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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第52話 身代わり(その14)】 

 兵庫は受け取った四百両の入った重い風呂敷包みをぶら下げ山倉屋を出て行った。
浅草平右衛門町の富士の湯の暖簾をくぐると、番台に座るおよしが振り返った。
「山中さんは二階に居ますか」
「はい、居られます」
「直ぐ、終わりますので上がらせて貰います」

 兵庫が二階に上がると碁四郎は年寄りと碁を打っていた。
盤側に群がり碁を見ている傍目に兵庫も加わった。
「鐘巻さん。今日は何の用事ですか」
「約束の分け前、四百両ではなく四百文持ってきました」
そういうと兵庫は風呂敷包みを持ち上げて見せた。
「あっ 随分と重そうな四百文ですね。もしかして四百両ではありませんか」
普段いたって生真面目な碁四郎の言葉に皆が風呂敷包みを見上げた。
「まさか、この私の顔で小判は似合わないでしょう。銭一貫文と少しです」
「ちがいねぇ」
碁四郎が頭の上に両手を上げると、風呂敷包みが乗せられた。
「碁四郎はそれを膝の上に置き、鐘巻さん暫らく待って下さい。終わらせます」
暫らくして
「先生。ここ死んでしまいましたか」
「はい。こちらも危篤状態のようです」
「あ~あ その銭が膝に乗ってからあっという間にこの有様だ」
「済みませんね。疫病神を連れ出しますので」
「そうして下さい」
負けた年寄りが兵庫を恨めしそうに見た。

 富士の湯を出た兵庫と碁四郎は船宿浮橋に向かって歩き出した。
「今朝、水戸屋敷の用人に話をしてきたら、動きがあり向島の廃屋に埋められた骸が掘り起こされ、寺に運ばれたそうです。寺には身内も呼ばれたようだと山倉屋が申していました」
「身内でしたか。逃げた額賀某は捕まったのですか」
「はっきりして居ませんが、禁足させられた者が何人か居るようです」
「水戸の先代、斉昭公がまだ口を出しているそうですから、厳しい沙汰がまっていることでしょう」
「もし額賀が居れば、腹を切り損ねたことを後悔しているでしょうね」

 二人がのんびりと歩いていると上から声が掛かった。
「碁四郎さん。昨日はご馳走様」
「お駒さん、お吉さん、お浜さん、すずめさん・・・昨晩の礼でしたら、こちらの鐘巻殿に言って下さい」
「まだ信じられない。あんな御綺麗な奥様の旦那様なんて」
「私も未だに信じられません」
兵庫が応え、起こった笑いが兵庫と碁四郎の上を流れていった。

Posted on 2013/08/31 Sat. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学