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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第55話 雪解け(その17)】 

 兵庫がいくら事情を説明しても、兵庫を見る正三の目から疑いの眼差しは消えなかった。
そこに勝手口が開き、定廻り同心の久坂と岡っ引きの勇三がやってきた。
「久坂さん、勇三さん。明けましておめでとうございます」
「おめでとう。山中さんも稽古に来ていたのかい」
「おめでとうございます」
「ところで鐘巻さん。正月早々やくざ者が大勢やって来たそうだが、どのようなもめ事を起こしたのだ」
「何も、もめ事など起こしていませんよ」
「馬鹿言うな。だんびら差したやくざ者が来た話は何人もが見て、自身番に御注進されているのだぞ」
「確かに、来ましたがもめ事ではありません。言いづらいのですが礼を言いに来られたのです」
「お主、やくざ者に礼を言われるようなことをしでかしたのか」
「久坂さん。私は山中さんと越ヶ谷に行き、人を殺めたやくざ者を代官所の手助けし捕えただけです」
「やくざ者を捕えたら、やくざ者が礼に来るのか」
「それは、商売敵が居なくなり、縄張を取り戻せたやくざ者が礼に来ただけです」
「それにしても、わざわざ越ヶ谷くんだりまで何故行ったのだ。まさか代官所に頼まれたわけではないだろう。それと子供が増えているな」
「そこから話すと長くなりそうなので、中に入りませんか。寒いですから」

 家の中に入った兵庫は暮れに新門の三郎が千夏と小夜の娘二人を連れて来たところから話し始め、元日に越ヶ谷に行き、二日の晩に代官所の手代として働き熊蔵を捕え、その夜家に戻る途中山谷堀で、子供六人と出会い、具合の悪い子が居たので家まで連れて来たことを、久坂の問いに応えながら、事細かに話して聞かせた。

「なるほど、義理がてえやくざ者が礼に来た訳は分かった。それで、幾ら置いていった」
「久坂さん。やくざ者が家に入っただけで、町の者が騒ぎます。金を貰ったらどの様な陰口を聞かされるかは私でも分かります。ですから一文も頂いていません」
「偉い、わしは信じるが、世間様は疑り深い。ろくでもない噂が立つのは覚悟しておきな」
「はい、これまでも色々と噂は立ちましたが、それは七十五日で納まります」
「しかし、やくざ者が礼を置かずに、素直に帰ったとは思っては居ねぇぞ」
「二・三日たてば分かることですから、お話します。裏庭に子供たちに生きる術を学ばせる家を建てることにしました。その材木を千住の鉄五郎さん、瓦を新門、草加の十兵衛さんと越ヶ谷の勝五郎さんには汗を流してもらうことにし、大工等の手間賃は私の方で持つことにしました」
「なるほど、良い落としどころだ。裏庭もこれまでの稽古で固まっただろうから、良い道場が建つだろう。邪魔したな」
「お世話お掛けしました」

Posted on 2013/11/30 Sat. 04:30 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学