家衣装を脱ぎ、持参した野良着に着替え直し、石二つを懐に納め荒くれ仲間に加わった。
「出かけるぞ」碁四郎が立ち上がった。
船頭たちの動きに従い外に出ると、碁四郎から手持ちの櫂を手渡された。
小さな明かりが点った船に若い船頭四人が乗り込み、その次に碁四郎、兵庫と乗り漕ぎ位置を決め、櫂に流れ止めの綱を取り付けた。
支度が出来ると、舟を押さえて居た船頭古参の銀太と捨吉が船の艫(とも)(船尾)に乗り込み棹を持った。
船着場を離れた船は神田川を下り大川に出た。
流れに乗ると、先頭の船頭から櫂を入れていき、兵庫も漕ぎ始め、艫に乗った銀太と捨吉が艪(ろ)を漕ぎ、八人力となった。
滑る様に川面を下る船は江戸湾に出た。
漁火を点し、漁をする船を見ながら、只々漕ぎ続けた。
東の空が白み、下総の低い山並みが浮き出てきた。
朝日が昇り、金色の波が舳先(へさき)で砕けて散った。
西には大山、富士は雲に覆われて見えなかった。
「腹が減った。朝飯にしましょう」
碁四郎の言葉に櫂を漕ぐ手が止まり、暫く口が動いていた。

 そして八人は漕いだ、漕いだ、漕いだ。
「久里浜は、あの岬(現在の観音崎)を回った先だ」と捨吉が指さした。
目標が見えると船の進みが早まり、船は岬を回った
「あれだ」
それは八人が同時に気づく景色だった。
四隻の大船が停泊していたのだ。
「久里浜ではなく浦賀ですね」
「それにしてもでかいな~。日本の船が蟻んこの様だ」
大船を見ようとやって来た船が遠巻きにしているのだ。あまり近づかないように旗を立てた幕府の伝馬船が出ているが、あまりにも多く追い払うことは出来ないでいた。
「脇に水車を付け、煙を吐いている黒い船が大将の乗っている船だろう。触りに行きましょう」
「おもしれぇ」
「後ろから近づき脇を通り過ぎるのが目立たないだろう」
多くの見物船は大船の全容が分かる側面側に点在している。取り締まりの船も側面側に数隻いるが大船に背を向け見物船を見ていたのだ。
 見物船の外側を迂回し、大船の後方に回った八人乗りが、全速で近づき側面に入ると漕ぐのを止め船を近づけ触った。
「鉄で出来ているぞ」
「これでは戦っても勝てそうもないな」
「役人が気が付きましたよ、逃げましょう」
しかし、八人で漕ぐ船に追いつけないことを役人は直ぐに悟ったのか追うのを諦めたため、兵庫等は心置きなく大船を見ることが出来た。
「大船を見ながら昼飯にしましょう」
船は大船から離れて行った。

Posted on 2015/10/25 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学

【鐘巻兵庫 第77話 気配(その17)】 

 兵庫は客に気に入った物を幾つか選ばせ、試着場が空くのを世間話をしながら待って居ると、
「有難う御座いました」と心次郎の声がして、風呂敷包みを下げた武家が満足した様子で帳場に現れた。
「丁度頂いて居ります」の心次郎に応じ
「有難う御座いました」とお雪が客に頭を下げ、店から出て行く客を心次郎は戸口の外に出て見送った。
その間、兵庫は待たせていた客が選んだ物を抱え、空いた試着場に客を案内していた。
そして戻って来た心次郎に後を任せて兵庫は試着場を出た。

 この日、具足を買い求めに来た最後の客が帰ったのは兵庫が子供たちと夕飯を食べた後だった。
遅まきながら、夕食を食べ終えた内藤が、帳場番をしている兵庫の所やって来た。
「鐘巻さん、何かが起きていますよ。八組が売れました」
「確かに異常ですね。異国の大船が来た夢を見たと云う客が居ましたが・・」
「そうだとしたら、その情報をどうして得たのでしょうか」
そこに、暖簾が動き、山中碁四郎が入って来た。
「鐘巻さん、来ましたよ」
「異国船ですか」と、内藤と話していた流れに乗り返事をした。
「はい、良く分かりましたね」
「実は、具足の売り上げが何時になく多いので、内藤さんと待って居た異国船が来たのではと話をしてところだったのです」
「そうでしたか、漁師の話ではでかいのが四艘。煙を吐き大八車の様に脇で水車を回して動くものも在ったそうです。江戸湾の出口、久里浜沖に泊まって居たそうなので、明日早朝見に行くのですが如何ですか」
「勿論、行きます。出発時刻は?」
「朝七つに起きて出て来て下さい」
「分かりました」
「鐘巻さん、値上はいつからにしましょうか」
「異国船が来た事実を多くの侍が知った後にするとして、明後日五日からにしましょう」
「告知をしますが、値上げの訳は何と致しましょうか」
「値上げの訳・・値上は耳障りですから言葉を変えましょう」
「どのように?」
「値上ではなく、今までの大幅な値引きを一両減らすだけです。それでも具足町より安いはずです」
「そうでした。値上ではなく値引きを減らすのでした。これなら告知文が書けます」
「鐘巻さんは商売の才覚がありますね」
「碁四郎さん、褒めているのですか。私を見る目が真逆ですよ」
「褒めているに決まって居るでしょう。二千両の軍資金が減るどころか増える目途が付いたのですからね。目出度い、目出度い。それでは明日の朝、待っています」

 ほどなくして押上に戻った兵庫は、十軒店の者が店を閉めそれぞれが夕飯を食べ終わった時刻に広間に集まってもらった。
急な話があると聞かされ、集まった者たちは兵庫を注視していた。
「これから話すことは、確かなことではありませんので、他には話さないで下さい」と念を押した。
「話はご存知の山中碁四郎さんから、先ほど駒形で聞いた話です。私が予想して居たことですが異国の大船が江戸湾の入口の久里浜沖に来たそうです。真偽を確かめるため私は明日早朝、碁四郎さんと船で見に行ってきます。来た場合、世上不安になり人心は荒みますので皆様には外出する時は一層の注意を払って下さい。以上です」
「先生、駒形の商いが忙しくなりますが、手伝わせて下さい」と甚八郎
「確かに今日は八組売れ繁盛の兆しが現れました。これからは更に売れ、押上の在庫もこの月の内には大半が消えるでしょう。武家の来客が増え問題になるのが子供たちです。暫く押上に移そうと思って居ますのでその世話を頼みます。それと、世上の乱れは剣術も流行らせますから、こちらで励んでください」
集まった者たちは、異国船と云う得体の知れぬ気配が江戸に近づいて居ることを知り、不安を隠さず己の部屋に戻っていった。

Posted on 2015/10/24 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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