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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第六話 折れた虎徹(その9)】 

「私は少なく見ても一朱は取られると思っていましたが」
「わしのはかなり直されているから、兵庫の倍の二朱は払わねばならぬだろうな」
「わしは金を持っておらぬぞ」
「岡部さん、雑司が谷の政五郎からせしめた8両はどうしたのですか」
「兵庫、聞いてくれるな。あれから既に二月(ふたつき)も経っておる。暮れの支払いでほとんど残っては居らぬ」
「それでは明日からでも問屋場通いですね」
「八郎、お主一人を問屋場にはやらせぬぞ」
「なんですか、佐々木さんもですか」
「そうだ。明日からは兵庫一人で、代稽古をたのむ」
「どうやら御主等三人の正月は終わったようだな」
三人の話を聞いていた倉之助が呆れたように言った。

 五日のまだ明け切らない朝、問屋場で日銭一朱を稼ぐために股引きに綿入り半纏を着た佐々木と岡部が、薄暗い母屋の溜り場で飯を食っていた。
「早いですね」
稽古着姿の兵庫が膳に空の丼二つを乗せやってきて、囲炉裏端の空いているところに座った。
佐々木と岡部の間に置かれていたお鉢を佐々木が兵庫に回してくれた。
兵庫は残り少なくなった飯を自分の丼に盛り上げ、囲炉裏に吊るされている鍋から具の少なくなった味噌汁をもう一つの空の丼に装(よそ)った。
兵庫が飯を食べ始め暫らくすると
「兵庫、飯まだ残っているか」
「はい、岡部さんのために少し残しておきました」
「すまん、お鉢を回してくれ」
「はい、御新香の皿をお願いします」
岡部が佐々木との間に置かれていた皿の上の沢庵を数枚空になった丼に入れ終わると、兵庫の脇のお鉢と交換した。
大よそ、この様な風景が朝昼晩の三回、この溜り場で繰り返されるのである。
 昼間がまだ短いこの時期、働く時間を少しでも長くするため、夏に比べ問屋場も暗いうちから仕事を始めるのだ。
二人が問屋場に向かって走っている頃、二人が残した膳を台所へ運び、空になったお鉢や囲炉裏に掛かった鍋を片付けるのも兵庫の役割になっていた。
最後に兵庫は去年の炉開きで入れた、まだ黒い藁灰を囲炉裏の薪に被せ、台所口から出て離れの部屋に戻った。

 離れの部屋に戻ってみたものの、部屋には火の気が全くない。
じっとして居ては寒い。
道場に出た兵庫は雲風流の鉛を仕込んだ重い鍛錬棒を振り始めた。
暫らくして武者窓から朝日が差し込み、兵庫の吐く息を輝かせた。
木刀を振る時数は数えない。
身体の疲れ具合が振るのを止める時期を教えてくれるのだ。
決して無理はしない。
しかし楽もしない。
木刀を振り終えると次は足の鍛錬を始めた。

Posted on 2011/07/09 Sat. 05:16 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学