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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第30話 渡世(その9)】 

「大家の弥兵衛さんのお話では、母親はだいぶ前に亡くなったそうで、祖母も先年亡くなられたとのことでした。ですから今は父の新吉さんとの三人暮らしです。新吉さんは元は渡り大工だったようですが、家を空けている間に奥さんの不幸に遭い、それからは病がちのお婆様が居られ、家を空けられず、浅草界隈の手伝い仕事をしたそうです。それが今も・・・」
「そうでしたか。それではここで二人に武家奉公とはいかないまでも作法と手には髪結いなど教えたら如何ですか。十五でしたらまだ間に合うでしょう」
「よろしいのですか。それと女髪結いはご法度ですよ」
「先ほど申したように世の中は変わってきています。取り締まる筈の八丁堀の屋敷にも女髪結いが来ていましたよ」
「お許しいただけるのでしたら、二人にその気があるか後ほど確かめてみます」

 夕方、飯の支度を終え兵庫と志津そして志津に誘われた双子の姉妹お道とお琴の四人が泉州屋に出かけた三人と裏長屋で金工細工をしている二人が来るのを待っていた。
「遅いですね」
「遅いのは、時を忘れるほど熱中した証でしょう」
「そうなら良いのですが」
志津の心配は長く続くこともなく、駆ける下駄の音がして使いに出した甚八郎、富三郎、源次郎の三人が表の大戸へ飛び込んできた。
「先生。只今戻りました」
ばたばたと上がってきた三人の笑顔を見て
「何か、良いことがありましたか」
「はい」
「そうですか。飯を食いながら聞きますので、もう少し楽な格好になってきなさい」
「分かりました。先生、これは厳衛門殿から預かってきたものです」
兵庫が甚八郎から書付を受け取ると、三人は表部屋に消えていった。
「志津、これは健次郎の具足を厳衛門殿にお願いした返事でしょう。見て、亀山へ送って下さい」
志津がそれを読み、
「有難う御座います」と言い、涙ぐむ様子を見せ奥の部屋の文机の上に置きに行った。

 再び外に足音がして、今度は勝手口から辰五郎と栄吉が入ってきた。
「遅れて済みません・・・あれ?三人は」
「今着替えています」
待つことも無く三人は刀を置き袴を脱ぐとやってきた。
 皆が揃ったところで台所の要所に置かれていたローソクにも火が点され、薄暗くなっていた台所を照らし出した。
男達の目が、二人の娘に注がれた。
「今晩から賄いの仕事はお道とお琴に頼むことにしました。その分、修業と思えることに励みなさい。さあ、飯だ」
お道とお琴の給仕で晩飯が始まった。

Posted on 2012/09/11 Tue. 04:56 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学