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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第31話 屋敷替え(その3)】 

 亀井と別れた兵庫が道場に戻ると、川北の午前の講義が終わっていて、昼の膳の用意が表座敷と台所で始まっていた。
道場では川北が来る十日に一度、昼飯に常日頃(つねひごろ)食えないものが出るようになっていた。
この日は、何時もの飯、浅蜊汁、香の物の他にキスや菜の天婦羅とするめいかの塩辛が出た。
 食事が終わり、川北が茶を飲みながら兵庫に
「来る度に旨いものを頂いておりますが、毎日このような物を食されて居られるのですか」
「毎日食しては身が重くなり、財布が軽くなります。先生に来て頂く日を皆楽しみにしております」
「お心遣い申し訳ありませんが、実は私も楽しみにしております」
表座敷で給仕をしていたお道が笑いをこらえ、部屋から出て行った。
「川北先生。私はこれより飯の種を稼ぎに行って参りますので失礼します。午後の講義も宜しくお願いします」
「それはご苦労様です」

 表座敷から奥座敷に移った兵庫は妻の志津に
「平九郎が屋敷替えになり、それで空いた石原新町の屋敷の警護を頼まれました。取り敢えず今晩と明日となりますが何人か助っ人を頼んできます」
「先生。その助っ人、昼から翌朝までですが引き受けます。」
台所で飯を食い終わっていた辰五郎が助っ人を買って出た。
「辰五郎、すまぬな。あと一人頼むから夕方になったら、五人分の夕飯と木刀二本を持って来てくれ。それと・・お琴済まぬが残っている飯を握り飯にしてくれ、二人分だ」
兵庫は着替えることも無く稽古着のまま首に掛けた巾着を懐にいれ二本差し、土間に下り懐に石を二つ入れ、握り飯の入った風呂敷包みを下げると花川戸の大黒屋に向かった。

 例によって出て来た主の道太郎が
「勇ましい姿ですが今度は何でしょうか」
「平九郎殿が出た石原新町の空き家の警護に一人貸して欲しいのです」
「なんで空き家の警護なんで」
「それは旗本の詰まらぬお家事情で、入る者が屋敷の検分・引取りに来ないからです」
「そういう御用でしたら、出払っている太助か浅吉が戻り次第行かせます」
「お願いします」

 人の手当を済ませた兵庫が石原新町の金子の屋敷の表門を叩くと、暫らくして先ほどの亀井が出てきた。
「鐘巻様、申し訳御座いません。お入り下さい」
「後ほど腕っ節の強いのが二人参ります。それと遅くなりましたが、昼の握り飯です。」
風呂敷包みを渡した。
「卯太郎! 飯だ」
亀井の声で未だ前髪の子どもがやってきた。
「鐘巻様だ」
「亀井卯太郎です。宜しくお願いします」
「初陣ですか。腹が減っては力が入りません。先ず食べていて下さい。湯を貰ってきます」

Posted on 2012/09/30 Sun. 04:37 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学