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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十一話 隠密稼業(その19)】 

 その夜、城から戻った丹波守に家老から言上された。
山倉屋との縁を切ることに否を唱える重役は居なかったが、大友門太夫に死を与えることには多くの重役が否を唱えた。
私利私欲からでなく、あくまでも藩のためにやったことは、日頃の大友の行いから全ての者が知っていたのだ。
生きておればこれからも藩の役に立つ男だと惜しまれた。
重役の話がつかぬまま、丹波守が言った。
「此度のことは、余の欲に対する戒めであろう。大友門太夫にはこの脇差をつかわす。後日縁者を持って家を再興させるように」
家老はうっすらと涙を浮かべ丹波守から脇差を受け取った。

 十三日には下屋敷に山倉屋が呼び出され、以後の出入りを禁じられた。
その日の夕方、大友門太夫は丹波守から拝領した脇差を使い見事に腹を切った。

 その間兵庫がすることも分からず、また割る薪もなく、吉衛門の家の離れで長い禁足の日を過ごすのかと思っていたら、事件から二日たった十三日の昼前、吉衛門に連れられ本所定廻り同心の坂牧がやってきた。
「預かり物を返しにきた。錆びるといけねぇから早く手入れをしてやんな。それと禁足は解けたよ」
「わざわざどうも。お役目ご苦労様です」
坂牧を見送った吉衛門がおそるおそる
「鐘巻様、人をお斬りになられたのですか」
「十一日新辻橋で」
隠すことも出来ない兵庫が申し訳なさそうに応えた。
「ああ、あの事件は鐘巻様が・・・お刀の手入れ道具お持ちですか」
「いいえ」
「私も以前は名字帯刀を許されておりましたので、半端な物ですが持ってきますのでお使い下さい」
「有難う御座います」
この日、兵庫は刀の手入れをしながら、吉衛門から町名主の跡を継いだ倅が病で死に、その若い妻も里に帰した話を聞かされた。

 そして十六日、大友門太夫に仕えていた浜中磯兵衛がやってきた。
兵庫は浜中を離れの部屋に向かい入れ、話を聞いた。
「わが主(あるじ)、大友門太夫は十三日下屋敷にて切腹なされました」
「丹波守様も惜しい家臣を失いましたな。大友家はどうなるのでしょうか」
「はい、家禄はそのままに御舎弟の久太夫様が継がれると聞いております」
「それはようございました」
「これは主人の脇差、粟田口近江守忠綱一尺八寸五分で御座います。鐘巻様へとの遺言で御座いました」
「有難く頂戴いたします」

Posted on 2011/10/31 Mon. 05:14 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学