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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十五話 はやり風邪(その3)】 

 男の立ち話ほど女にとってつまらないものはない。
話しに幸が割って入ってきた。
「こんな所で立ち話するより、深川鍋でも頂きませんか。悪い風邪が流行っていますので精を付けましょう。美味しい所存じていますので、お志津様よろしいでしょ」
「そうしましょう。先日はどじょうを食べ損ねましたので、今日は浅蜊で駒形の仇をとりましょう」
「どじょう・・幸、そんなことまで話をしたのですか」
「はい。でも私が言わなくたって、あの時、何か食べたい顔をしていたのは見透かされていたのですよ」
「女は目でも話しをしますが、鐘巻様はお顔でね」
「その顔を読む術は剣術にも使えそうなので、入門させて下さい」
「だめです。術を覚えると私が、旦那様の顔が読めなくなりますので」
 ずっと話しの外に取り残されていた夫人が進み出てきた。
「ご挨拶申し遅れました。健次郎の母の田鶴で御座います。先年は倅、娘ともに危ない所をお世話になり有難くお礼の申しようも御座いません」
「これはご丁寧なご挨拶、痛み入ります。私は鐘巻兵庫、これは連れ合いの幸で御座います」
 立ち話を終えた五人は、幸が深川で芸者稼業していた時知った門前町の料理屋に入り、座敷に上がった。
暫らくして、仲居が二つの土鍋を持ってきて座敷の鍋式の上に置いた。
鍋の蓋がとられると、味噌仕立ての汁の中に剥き身の浅蜊、季節の野菜、あぶらげ、豆腐などが放り込まれ煮立っていた。
「お給仕いたしましょうか」
仲居の問いかけに
「いいえ」
「私どもでいたします」
幸と志津が応えた。
兵庫と健次郎が飯をお代わりしながら鍋の粗方(あらかた)を食べ終えた頃、志津が話を始めた。
兵庫の顔がそうさせたのか、もう隠しておくこともないと思ったのかはわからないが、本所まで流れてきた大まかな経緯(いきさつ)であった。
兵庫は話しを聞かされながら考えていた。
「旦那様、また何か考えているのですか」
「あ~、はい、もし健次郎殿が私の道場に通われるのでしたら少し田舎にはなりますが亀戸に知っている空き家がまだあると思いますので、話しをしておきますが・・」
「これ以上、ご迷惑はかけられませんし・・」
はっきりと断わらない志津の言葉に、兵庫は
「それでは、これから見に行って空いているか否かの籤で決めましょう」
「そうなされたら如何ですか」
「恵方参りしたその日に引っ越す家を見に行くのが鐘巻流なのですね」
「変わった旦那様でなければ、いまの家を一両で手には入れられません」
「あの家が一両ですか」
「しかも、大きな声では言えませんがもっと大きな持参金付でした」
「分かりました。健次郎は母上を家までお連れして下さい。私が見て参りますから」

Posted on 2011/12/31 Sat. 05:15 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学