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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十九話 親善試合(その5)】 

 兵庫は持参した竹刀袋から己の真新しい竹刀を出し
「当日、使わせる当流の竹刀で御座います。鉛入りですが怪我の虞(おそれ)は御座いません」
定吉は手に取り、
「これは山口の竹刀よりだいぶ短く重いが構わぬのか」
「なかなか勝てぬ試合になりますので、その時の言い訳にさせて頂きます」

 その時、定吉は道場に入ってきた者へ声を掛けた
「佐那!」
声を掛けられた稽古着姿だが防具は着けていない若い娘がやって来て、兵庫の脇に座った。
「佐那、こちらのお方は駒形で道場を開かれている鐘巻兵庫殿だ。一手ご教授頂いたらどうだ」
「はい、よろしくお願いいたします」
「佐那殿はお幾つになられましたか」
「はい、十四で御座います」
「鐘巻殿、お気遣いは無用です。娘の佐那は打たれても泣きません」
「御娘殿でしたか。失礼しました。それではお相手いたします」
兵庫は定吉から己の竹刀を受け取ると、佐那が待つ道場中ほどへ出て行った。

 折り目がきちんとついた紋付袴姿の兵庫と若く美貌の娘佐那が出ると、他のものが引き下がり、成り行きを見守った。
兵庫が佐那に一礼すると、佐那も一礼し甲高い気合いを掛けた。
佐那は身軽で、正眼に構える兵庫に突進した。
その度に佐那は竹刀をはじかれ、外された。
佐那の動きに反し、兵庫は最初に立った位置から三尺と動かず佐那に面して立っていた。
竹刀とはいえ防具無しの立会いで佐那を本気で打つわけにはいかない。兵庫は攻めを見せながら守り続けていた。
兵庫を攻めあぐねた佐那が間を取り、息を吐いた瞬間、兵庫が踏み出し竹刀が伸び佐那の持つ竹刀の先を突いた。
緩んだ手、肘では己の竹刀を支えきれず、佐那の竹刀の柄頭が佐那の腹を突いた。
兵庫が太刀筋の正確さを求めるなかで飛ぶ蝶を突き会得した突き技で、相手の技量を確かめる時にしばしば使う様子見の技だった。
佐那の顔に苦痛の表情が現れたのを見て
「それまで」
定吉の声が飛んだ。

 二人は互いに頭を下げ、定吉の前に戻り座った。
「佐那もここではかなりの腕なのだが、鐘巻殿にはとうてい歯が立たなかったようだな」
「はい、全くだめでした。鐘巻様はお一人ですか」
若すぎる佐那の唐突な問いに兵庫は面を喰らった。
「いや、先年妻を娶りました」
「佐那、出会うのが遅かったようだな」
定吉が笑っていた。
「はい、毎日探しているのにこの道場にはやってきません」
兵庫は笑いを堪え、
「それでは二十三日、四つにお伺い致します」
「お待ちしております」

Posted on 2012/03/01 Thu. 05:21 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学