08 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 10

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第53話 遺志(その28)】 

 兵庫が再び伝馬町の牢屋敷から呼び出され奉行所の白洲に座ったのは十二月二十四日の朝四つ(十時ごろ)だった。
「鐘巻兵庫、お主が申したこと一々調べてみた。みな理に適っていたそうだ。お主に掛けられていた嫌疑はその後の調べで全て晴れた。これまでの神妙なる振る舞い誉めて取らす」
「恐れ入ります」
「それにしても苦労を掛けたな。預かっていた脇差返す、砥ぎに出すがよい」
「ありがとう御座います」
「ところで、お主を傷つけた相手の刀だが、お主が目付方に申した通り過ぎたる物であった。目利きは出来ぬそうだが一振りして分かったそうだな」
「あの刀、恐らくはいくつかの胴を断ち切る技物でしょうが、私には真剣勝負で使うことは出来ません。神戸殿にも使いこなせぬものであったようです。お蔭で私は助かりました」
「そうか、三つ胴切りは勝負には不向きか」
「はい、私には・・・」
その時、吟味与力の後ろの襖が開き、立派な武家が顔を見せ、皆が平伏した。
奉行の池田播磨守だった。
「鐘巻兵庫、此度の事件では斬られたにもかかわらず、よく忍従してくれた。お蔭で旗本と御家人の間で騒動が起きずに済んだ、礼を申す」
「勿体ないお言葉、痛み入ります」
「それにしても、三つ胴切りで、薄皮と障子の桟、三本とは・・」
そう言い、奉行は若く無骨な兵庫の様子を確かめると引き下がっていった。

 兵庫が奉行所の門を出て行くと浅草の町の者が待って居た。
皆さん、色々とお世話になりました。ありがとう御座いました。

帰る途中、日本橋近くまでくると兵庫は皆に改めて頭をさげた。
「これから、迷惑を掛けた兄上に詫びてきますので、私はここで失礼します」

 この事件で兵庫の兄、奉行所与力の鐘巻兵馬は出仕を控えていたのだ。
「兄上、ご迷惑を掛け申し訳御座いませんでした」
「詫びるには及ばん。時が掛かったが、お前が解き放たれることは分かって居った」
「そうでしたか。それにしてもお役目に差し障りが出たことをお詫び申し上げます」
「そう思うのであったら、今年も餅を一斗たのむ」
「お安い御用です。こちらに参る用が出来ましたのでお願いですが、一分お貸し下さい」
「一分?、土産でも買って帰るのか」
「いいえ、牢屋敷の名主と賭けをしまして、負けたので、その支払いです」
「揚屋の十郎兵衛、相変わらず負けない賭けを楽しんでいるのか」
「そのようですが、一分渡せる私も嬉しいです」

Posted on 2013/09/30 Mon. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学