08 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 10

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第十話 貧乏侍(その8)】 

 久し振りに道場の玄関にやって来た虎之助を、一人稽古をしていた兵庫が出迎えた
「なんの御用ですか」
と虎之助の売り文句‘何か御用は御座いませんか’を先取りして尋ねた。
「実は私、何か恐ろしいことをさせられているようで、怖いのです。もしかすると殺されるかもしれません」
突然の虎之助の言葉に兵庫は驚き、
「上がって、もっと詳しくお話下さい」
 草鞋を脱ぎ道場に上がった虎之助はこれまでの事を色々と話して聞かせたが、兵庫には虎之助が恐れる訳が理解できなかった。
「虎之助さんの取り越し苦労ではありませんか」
「そうなら良いのですが、手代の留吉さんの様子がおかしいうえ、これまで重い物を運んだ時にも使ったことも無い割符を茶店の亭主への荷物に使うのは読まれては困ることが書かれている証だと思うのですがね」
そう言いながら、虎之助が懐から折れた櫛を出した。
「それが割符ですか」
「はい」

 そこえ、兵庫の気合が消えたのをいぶかったのか道場主の相川倉之助が現われ、同じ話が繰り返された。
倉之助は暫らく考えていたが
「どうだ、荷物を開けてみては」
「それは道義に反します」
「内藤殿は手代に信用されているな。これまで何度か運んだようだが一度たりとも中身は見ておらぬようだな」
「当たり前です」
「もし、お主心配が事実とすれば、これまで運んだ荷物が開けられたか否かを隠し封で分かるようにしていた筈。それでお主が荷物を開けない者と確信できたのじゃよ。内藤殿が絶対に開けないと思えば、その荷物の中に何を入れても書いても手代にとっては心配ない分けだ。この荷物を運んだ者を殺せと書いてもな」
 虎之助は暫らく考えていたが、
「この荷物井筒屋に返しましょうか」
「馬鹿を申すな、そんなことをしたら他の誰かがお主の身代わりに成るではないか」
「分かりました、それでは、この荷物開けましょう」

 荷が解(ほど)かれ五平宛の柳行李(やなぎごおり)が開けられると書き物が入っていた。
倉之助はそれを読んで驚いた。
「内藤殿の予感が当たっているぞ」
そこには、
長月二十日夕刻、予定の通り千両入金あり、主人部屋に置かれます。
裏口木戸を開放しておきます
尚その夜の宿は、これを届けた平尾宿市兵衛店の内藤虎之助宅が留守となり空いています
と書かれ、裏木戸から主人の部屋までの見取り図が描かれていた。

 「長月二十日と言えば明日ではないか、猶予は出来ぬ」
「如何致しましょうか」
「放っておいては、内藤殿ではなく井筒屋の主が危ない。兵庫、お主は内藤殿と大宮まで同道しろ。わしは役人の糟谷に知らせ押し込みが入るところを取り押さえさせる。手が足らねば手伝うこともあるかもしれぬが」
「分かりました。私は茶店から出てくる者の後を追いながら、板橋に戻ります」
「兵庫、桶屋の升蔵のところにより半次を連れて行け」
「その様に致します」

Posted on 2011/09/30 Fri. 05:09 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学