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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第38話 十三弦(その12)】 

 兵庫は裏庭に出て風通しが良く、日陰の場所を探して莚を敷き、綯った縄を持ってきて草鞋作りを始めた。
二階からは筝の音が流れては途絶えを繰り返すのが聞こえて来ていた。
草鞋が半足出来たところで、草をむしっていた安達が声をかけてきた。
「鐘巻先生。空地の道場は出来そうもありません」
兵庫はこの投げ掛けで、安達がここにやってきた訳が見え始めた。
「仕方ないでしょう。御城が燃えては大工も木も足らないでしょう」
「そうなんですが・・・」
何か尾を引くような安達の返事であった。
「安達殿は直心影流を修業なされたのではありませんか」
「はい、あの辺りの者は皆、亀沢町の団野道場へ通い修業するのが常ですから」
「それなら、新しい道場を建てることも無いのではありませんか」
「そうなんですが・・・」
やはり尾を引く返事であった。
「団野先生のお体の具合が良くないと聞いておりますが、何方が代わりに稽古をされて居られるのですか」
「このところお見舞いに出かけるだけで分りませんが、男谷道場から何方かが来ていると聞いたことがあります」
「そうですか。この月の・・・確か三日、男谷先生がここに参られましたよ」
「男谷先生がわざわざここまで・・・。ご無事で何よりでした」
「無事とは男谷先生のことですね」
「自身がおありなのですね」
「刀が短筒に勝てると思いますか」
「短筒をお持ちですか」
「持っては居ませんが、その類(たぐい)のものは・・・」
「例えば刀を投げるとか」
「ほ~、よくご存知ですね」
「はい、先日団野先生の所にお見舞いがてら参りました折、伺いました」
「そうでしたか。額に出来た瘤(こぶ)の話は出ませんでしたか」
「出ましたが、訳が分からなかったそうです」
「それが、類のものなのです」
「実は、道場を建てる話は城の火事で、木材が値上がりし止まっていましたが、消えた訳ではなかったのです。それが、男谷先生が参られてから取りやめに決まりました。分からぬ瘤に恐ろしさを感じ、発起人に止めさせたのでしょうね」

 瘤とは訳のわからない話だが、これは訳在って兵庫が麻布の男谷道場へ出向き、榊原健吉に申し込まれた木刀試合に竹刀で立ち会った。
この時、兵庫は目釘外しの秘剣に続き、飛び込み印地打ちで使う石で健吉のこめかみを打ち昏倒させたのだ。
この立会いを見ていた者たちに見えたものは兵庫の手を離れ飛び健吉の喉を突いた竹刀だけで、兵庫が右手に握る石がこめかみを打つのは見逃していたのだ。
息を吹き返した健吉の額の大きな瘤がどうして出来たのか分からなかった。

「勝手に瘤に驚かれたようですね」
「勝手にですか」

Posted on 2012/12/31 Mon. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学