03 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 05

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第45話 堪忍紐(その13)】 

 足を拭き、板の間に上がった兵庫は袂(たもと)に入れておいた堪忍紐を取り出すと、濡れた着物を脱ぎ、床に広げた。
そこに刀を置きに行った志津が戻ってきた。
「だいぶ汚してしまいました」
雨の濡れとは明らかに違う泥はねが広げられた夏着の裾に付いていた。
「後ほど、お風呂で洗っておきます」
「それと、これは船頭を斬った者が残した堪忍紐です。明日八丁堀へ持参しますので干しておいてください」
「堪忍紐、聞いたことが御座いませんが」
志津は結び目を解かずに切られている紙縒りを受け取り、見ていた。
「私もです。大和屋の喜平殿に教えられたのですが、鍔と栗型を結び、刀を抜けなくする紐です」
「船頭を殺めたのは、まだ子どもでしたか」
紙縒りの意味を知った志津だったが、堪忍紐など使う者を我慢が出来ない子どもと思ったようだ。
「志津、私も怒りを堪え切れずに、二人も斬ったことがありました」
「本所の新辻橋のお話ですね。亀戸の吉衛門様からは義憤によるもので、お咎めも無かったと伺っております」
兵庫は志津の話に応えることは無かったが、二人の浪人を死に追いやることは無かったと思っていた。
兵庫の顔が曇ったのを感じ取った志津、
「さあさあ、お風呂に入って下さい。後がつかえていますからね」
兵庫もまた、志津の気遣いを感じ、笑みを戻すと半裸の姿を風呂場へと運んで行った。

 翌九日、雨は激しく降っていた。
「やはり、お出かけになるのですか」
蚊帳を抜け出した志津が問いかけた。
「はい、」
布団の中で目覚めていた兵庫、短く応えると起き上がった。
「堪忍紐は紙に挟んで仏壇に乗せて在ります」
「分かりました」

 嵐が来ることを懸念してか、やはり弟子たちはやってこなかった。
兵庫は朝飯が出来上がるまで、土間に下り、干してある己の洗濯物を避け一人稽古に励んでいだ。

 半刻ほどが経ち、いつもより早く朝飯を食べた兵庫は奉行所に出仕前の兄に会うため八丁堀へ出かけて行った。
 朝の食事を終え、一服していた兄、与力の兵馬の部屋に父・多門と共に入っていった。
「兄上、朝っぱらか押しかけ、済みません」
「何か、掴んだようだな」
「はい」
「聞かせてもらおうか」
「昨晩、金杉橋の芝浜屋に赴き、仙太郎が斬られるのを見た松吉に会い話を聞きました。奉行所で調べた内容と変らぬものでした。次に舟を調べたらこの様な物が落ちていました」
兵庫は大事に紙に挟んできた紙縒りを見せた。
「これは?」
「不確かなため、日本橋の刀屋大和屋に行き主人・喜平に尋ねたところ、薩摩拵えの鍔と栗形を結ぶ、堪忍紐だと教えられました」

Posted on 2013/04/30 Tue. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学