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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第33話 巣立ち(その7)】 

 暫らくして五人が籠一杯に刻まれた藁を入れ戻ってきた
「先生。これが藁すさです」
「一つ勉強になったな。今度は鋤を借りて土を樽に入れなさい」
こうして土と藁すさを満載した大八が鍛冶場作りの現場へ戻っていった。

 それを待っていたかのように庄助が
「捏ね桶を家の北側に運び取り敢えず樽二つ分入れてくれ。空になった樽に水を汲んで持って来てくれ」
そう言い、綱を二本と天秤棒を辰五郎に渡した。
畳一枚分はある捏ね桶を二人で運び、重い樽の土は大八を押し持って行き、言われたように捏ね桶の中に樽の土を入れた。
空いた樽の脇板には綱を通せる穴が向かい合うように二つ開けられていた。
辰五郎はその穴に綱を通し結び、天秤棒に架け三人に向かって
「担ぎ方の修業したいものついて来こい」
三人が素直について行った。

 四人が戻るまで、兵庫と栄吉は庄助から小舞の編み方の手ほどきを受けた。
暫らくして、騒がしい声を掛け合いながら、水桶を担いだ富三郎等四人が戻ってきた。
「庄助はだいぶ目減りした水を見て、先ず一杯捏ね桶に入れ、捏ねてくれ」
水を捏ね桶に入れるまではしたが戸惑う三人に
「草鞋を脱いで、入って捏ねるの」と足踏みをして見せた。
「庄助さん。金作さんの家の庭には田土の山が幾つもありましたが、左官の土はいつも金作さんのところで仕入れるのですか」
「いや、金作さんとは今回が初めてだ。正月の大火があったでしょう。この先忙しくると思い、土が無くては商売になりませんので、あの時頼んでおいたのです。田植えが終わった今になっては田土を掘れませんからね」
「世の動きを見ているのですね」
「鏝(こて)を使うだけでも左官の手間を稼げますが、急ぎの仕事を貰う時は土を持っていた方が勝てるんですよ。それに手間賃も上がる」

 この日、辰五郎が道場から運んできた昼飯を挟んで皆が新米左官職が歩む土捏ねと小舞を編む仕事を代わる代わるさせられた。
金作の庭に残っていた田土を再度取りに行き、捏ねられた土は莚の敷かれた穴に入れられ寝かされた。
「なんで寝かせるのですか」
壁塗りを早くやってみたかった甚八郎が尋ねた。
「良くは分からねえが藁が腐った方が、土も粘り壁の持ちも仕上がりもいいんだよ」
庄助の応えに三人は頷いてはいたが半分しか合点がいかない様子であった。
「この世の中には人知の及ばぬものが多い。先人の経験が淘汰されながら良いものが言い伝えとして残っているのだろう」
「先生、そう言えば耕作さんのお天気判断も言い伝えなのですね」
「その言い伝えが当たって明日も降りそうも無いな」

Posted on 2012/10/31 Wed. 04:40 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学