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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十九話 親善試合(その10)】 

 行き先は健次郎が住む元町名主・吉衛門の家で、そこまでのおよその距離を測るため、四人は歩数を数えながら歩いていた。
最初に健次郎が止まったのは吾妻橋の西のたもとである。
平九郎がそこで皆の歩数を聞き書きとめ、次は橋の東のたもとで止まり書き留めた。
途中すれ違うのは、朝の早い棒手振り数人で人影はほとんど無い道を東の亀戸へと、要所要所で止まり、歩数を書き込み進んだ。
七つ半頃、四人は吉衛門の屋敷の門に着き、最後の歩数を書き込んだ。
 門は既に開けられとおり、屋敷に入ると四人の話し声や物音が聞こえたのか男が出て来て驚く様子見せた。
「耕作、私だ。健次郎です」
健次郎は提灯の火を己の顔に寄せて見せた。
「健次郎様、何ですかその格好は」
「話すと長く成るのですが鐘巻先生のお指図で朝の鍛錬をしているところです。ここの皆さんも道場の方々です」
耕作は頷いてはみせたが
「なんでここへ」
「朝に三里ほど駆けるのですが浅草の道が不案内ですので道場とここを何度か往復することにしたのです」
耕作、今度は感心したように大きく頷いた。

 離れ前の庭で四人がそれぞれ体の筋を伸ばしていると、離れの雨戸が開き中から明かりが漏れてきた。
「姉上、申し訳ありません。健次郎です」
半纏姿の健次郎を見て
「鐘巻様の仕業ですね」
「そうですが、仕業ではなくこれも稽古です」
薄明かりの中、寝着姿の志津の美しさに三人の目が注がれたのに気がつき、志津は雨戸を閉じた。
暫らくして、東の空に白みが現れ始めると、
「もう灯りなしで駆けても良いだろう」
「そうだな、行くか」
健次郎は提灯の火を吹き消すと駆け始めた。
「健次郎、もう少し速くても良いぞ」
足を速めていくと
「少し緩めてくれ」
四人の調子に合わせ、来た道を駒形まで戻り、提灯を置くとまた亀戸へ掛け、この朝は三往復した。

 道場に戻ると稽古着に着替え空腹のまま、朝稽古が始まった。
四人に疲れが溜まり始めると、兵庫が加わり一人抜けとなり、その者は僅かな間休むことが出来た。
五つの鐘を合図に朝稽古を終わらせると手足を洗い、朝飯となった。
朝は一人当たり一合五勺で炊かれている他、何か魚が付く。
この日はきすで味噌汁はお決まりの浅利であった。
「うまい。朝、こんな旨い飯を食えた覚えがない」
部屋住み組みが頷きながら釜の飯を平らげてしまった。

Posted on 2012/03/06 Tue. 05:17 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学