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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第39話 七夕心中(その4)】 

 その怒りが兵庫を更に大川沿いを遡(さかのぼ)らせ、浅草今戸町へと向わせた。
駒形の町と大差ない町並みの中に暖簾を出さず間口四間一杯開いている家があった。
ゆっくりと歩き覗き見ると、板の間には、どう見ても全うでない男が屯(たむろ)していた。
ここだなと思いながら通り過ごし、二・三軒行くと後ろから野卑な男の声が聞こえてきた。
振り返ると、三人が出てきて川沿いを兵庫がやって来た川下の花川戸・駒形方面へ歩いていく後ろ姿が見えた。
兵庫は己を今戸に導いた怒りが、三人が何をするのか見てみたいと思う興味に変質し、やくざ者を追うように引き返していった。

 その三人は花川戸には目もくれず、行き先が決まっているかのように歩き、駒形町は駒形堂の北の一角の店に入った。
「いらっしゃ・・・」
店に入ってきた者を客として迎えた主の声が先細り消えた。
「何をお探しでしょうか?」
「わし等は客じゃねぇ」
「それでは、何の用でしょうか」
「ここいらを仕切ることになった。その仕切り賃として間口一間当たり月に一朱貰うことになった。ここは二間だから二朱出して貰おうか」
威勢のいい、見知らぬ男三人に迫られ弱っている主人だったが、三人に少し遅れて店に入ってきた兵庫の姿を見て気を強くしたようだった。
「この辺りは、その様なものは出さなくても良い所になっているのですが、どちら様ですか」
「今まではそうかも知れねえが、今からは今戸の三次の旦那が仕切る。わしらも忙しいのだ早く出してくれ」
「今戸の三次さんですか。聞いたことのない名ですね。そのようなお方にはお出し出来ません」
「おい、主人の言う通りだ。ここでは一文たりとも訳の分からない金は払わぬことになっている」
突然後ろからかけられた声に三人は振り向き、兵庫の様子を見た。
「おさむれぇ、町人の話に関わり合わねぇでくだせぇ」
「いや、この辺りの仕切りは私が任されている。嘘だと思ったら新門に聞いてきなさい」
「そんなことはどうでもいい。ここは今日から今戸の三次旦那の仕切りだ。サンピンは引っ込んでろ」
威勢の良い啖呵と同時に、三人の矛先は兵庫に向けられ詰め寄ってきた。
「私、鐘巻兵庫がここの仕切り人だ。三下では話にならぬ。なるほど三下の上は三次か。その三次とやらを連れて来なさい」
兵庫は店の中で騒ぎを起こし、余計な迷惑を掛けないように、三人が迫るのに合わせ後ずさりし表に出た。
兵庫にいい様に言われた三人が目配せをして、ほぼ同時に兵庫に殴りかかってきた。
三人の最初の一撃が急所に当たらないように当てさせた兵庫は、お返しに正面の男の金的を蹴り上げ、両側二人の襟首に手を伸ばし掴むと
「やっと手を出してくれましたね」
と言いながら、腕力で二人を次々に引き寄せ各々の顔面に頭突きを食らわせると、鼻を潰された二人の力が抜け、兵庫が手を放すと地べたに崩れ落ちた。
「よいか、駒形に来て二度と悪さをするな」
兵庫に追い立てられた三人は締まらない格好で、捨て台詞(せりふ)も残さず駒形から逃げ去っていった。

Posted on 2013/01/08 Tue. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学