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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十九話 親善試合(その4)】 

「暮らしに不自由も出るでしょうから、月に二分の小遣いを出します。もっとも使う暇など与える気はありませんよ」
「月二分だと年六両・・ずっと住み込みたいものだな。隆三郎」
「わしは親父殿に頼んで屋敷を出る」
どうやら月二分の方が効いたようで、四人がその気に成り始めた。
「勘違いするな。一年も出せる金など無い。当面の話しです」
「先生、稽古お願いします」
兵庫は首を横に振り
「明日からの稽古はかなりきつくなりますので今日は早めに上がりなさい。私は、今から桶町へ試合のお願いに行ってきます。」
再び始まった門弟四人の稽古の声を聞きながら、兵庫は着替えを済ませると後のことを幸に頼み駒形の道場を出た。

 桶町は日本橋の南、呉服橋御門と鍛冶橋御門の間の堀外にあり、兵庫が暮らしていた八丁堀とは目と鼻の先である。
この辺りは堀の内側には豪壮な大名屋敷が建ち並ぶのが見え、また多くの高禄の武家も通るため町並みも整えられている。
それがこの辺りに住む者に気位の高さを浸み込ませ、町人の言葉の端々にも現れるので、兵庫はこの堀回りの道を歩くことを好まなかった。
桶町の千葉道場ではなく蜊河岸の桃井道場に通ったのもその辺にあった。

 兵庫は、出かけ先から戻って来て、稽古を見ている千葉定吉の前に通された。
竹刀の打ち合う音と気合いが飛び交う喧騒の中で
「初めて御意を得ます。駒形で道場を開く鐘巻兵庫と申します。お見知りおき下さい」
「貴方が鐘巻殿ですか。先日桃井先生にお会いした折お伺いしました」
兵庫より一回り以上歳をとり四十ほどの定吉は物静かに言葉を続けた。
「今日はどのような御用でしょうか」
「早速ですが、当方に四人ほど修行中のものが居るのですが、千葉先生の御門弟の方と試合をさせたくお願いに参りました」
「親善の試合ならしておりますが、御門弟の技量は如何ほどでしょうか」
「腕の程はしかとは申せませんが、こちらの山口晋殿にとうてい及ばぬものが二人と、さる藩の五指に入る部屋住み者二名で御座います」
「山口が何か致しましたか」
山口の名が出されたことをいぶかった定吉の問い掛けだった。
「稽古でのことゆえお咎めは無用で御座います」
「分かり申した。再度山口と堂々の試合をさせたいのですな」
「はい、明日より二十日ほど修行させますので、山口殿を先鋒にてお出し願えれば有難いのですが」
「分かりました。二十日後の二十三日、朝四つお待ち致す」
「お聞き頂け有難う御座います」

Posted on 2012/02/29 Wed. 05:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学