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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第24話 本所狸狩り(その1)】 

 嘉永四年の神無月もあと数日で終わろうとする二十七日、駒形の鐘巻兵庫の家に南町奉行遠山左衛門尉から使いがやって来た。
この家に初めてやって来た者は、先ず応対に出る志津の美しさに驚かされる。
この使いの小者も年甲斐も無く顔を赤らめ、しばし用事を切り出せなかった。
「・・私、惣五郎と申し、主、遠山左衛門尉様の使いで参りました」
「お奉行様のお使いですか。どうぞお上がり下さい。旦那様を呼びますので」
「いいえ、用は直ぐに済みますので、ここで結構で御座います」
奉行からの使いと聞いて、道場である裏庭で汗を流していた兵庫は、稽古着姿のまま、表の部屋にやってきて、使いの惣五郎が立つ土間の前の板敷きに座った。
「鐘巻兵庫で御座います。お奉行様からのお使いと聞きましたが・・」
「はい、鐘巻様には明二十八日八つ過ぎに奉行所役宅までお越し願いたいとのことで御座います」
「承(うけたまわ)りました。お役目ご苦労様でした」
兵庫は惣五郎に僅かではあるが鳥目(ちょうもく)を渡し帰した。

 庭に戻り再び鍛錬棒を振り始めた兵庫に、奥座敷の障子を開け縁側まで出てきた志津が話しかけた。
「また、旦那様に裏の仕事をさせるおつもりでしょうか」
鍛錬棒を振る手を休めた兵庫が
「世の中には人の作った法だけでは裁けないことが多いようですね。受けるか否かは話を聞いてから決めます」
「でも、お心はお受けするつもりなのでしょ」
「はい。これ以上細かな法を作られても迷惑ですからね。それと・・・」
「それと・・、何ですか?」
「以前、遠山様の仕事を受けなかったら、私はここに居ませんでしたよ」
それは志津への微妙な問いかけであった。
志津は暫らく思いをめぐらしていたが
「母や弟が国に帰れたのも、私がここに居られるのも遠山様とのご縁なのですね」
兵庫は頷くと、それ以上、返事をすることも無く重い鍛錬棒をまた振り始めた。

 翌日八つ、兵庫が南町奉行所に出向き奥にある奉行役宅の部屋で控えていると、金四郎が機嫌のよさそうな顔で部屋に現れた。
「待たせて、すまぬ」
奉行が座るのを待って頭を上げた兵庫に
「聞いたぞ。美しい女性(にょしょう)の話」
「はい、図らずもその様な仕儀に相成りました」
「左様か、互いに心配するものが居らぬと命を粗末にすることになる。それで良い」
「と、申しますと何か物騒なお役目で御座いましょうか」
「それは分からぬが、また死人(しびと)が出そうな気がするので呼んだのだ」
「また・・・気がする・・ですか」

Posted on 2012/04/30 Mon. 05:21 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学