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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第42話 用心棒(その3)】 

 大雨、川止めで荷が滞って忙しいのだろう、用件を済ませると道太郎は帰って行った。
茶を出しにきた妻のお志津が呆れる早さだった。
「御用は何でしたか」
「明日、七つ(午前四時ごろ)立ちで十三里ほど北の栗橋まで出かけます。戻るのは次の日の夕方になると思います」
「お手伝いですか」
「用心棒です」
「旅支度の他、何かすることがありますか」
「いや、何も起こらないでしょうから」

 翌朝は軽い朝飯を台所で食べた兵庫は二階に上がり手甲脚絆をつけ着慣らした袴を穿き、麻の羽織の旅姿になった。
「旦那様。これを」とお志津が小判で一両と細かいものを渡した。
一階に下りると草鞋を履き、笠の紐を結ぶと土間に置かれていた石を二つ懐に納めた。
未明の旅立ちを聞いてやって来ていた、お道が塩むすびを包んだ弁当、お琴が水の入った瓢箪(ひょうたん)を持って来た。
「明日には戻ります」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
お志津から提灯を渡された兵庫は大戸のくぐり戸から未だ明けていない外へ出て行った。

 兵庫が駒形に近い花川戸の大黒屋に着いたのは約束の七つの鐘が鳴る前だった。
「鐘巻様。上がって茶でも飲んでいて下さい。荷を取りに日本橋の野州屋まで行った者が未だ戻って来ないのです」
「道太郎殿、野州屋の長持ちとなると中身は高価な物でしょうね」
「はい、今回は跡取りの噂がある惣吉さんが付いて行くそうですから、気張った物が入っているのでしょう」
「その気張った物を買う栗橋のお大尽は何方ですか」
「いや客は宇都宮のお武家様のようです。手前どもは利根川の手前の栗橋の問屋場まで運び、関所より先は問屋場の人足を使うことになっています」
二人が話していると七つの鐘の捨て鐘が打ち鳴らされた。
「遅いな。亥之吉、野州屋さんまで様子を見に行ってきてくれ」
「へい」
返事一つを残し、亥之吉が店を飛び出していった。

 四半刻ほど経って戻ってきた亥之吉の口上(こうじょう)は、納める物に何か不都合が見付かり直しているとのことだった。
「これは出るのが遅れますね」
「荷を着ける約束は今日中ですか」
「はい。次の日一番で利根川を舟で渡る運びになっているそうです」
「無理して歩くことになりそうですが、荷を担ぐのは誰ですか」
「先生の所で読み書きを習った梅吉、栄作、乙次郎の三人です」
「足の方の心配はなさそうですが、途中休めないかもしれません。道場に戻って皆さんの塩むすびを作って戻りますので水を用意しておいて下さい」
 こうして駒形に戻った兵庫がその日の一日分として炊いた飯で握り飯を作らせ、花川戸に戻ったのだが、肝心の荷が届いたのは予定より一刻以上遅れた朝六つ半(七時ごろ)を過ぎたころだった。

Posted on 2013/02/28 Thu. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学