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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第七話 兵庫三番勝負(その4)】 

「竹刀でござるか。出来れば木刀にてお願いしたい」
「木刀では大怪我、命を落とす事もあり、軽々しくはお受けできぬ」
「尤もなこと。我ら天涯孤独。誓詞を入れるゆえお願いしたい」
「聞いての通りだが、どういたす」
倉之助は兵庫を見た。
「そこまで申されるなら、いっそ真剣での勝負をお願いしたいです」
これには三人の浪人も驚いたようであったが、引くに引けなくなったのか、同意する事になった。
「致し方ない。真剣での試合を許すと致すが、勝負は時の運。どちらが勝つにしても負けた者は、もはや侍としては生きてはいけまい。よって負けた者の差し料は生死にかかわらず当方に譲る事で同意願いたい。役人への届出、坊主、墓代と諸掛が多くなるでな」
この頃になると三人の最初の勢いは消え、倉之助らの思う進行になりつつあった。
こうして誓詞がとりかわされた。

 「先ずは鐘巻、お主からだ」
倉之助の声に促され、兵庫は刀掛けから愛刀となった源三、二尺二寸五分を取り、日向和田之助の二間ほど前に日向と同じように刀を右に置き座った。
「支度を終えたら始めるように」
兵庫は右手の刀を引き寄せると、襷をかけるため下げ緒を抜き一旦刀を床に置いた。
その時、日向は右手で引き寄せていた刀を持ったまま立ち上がるや兵庫の面前まで進み、鞘ごと打ちかかってきたのだ。
兵庫は横殴りに振られた刀を避けきれず、左こめかみ辺りを打たれ右へ倒れた。
勝ったと思ったのか、日向が右手の刀を左手に持ち替え、抜きかかったが、うめき声を挙げ、後ずさった。
 兵庫は右に倒れた時、刀を掴み左手居合いで切り上げ、日向の左足腿を切ったのだ。
日向は吹き出る血が切り裂かれた袴を濡らすのを手で押さえ立ちすくんでいた。
「鐘巻、それまでに致せ」
立ち上がった兵庫は日向に一礼し、
「喜助を呼んで参ります」
道場の裏戸を開け出て行った。
兵庫が戻ると暫らくして喜助が道場にやってきて、日向の血止め、包帯をした後、道場から出て行った。

「鐘巻、お主は兵法未熟である。日向殿、北辰一刀流の一端、しかと拝見させてもらった。礼を申す」
「左利きとは思わなんだ」
日向の口からこぼれた。
「鐘巻は右利きでござる。左居合いは嗜む程度、右居合いであれば足ではなく、指を落とす程の、軽い傷で済ませたであろう」
それを聞き、声も出せない日向和田之助であった。

「次は岡部、お主がお相手致せ」
すでに、襷も掛け終わり刀を持っていた岡部は、道場に出ると片膝付の姿で相手が出てくるのを待った。
「どなたでもよい。支度が出来次第進まれよ」
倉之助の声にも、既に戦意を喪失した二人、どちらも出て来ようとはしない。
それを見て倉之助が
「戦わずして負を認められるのは構わぬが、誓詞を交わした勝負、約束どおり両刀は置いていって頂く。戦うか、戦わぬのか如何致すか早々に決められよ」
しかし道場は静まりかえったままであった。
兵庫は、黙ったままの二人より、日向の出血が気になり
「先生、私、駕籠を呼んで参ります」
倉之助は黙ったまま頷いた。

Posted on 2011/07/31 Sun. 04:59 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学