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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第26話 絆(その6)】 

 安すぎる値段に志津が聞き直した。
「た、高い・・ですか。ど、どおりで・・う・売れないわけだ」
勘違いした栄吉は、少しばかりしょげたのだが
「いいえ、安過ぎるのです」
この後、二人の話は長く続くのだが掻い摘んで言うと、栄吉は簪を作るだけで、売ったことがなかったのだ。
それは栄吉が今の長屋に来るまでは、腹違いの兄がやっている小間物屋に住んでいて、その兄に出来た簪を納めていたからだった。
その手間賃が安く、多少手間がかかっても銀代の他、一分以上の手間を支払わなかった。
それでも、多少の手間賃を貰い食わせてもらっていたので良かったのだが、今は満冶店(みつやだな)暮らしとなっていた。
そのような身に置かれていたのは何かがあることなのだが、兵庫と志津はそのうち分るだろうと思い、また尋ねても嬉しい筈も無いと遠慮した。
「それでは、今日は手間代分だけ一本、倍の二分で引き取ります。十本ですから二十分になりますので・・五両をお渡しします。金銀で四両分、残りの一両分は銭六貫五百の両替でいいですか」
「あ、ありがとう・ご・ございます」
栄吉が渡された手間賃を重そうに持って帰るのを台所から送り出した。

 押しかけ女房から正式な妻となった志津が暮れも正月もないように忙しく過ごし、ひと心地ついたと思ったら、志津と栄吉の簪稼業が始まった。
「旦那様、護衛お願いします」
「護衛ですか。簪を持って両替商に目方を量りにでも行くのですか」
「預かった簪は目方で売り買いするような出来の悪い物ではありませんので、目方は量りません。護衛は少しばかり派手になる私のためですよ」
「少しばかりですか。充分目立ちますが」
「今日は旦那様にも目立っていただきます」
志津の言うことがよくわからないでいると、裏庭から声が掛かった。
「あら、また大家の弥兵衛さんですよ」
志津が勝手口を開け、外で凍えている大家を、少しばかり温かい台所に招きいれた。
「驚きましたよ、栄吉が溜まっていた家賃をまとめて払いにやって来ました」
「弥兵衛さんは江戸っ子ですね。もっと、ゆっくりと話を聞いてあげればよかったのですよ」
志津にやんわりと短気を咎められた大家の弥兵衛
「いや、そう言われると面目ありませんな。つい、待ちきれずに・・・」
「折角、来られたので、栄吉さんのことをもう少しお聞きしたいのですが、上がってもらえませんか」
「そうですか、噂話を聞いただけでその真偽のほどは分りませんが、それでよければ・・」
と言いながら、上がってきた。
「旦那様は日の差し込む表の部屋に居ますから、行っていて下さい」

Posted on 2012/06/30 Sat. 04:20 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学