06 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 08

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第28話 春の淡雪(その3)】 

 兵庫の足が早まるにつれ四人の列が長くなり、兵庫、甚八郎、源次郎、富三郎の順で駒形の道場に飛び込んできた。
皆がそろったところで兵庫が
「これから木刀などで、私が帰るまで土間と通り庭を使い、素振りをしていなさい。けっして身体を冷やさぬように」
「先生はどちらへ。また道場破りが来ると困りますので」
源次郎が尋ねた。
「心配するな。御主らの傘と足駄を買って来るだけだ」
兵庫は台所の土間まで行き志津に出かけることを話すと、志津は兵庫の巾着を部屋から持ってきて、
「お米も頼んできて下さい」
先月からは金工細工修業の辰五郎とその師となる栄吉が、今日からは食い盛りの三人の門弟が加わると、七人の三食は一人一日三合としても日に二升一合、ひと月で六斗三升になり、毎月一俵半以上の米が必用なのだ。

 四半刻ほどで買い物と用を済ませた兵庫が笠に雪を乗せ戻ってきた。
「やっているな。だいぶ汗をかいたようだな。御主等の傘と足駄だ」
素振りをやめ、寄って来た三人に、傘と足駄を渡した
「有難う御座います」
「皆同じ物だから、間違えぬよう後で印でも付けなさい」
部屋住みの三人、新しい物を与えられたことなど滅多に無く、暫らく見入っていた。

 雪が本格的に降り始め、外での稽古は出来ず、兵庫は三人に心得を説き始めた。
己の両刀を持ってきて見せた。
「刀の手入れは怠らぬこと」
これには皆頷いた。
「皆も両刀をここに持ってきなさい」
三人が畳部屋の刀掛けから持ってきた両刀を兵庫と同じように己の前に並べて置いた。
「わたしの作法が良いと言う事ではないが、皆と私は下げ緒の扱いが違う。下げ緒は今となっては役に立たない飾り物ですが、皆は刀の下げ緒を何に使う」
「襷(たすき)につかいます」
「人を縛る紐にも使えます」
「私は過去にその両方に使ったことがあります。それでは襷にかけてみなさい」
兵庫は刀を取ると下げ緒の一束結びを解き、抜き取ると一気に襷に掛けて見せた。
兵庫は三人の仕草を見ていた。
「甚八郎、御主は下げ緒を外すのに手間取りすぎる。下げ緒を邪魔者扱いし鞘に巻きつけているからだ」
「源次郎、襷には短かったようだな」
「富三郎、人を縛ると言ったがここに来なさい。他の者は下がるように」
恐る恐る兵庫の前にやってきた富三郎に兵庫は手を伸ばすと、あっという間に組み伏して富三郎の両手を後ろ手に縛り上げ、そして解いてみせた。
膨れっ面を見せる富三郎に兵庫は謝った。

Posted on 2012/07/31 Tue. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学