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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第56話 面影(その24)】 

「房松さん、あれ? 居ない」
明かりが入る腰高障子の方を空け、四人が紙を広げ話し合っていた。
「何ですかい。挨拶もなく入って来るとは、それでも侍かい」
四人の目が兵庫と碁四郎をにらみつけた。
「済みません。ここは房松さんの家では在りませんか」
「旦那方、間違いだよ。房松は隣ですが出て行きましたよ」
「そうでしたか、どちらへ行ったか聞いていませんか」
「それは、大家にでも聞いてください。開けっぱなしだと寒いんで早く閉めて下さいな」
「どうも済みませんでした」
 相手の面構えを覚えた兵庫は外に出て戸を閉めた。
そして、隣の家の戸を開け、中を覗くと、がらんとした板の間が広がっていた。
「暮れに居なくなるとは夜逃げでもしたのかな」
「いや、子作りするには隣の耳が気になったのではないかな」
「そうに違いない。そうだとすると大家としては次に入れるのは、ごつい男だな」
「はっはっはっはっは~」
二人はわざと大声を出し引き上げていった。

 大家の家に戻った兵庫と碁四郎、
「卯太郎殿、もし、友三たちが来て私のことを聞かれたら、房松さんに借りた金を返しに来たことにしてください。そして房松さんがどこに引っ越したか聞いて帰ったと言って下さい」
「分かりました」
「それにしても、旦那方。思い切ったことをなさいますね」
「勘助さん、面白いものを見ることが出来ました」
「何ですか」
「帰り道で話します」
「それじゃ、先生。私と仙吉はここに残り、ここで暮らす支度をしますんで」
「常吉さん腕を振るうのは最後の日ですからね、それまでは堪えて下さいよ。」
「大工手伝のお蔭で、結構辛抱強く成りました。新吉様様です」
「帰りますが、何か生じるかもしれませんので、出来るだけ晩飯時に来てください」

「それじゃ卯太郎さんこれで引き上げますが。御上の御用です。気づかれねぇよう、お願いしますよ」
勘助の言葉に、形ばかりの会釈を返した。

 金杉下町の裏店を出て、暫く歩き、乙次郎と益次郎が下谷坂本裏町で消えた。
そこで、勘助が寄って来た。
「鐘巻の旦那。友三の所で面白いものを見たって言ってましたが何ですかい」
「面白いと言うか、気になったことですが、あの四人が頭を突き合わせて、どこかの間取り図を広げて見て居ました。気になりませんか」
「これはどうも。あっしも、あの中に見覚えのある男が居たんで気になっていたんですよ。間取り図を見ていたとすると押し込みでもやろうとしているのかもしれませんね。久坂の旦那に伝えておきます」
「取り越し苦労かもしれませんが、押し込みだとすると久坂さんのお役範囲の外でして、金杉に戻って来る手筈かもしれませんね」
「へい、盗人は町方の御用区分をまたいでやるもんです。鐘巻様の取り越し苦労も伝えておきます」

Posted on 2014/01/31 Fri. 04:02 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学