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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第58話 密命の果て(その50)】 

 襲撃は兵庫等が家を出、隣の乾物屋を過ぎた所で起きた。
逃げ戻った益次郎が、戸を開けるや否や「出た~」と大声を上げ入ると戸を閉めた。
その声が勝手口を出ようとしていた若侍に届き、先を行く奥村らを呼び戻した。
帳場に戻って来た奥村らが見たものは血刀を下げた兵庫と碁四郎だった。
「終わりました。役人が来るまで仏に人を寄せ付けないようにして下さい。来られたら私闘があり相討ちだったと言って下さい」
「分かった」
といい、奥村、桜田が飛び出すと、その後に続いて出た者がみた光景は、水たまりを朱に染め倒れている二人の武士の姿だった。

 事件がどこかで起こることを予知していた定廻り同心の久坂は人を頼み兵庫が家を出る所から見張っていて、兵庫の動きに合わせ、待機する自身番を駒形町、諏訪町・・と移動していくつもりだったが、駒形で事件が起き呼び出された。

 吹く風が雨を巻き上げる川沿いの道を通る者は少なく、店の者も戸を閉めきっており事件に気が付かずにいた。
そんな中、久坂が岡っ引きの勇三と手勢を連れやって来ると、侍たちの囲いが開いた。
久坂は簡単に検分すると、周りに居る侍に、
「何方か見たお方は居ませんか」
「二人は何やら話し合っていたが、互いに抜くと一瞬だった。相討ちだったよ」
「相討ちか。勇三、刀の血糊が足らねぇ、少し塗っておけ」
遺骸が戸板に乗せられ、蓆(むしろ)を被せられ運ばれていくまで時を要さず、何事もなかった町に戻っていった。

 密命を果たした兵庫が、碁四郎と刀を洗い戻ると、雨に濡れた男たちが帳場で待っていた。
「今日は雨で日が良くありません、益次郎さん奉行所に出掛けるのは明日にしましょう」
「そうさせて下さい」と震えが止まらない益次郎の返事だった。

 今日の用が無くなった益次郎が奥に消えると、
「鐘巻殿、先ほど内藤殿から聞いたのだが、潜んでいた賊二人をどの様に察知したのだ」
「そのことですか。簡単なことです。風が教えてくれたのです」
「先生、もう少し易しくお願いします」
「ここ駒形の川沿いの店は朝日の他に川風が入るのです。特に雨の日に風が吹くと店の奥まで濡らしますので、日除け暖簾が雨の日も御覧頂いたように出しています。その日除け暖簾の影に雨宿りも兼ね賊は潜んでいたのですが、強い風が吹いた時に人型らしきものが現れたのです」
「成る程、今の事は道場では教えぬことだ、勉強させて貰った」
「先生、二人とも一刀で絶命していましたが、此れにも何か在りますか」
「一刀で倒せたのは結果ですが、それは相手が日ごろの力を発揮できなかったからでしょう。その遠因の一つは風雨の中、風下から襲うことに成ったからかもしれません。雨を避けながら潜める申し分のない所ですが、川沿いの店は風下になるがゆえに日除け暖簾を風除け暖簾としても使っているのです。そのことを知る私の方に地の利が在ったのでしょう」

Posted on 2014/05/31 Sat. 04:02 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学