12 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 02

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第十七話 食い詰め浪人(その3)】 

 その晩、店の客が途切れないのか、お絹もお福も酒・料理を運ぶ時を除いて部屋に長居することはなかった。
しかし久し振りに揃った三人、話しの種に不自由は無く、分かれてから数ヶ月の間に溜まった三人三様の話に花を咲かせていた。
 夜が更けて行くなかで、表で何か大きな声がしたのを兵庫は聞いたが、それも直ぐに止んだ。
暫らくして客が居なくなったのかお絹が部屋にやってきた。
「全く、質(たち)の悪い浪人さん達でした」
「何かあったのか」
お絹の溜息交じりの一言に、主人の佐々木が酔眼で聞いた。
「いえ、只飲みと只食いされただけです」
「何故、呼ばぬ」
「相手は浪人五人です。酔っ払い同士がぶつかったらどうなるかぐらい私でも分かりますよ」
「やはり蕨でも悪さをしましたか。それが“はつね”とは・・」
「兵庫、やはりとは何だ」
「今日、先生から聞いたのですが、中仙道を江戸に向かう五人連れの浪人たちが宿場宿場で悪さをしていて、今日・明日にでもやってくると」
「けしからん奴だ。それで幾ら只食いされた」
「五人で二分二朱です」
「今度来たら、とっちめてやる」
「佐々木さん、そいつ等はもう来ません。長居をせずに江戸に向かっているそうですから」
「それにしても、腹が立つ。お絹、もう一本付けてくれ」
「もう駄目ですよ。明日がありますから」
その晩、兵庫と岡部は‘はつね’に泊まり、佐々木とお絹は道場開きする家に帰って行った。

 翌朝、店を開けにやってきたのは仲居のお福で、寝ている二人を見た。
「何時まで寝ているのですか。早く起きて顔を洗って来て下さい」
寝ていて起こされたのは、相川道場で食客時代に賄(まかな)いのおたきに桶の底を叩かれた時以来である。
妻を娶ってからは好きなだけ寝かせてもらえる身分になっていた二人なのだ。
眠そうに眼をこすりながら兵庫が
「まだ暗いではありませんか。何時(なんどき)ですか」
「もうすぐ夜が明けちゃいますよ」
「そんな早くから、道場開きするのですか」
「聞いていないのですか。お二人には御餅を搗(つ)いて頂きます」
兵庫は起きようとしない岡部を揺すり起こした。
「岡部さん。餅搗きの話し、聞いていましたか」
「餅搗き? ・・いかん。今、何時(なんどき)だ」
「間も無く、明け六つだそうです」
「しまった。兵庫、お主はここで餅を搗いてくれ。わしは佐々木さんの所で搗くことになっているのだ」
「何で、また」
「呼んだ客と見に来る者に配るのだ」
岡部は言うが早いか、飛び起き裏の井戸へ顔を洗いに行ってしまった。

Posted on 2012/01/31 Tue. 05:31 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学