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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第50話 小春日和(その22)】 

 兵庫が大黒屋に行き、訳をいい道太郎に吉衛門迎えの船と、助っ人の二人を夕七つに舟で寄越すように頼んでいると、隠居の又五郎が渋い顔を見せた。
「鐘巻様。こそこそ話をしないで奥で私にも聞かせてくださいよ」
「ご隠居、申し訳ありません。これから腕の立つ者に助っ人を頼みに行かねばなりません。話でしたら、道場まで御足労いただき、志津から聞いて下さい」
「そうします。そうします」
現金なもので、志津の名が出ると渋い顔が緩み奥に消えてしまった。

 それから凡そ四半刻が経ったころ、兵庫は浅草平右衛門町の船宿・浮橋に居た。
「鐘巻さんの知り合いの家に押し込みに入るとは、よくよく運のない浪人ですね」
「その運の無い分、弟子の三人に運をあげたいのです」
「要するに、用が済んだら帰れば良いのですね」
「すまん。今回は一文にもなりませんが、頼みます。用心のため防具を用意してください」
「分かりました。七つに亀戸へ伺います」

 頼みごとを済ませた兵庫が、亀戸の吉衛門の家に入ったのは八つを少し回った頃だった。
既に吉衛門夫妻は駒形に向かって出た後で、留守番として一人残された甚八郎が手持ち無沙汰の様子でいた。
「先生。これから何をすればよいのでしょうか」
「それを考える前に甚八郎、夜中に老夫婦の家に押し込む身になって家の周りを外から見て入り込む場所を探して下さい」
「それは考えるまでも無いでしょう。破れた生垣からも入れますが、門とは呼べない表の木戸でしょう。朝駆けで開いてない時何度も開けて入りました」

 吉衛門は元町名主で名字帯刀も許されていた。その頃は、それなりの門が在ったが、町名主を返上してからは門を取り払い、申し訳程度の木戸になっていた。

「私も甚八郎と同じだが、他に入るところがあると守りを分散せねばならなくなる。
入れそうな生垣の破れがあれば、なんとか塞がねばならないのです」
「それは大変です。入れないところを探したほうが楽なくらいです」
「分かりました。それでは耕作さんを呼んできて下さい」
待つことも無く耕作がやってきた。
「何でございましょうか」
「耕作さん。賊が門から入って来るように、生垣の破れた辺りに糞尿を撒いて下さい」
「それは妙案です。早速、肥を汲んできます」
兵庫の妙案を聞き、甚八郎は先ず感心し、そして呆れた。
その甚八郎を兵庫が見て笑った。
「甚八郎。門から入った賊は何処から家に入るか、考えよう」
「また、入るところを制限するのですね」
「そうだが、賊が賊ではないなどと、言い訳できぬように、どこか戸を開けてもらわねばならないのです」

Posted on 2013/07/31 Wed. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学