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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第十九話 親善試合(その12)】 

 板張り道場とは勝手が違う庭道場になんとか顔を見せた佐那子に、自由時間を気ままに過ごしていた四人の視線が一斉に注がれた。
好奇の目に晒されるのは慣れている佐那子だが、恥じらいが無いわけではない。
平静を装い、
「稽古は未だですか?」
「中稽古は四つの鐘が合図です。佐那子殿は風呂場の脇に置いてある縁台を何処かへ運び使って下さい」
佐那子が道場である庭を見渡すと、思い思いに縁台が置かれ、そこには面・籠手・竹刀と派手な衣が置かれ、縁台の下には下駄があった。
納得した佐那子は風呂場と言われた所へ行き、縁台をと思ったが、手は既に、面・籠手・竹刀で塞がっていた。
やむなく、置く場所を探そうと縁側を見たのだが、ふと見上げた二階の物干し場には四人の稽古着の他、下帯などが風に揺れていた。
目を伏せ、縁側まで行き道具を置くと風呂場脇に戻り、何処に縁台を運ぶか迷っていると、防具などを置いた縁側から声がして
「縁側の近くが陰になりいいですよ」
幸だった。

 四つの鐘が鳴り始め、兵庫を交えて、六人の巡り稽古が始まった。
いつものことなのだが、兵庫は悪いところを指摘すると、直す方法を幾つか教えその形が取れるまで面・籠手・胴を打ち続けるのだ。
慣れてしまったことを直すのは難しく、かえって弱くなることもあるのだが、形が直れば、兵庫は打つことを止め、他の悪さを指摘していった。
稽古は兵庫の声で始まり、声で終わり相手を変えていく。
二人が終わり三人目に、兵庫の前には佐那子が立った。
佐那子は幼い頃より竹刀を持ち剣術に馴染んできただけあって、形の上で直すところは無い。
その点においてははるかに、平九郎や健次郎に勝っていた。
しかし若いことと、女であることで力負けするのだ。
その力負けを身の軽さを生かした瞬発力と速さで補うのだが、受けに回ると凌ぐ技がまだ足らなかった。
兵庫は佐那子の攻めを技で凌ぎ受けに回りながら、佐那子に足りない受けの凌ぎ技を教えていた。

 一巡するごとに、湯冷ましの水を飲む程度の、つかの間の休みが与えられたが稽古は直ぐに始まり、巡り巡って四巡が終わった。
兵庫は太陽がほぼ真南に来たのを見て、
「昼飯の支度をしなさい」
この声で、男四人は己の縁台へと行き、防具を外し、草鞋を脱ぐと下駄を履き、手ぬぐいと派手な衣を持って風呂場脇の井戸へ急ぎ、幾つか出してある桶に水を汲み、汚れを洗い、汗を拭いていた。

Posted on 2012/03/08 Thu. 05:20 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学