12 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 02

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第40話 秘策(その11)】 

 そこには一匹の芝犬を押さえる栄吉と少し離れて二頭の犬が争っていた。
「これだ」
兵庫は栄吉の所まで駆け寄ると
「済まぬが、犬を見せて下さい」
栄吉から柴犬を受け取り
「雌犬だ。あれは雄犬の鞘当だろう」
「先生、とうとう捜しましたね」
源次郎が喜びの声をあげた。
「栄吉さん。この犬は誰の犬ですか」
「の・の・野良ですよ」
「貰っても良いかな」
「か・構いません」
「後で、旨い物を届けさせますよ」

 兵庫は柴犬を逃さぬように抱えて駒形まで戻ってきた。
薄汚れた柴犬を大事そうに抱えている兵庫を見た志津が
「旦那様、それは何ですか」
「志津済まぬ、佐那さんから聞いてくれ」
佐那の所に、居合わせた志津・お道・お琴が集まり、佐那の話を聞き始めた。
一方、源次郎は縄を持ってきて、兵庫が抱える柴犬の首に外れぬように締まらぬように輪をかけた。
「早速だ。河原に行こう」
「はい」
男二人が犬と共に河原へ行くのを、女四人は呆れ顔で見送った。

 半刻経って、兵庫が狆(ちん)を抱え、源次郎が柴犬の縄を持って満面の笑みを浮かべ戻ってきた。
見送る時は呆れ顔だった女たちが、迎える時は驚きと感心が入り交じった様子の顔を見せた。
「どうですか。地天流極意の一端が理に適って居ることが確かめられたでしょう」
「二十両頂くためには、更にもう二端も三端も見せないといけませんね」
「そうですね。先ず、この狆は弱っているし、華奢です。飯を食わせてやって下さい」
「何を?」
「残っている鰯の頭を焙(あぶ)り、骨は叩いて潰し飯に混ぜてやってください」
「そのようなもので良いのですか」
「この道場に居る者は犬も例外では在りません。生きる力と逞しさを身に付けさせてから返します。それが犬千代と呼ばれた武門の誉れ高い藩祖利家公の意に適うものでしょう」
兵庫に小難しいことを言われたが、狆のひ弱さは皆が同じように感じ、お道が犬の飯作りに取り掛かった。
そこへ、千住からさえが、さらに暫らくして八丁堀に朝駆けをし、犬を捜していた甚八郎と富三郎が戻ってきたところで、兵庫は今までの顛末を語って聞かせた。

「先生、狆が餌を食べません」
「贅沢なものを食べさせていたからでしょう。ここで人様以上の物は食べさせては元がとれなくなりますから・・・その餌を狆が見ている前で柴犬に少し与えなさい。餌だと教えるのです」
源次郎が外に繋がれていた野育ちの柴犬が連れてくるのを見た狆が何故か元気を出し始めた。
「こいつは飯より、女だ」
「甚八郎殿、もう少し品良くしなさい」
志津に咎められ頭を掻く甚八郎の姿に皆の笑いが起こった。

Posted on 2013/01/31 Thu. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学