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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第54話 初夢(その27)】 

 旅籠の朝は早い。
その音が夜明け前から聞こえ始め、泊り客の声や足音も交じる頃に、兵庫らも布団から抜け出した。
布団を片付けた四人が、兵庫たちの居る一番広い部屋に集まった。
「私と碁四郎さんは、夜までこれと云った用を決めていませんが、さぶさんと為吉さんは・・・」
「仲間とのつなぎと例の墓さがしですが」
「もう一つ、お願いしたいことがあります」
「何でしょうか」
「春駒座の皆さんが、今晩、この宿に来られないような段取りを決め、泊り客が途絶える頃に戻り、ここの旅籠に伝えて貰いたいのです」
「分かりました。仲間と話合い決めてきます」

 廊下に足音がして、障子の外から
「お客様」と様子を伺う声がかかった。
「みな起きている。入(へー)りな」
障子が開けられ、昨晩、為吉の相方に成る筈だった飯盛り女が顔を見せた。
「こらっ、何で来なかったのだ」
「ごめんよ。無理やり荒くれの相手をさせられたんだよ」
「そう言えば、昨晩、喧嘩でもしたのか目を血走らせた若い者が何人か居たな」
「そいつらだよ。お前も成仏させてやるからなって、口ほどでもなかったけれどね」
「それは大変だったな。ところで、手ぶらだが何か用かい」
「あっ、それ。朝、食べ終わったら旦那さんがご挨拶にまいります」
「それで、その朝飯はいつになったら出てくるんだい」
「泊り客を追い出したら、居続けの皆さんには雑煮が出るよ」
「そうかい、楽しみに待っているよ。旦那ではなく雑煮の方をな」
「そりゃそうだ」

 夜が明け、四半刻も経つと大方の泊り客が旅立ったのであろうか、旅籠内から聞こえてくる音がめっきり小さくなった。
その分、部屋に近づいてくる足音が分かった。
火の気のない寒い部屋で、思い思いに体を動かし体を温めていた男たちの動きが止まった。
「やっと食えるぞ」
待ちきれない様子で、為吉が障子を開けた。
急に障子を開けられ、びっくりした女が折敷膳を持って立っていた。
「早く、食わせてくれ。俺は腹が空くと怒りっぽくなるのだ」
「怒ってお腹が膨れるのかい」
「ますます、腹が空き、怒る気力もなくなる」
「じゃ、そこをどいておくれ。入れないよ」
 四人の膳が四人の飯盛り女により運び込まれた。
大きめの椀に餅が二つ、だし汁の中に蒲鉾と伴に沈んでいた。
他に正月の昆布巻き、つくだ煮などが少々だが皿に乗っていた。
その膳も、腹を空かせた四人の腹に納まり、物足りない様子を見せていると、廊下に足音がして先ほどの女がやってきた。
その内の一人が皿に醤油を付けた焼餅乗せ持ってきた。
「お客様。まだ入るでしょう。如何ですか」と云い、男の前に差し出すと手が伸び、餅が無くなって行った。

Posted on 2013/10/31 Thu. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学