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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第21話 押しかけ女房(その8)】 

 こうして、一階に兵庫、二階に志津の共同生活が始まった。
次の日、兵庫は志津が住み着いた二階の改装を、この家を買った時、直してくれた花川戸の大工、助蔵に頼んだ。
これまで二階は亡くなった幸が身重であまり使っては居なかった。
ただ、志津が住むとなると東の通り沿いが蔀(しとみ)のため上げても暗く、二階の居心地がよくないことを知っていたからだ。
兵庫から使い勝手の悪さを聞かされた、大工の助蔵は改装部の寸法を測り帰り、二日後に来た時には材料と途中まで出来上がった格子、雨戸、敷居などを用意していた。
蔀を外し、外側から出格子、雨戸、障子の敷居などを付け、その日のうちに帰って行った。
それから数日で障子も入り、二階は朝の光が大きく入り込む明るい部屋に変わった。

 志津が兵庫の家に入ったと言うより、流行(はや)らない町道場に美人が居る噂は裏庭とつながっている満冶店(みつやだな)の住人の口を通してあっというまに広がった。
 それは入門志願となって現れた。
しかし、剣術修行が目的で無いものが多く、速いものでは防具のつけ方を教えただけで終わってしまう者も出る始末だった。
 兵庫は噂が静まるまで、客が来るたびに表に出る志津の代わりに、道場に通うようになった門弟の若林平九郎や兵庫自身が出た。
また、冷やかし入門を避けるために、入門預かり金として、町人百文、武家一朱を、ひと月のうちに五日通えば戻すことにして納めさせた。
入門者については日付、名前、住まいなどを帳面に記載した備忘録を作った。
案の定、二日通うものは稀で、入門者の住まいも日を追って駒形より離れて行くのだ。
そして、八月も十日となって桶町の千葉定吉の娘佐那子が噂を聞いたのか供を連れやってきた。
応対に出た平九郎が
「佐那子殿ではありませんか。御用の趣は」
「その様なこと。決まっています」
言うが早いか、草履(ぞうり)を脱ぎ上ると奥へ入って行ってしまった。
奥の座敷まで入り、線香の香りに見ると小さな仏壇に位牌が置かれていた。
‘地天幸妙真如’
威勢よかった佐那子だったが、兵庫の妻、幸が亡くなったことに気づき、神妙になり手を合わせ線香をあげた。
 庭で足腰の定まらない入門者に丁寧に教えている兵庫の背中をほんの暫らく見ていた佐那子は立ち上がり表へ戻って行った。
「御用が済みましたか」
平九郎の言葉に耳を貸さずに、二階へと上がっていった。
呆れて見送る平九郎に土間で待たされていた佐那子の従者が代わりに頭を下げた。

Posted on 2012/03/30 Fri. 05:19 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学