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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【湯上り侍無頼控え 六話 賭場船(その14)】 

舟遊びに出ていた客が戻ってきたのか表から聞こえてくる声が大きくなり、お静が部屋から出て行くと、代わりに、頼んでおいた髪結いの籐吉がやってきた。
「旦那、どんな髪に結い直しますか」
「吉原へ出かける客のようにして下さい」
「先日は舟追い剥ぎでしたが、今度は何ですか」
「似たような者が待ち構えているらしいのです」
「そうですか。それではそいつが釣れるように粋に仕上げますよ」

 花川戸の清衛門から使いが来たのは七つ過ぎだった。
大女将のお蔦に吉原通い風に仕立てられた碁四郎の帯びには、吸えない煙草入れまでぶら下がっていた。
「どうだい、どこから見ても道楽息子だろう」
「全くだ。侍にしておくのがもったいねぇ」
「大女将、船頭衆は日雇いも帰さないでおいて下さい。出番があると思いますので」
「分かったよ。気をつけておくれよ。もう一人身じゃないんだからね」
碁四郎が捨吉の漕ぐ猪牙舟に乗り、大川へと向かい出て行った。
「大川に賭博船が出ているとは気がつきませんでしたよ。もっとも昨日、今日と山谷堀へは行ってませんがね」
「大きな船だそうです」
「そりゃ~そうでしょう。中で賭場を開くんですからね」
舟は神田川から大川へ出て、吉原へと上って行った。
「あ~・・あの船かもしれませんね。吾妻橋の向こう、やや向島寄りに浮かんでいますよ」
「なるほど、それじゃ旦那はここいらから道楽息子になりきってくだせい」
「大船には近づかずに、山谷掘りに向かって下さい」
碁四郎の乗った猪牙が吾妻橋を潜ると、賭場船の全容が見えた。
「あの船は、いわゆる熊一丸ですね」
「何ですか。熊一丸とは」
「熊一というのは長さ十間の船で、十間は九間 と一間ですから、九間をくまと読み、一間をいちと読み続けてくまいち・・洒落て獣の熊に一と書いてます」
「なるほど、それにしても大きいですね」
「近頃は、あれほど大きい屋形船は作りませんから、どこかにあったのを化粧直ししたんでしょう」
猪牙舟が花川戸辺りを過ぎていくと、前方を塞ぐように一艘の猪牙舟がやってきた。
「旦那、釣り針に掛かったようですぜ」
近づいてきた舟から声がかかった。
「旦那、吉原ですか。その前にあの船で少し遊んで、持ち金を増やして行きませんか」
その男は右手に壷を持つ素振りを見せ、それを左手の平に振り下ろした。
「私は、博打は素人ですから」
碁四郎の断わり方に脈があると思ったのか、
「簡単です。ただ丁半を当てるだけで、子どもでも出来ます」
「花魁が待っていますから、長居は出来ないのです」
「勝負は早いです。手間は取らせません」

Posted on 2011/03/31 Thu. 17:05 [edit]

thread: 幕末物語

janre 小説・文学