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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第46話 前兆(その22)】 

 月が代わって九月の一日、朝駆けから兵庫が駒形に戻ってくると、普段見慣れぬ荒げた様子の男が店近くの大川端に屯(たむろ)していた。
兵庫が大戸をくぐると、お糸が待っていた。
「先生。腕前判定を願う方々が大勢、参られましたので、外でお待ちいただいております」
「あの方々がそうでしたか。それにしても何で急に・・・看板を出しますので、支度をお願いします」
 兵庫が店の出格子に“剣術腕前判定所”の看板を掛けると、それを待っていたかのように男たちが動き出し店の中に入ってきた。
その異様さに兵庫が改めて、
「御用は何でしょうか」と尋ねた。
「今、出した看板、百文の客ですよ」
「皆さんそうですか」
「此処で札を貰って、水戸様へ行かねばならん。早くして貰いたい」
「それで、此処へ来たのは何方から言われたのですか」
「なんでぇ、知らねぇのか。水戸様から足軽・中間を雇う話が、この界隈の口入屋に出されているんだ。ただ、ここで腕前の札を貰って行かねぇと駄目なんだ」
「分かりました。暫らくここでお待ち下さい。支度を致します。お糸さん、帳場の方、頼みます」

 兵庫が奥に消えると座っていたお糸が立ち上がった。
「それでは、判定願い札を百文と引き換えにお渡ししますので、札を持たれて方は奥へ進み裏に出て先生に従って下さい」
しかし、店に入ってくる者が増え、あっという間に作ってあった十枚の判定願い札がなくなった。
「済みません。判定は三本で直ぐに決まりますので、札が戻るまでお待ち下さい」

 一方裏では、兵庫が集まった者へ
「防具は三組用意してあります。竹刀は好きな物選んで下さい。判定は私が三回打った時点で終わります。その間何度でも私を打っても構いません。判定を書いた札はあそこの縁側で受け取り、防具を外しお帰り下さい」
来た者の多くは侍崩れの足軽経験者で、それなりの剣術修業を積んできた者たちだった。
だが、兵庫との腕の差は明白で、ゆっくり十も数えるうちに一本打たれ、三本打たれるまで時を要すことはなかった。
判定立会いが終わる度に兵庫から“初”、“中”、“上”、“段”の何れかの声が飛び、志津が用意されていた竹札を選び、裏に日付を書き加え渡した。
しかし、こんなに多数の腕自慢が一度に来るとは思っておらず、用意されていた判定の書かれた竹札が尽きるのが見えてきた。
「お道、紙を竹幅の倍で切って下さい。竹札代わりに使います」
台所仕事をしていたお道が加わり、判定現場は忙しさを増していった。

Posted on 2013/05/31 Fri. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学