fc2ブログ

05 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 07

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第59話 芽吹き(その16)】 

 兵庫の長舌を聞かされた三人は戸惑い、仲明が口を開くのを待った。
そして仲明が三人に向い話し始めた。
「話を伺うと、江戸藩邸での裁きがまだ国には届いていないと云うことは、お主ら三人は浪人になって本当に間もない。確かに浪人の匂いがしない。それ自体悪いことではないのだが、浪人の飢えた心を身をもって知ることは時として良いことだ。今晩から寝起きと飯はここでしてもらう。わしも酒を止め飢えることにする」
「あれ、まだ残って居ますよ」と妻の弥生が口を挟み、座を和らげた。
「そうか、すてる無駄はいかんので、百薬の長程度に控えよう」
「確かに、四か月など気を抜けばあっと言う間に過ぎ去ってしまいます。明日朝より剣術はここの庭を使わせて下さい。奥村先生と桜田さんに稽古相手をお願いしておきます」
「ところで、明日、薬を引き取るそうですが、どんなものが在るのか見せて貰いたい。茶にピンからキリがあるように薬も同じです。茶とは違い悪いものは売ってはいかんのです」
「質の良し悪しを確かめて頂けるのは有難いことです。明日、昼前には山形屋改め継志堂に運び込みますのでお願いします。その薬の引き取りのため、今日連れてまいりました三人を使いますのでご了承下さい」
「分かりました。明日から山形屋の者が戻る十五日までは扱っている物の薬効を覚える他、薬研など、道具の使い方を体得し、侮られないようにしてもらいます」
「先生、宜しくご指導のほどお願いします」
三人は額を畳に付けるほど下げた。

 仲明先生、これから継志堂に連れて行き、主となった益次郎さんに改めてこの三人と先生が店を使うことを伝えておきます。夕方にはこちらに戻しますので、奥様宜しくお願いします」
「はい、楽しみに待っていますよ」

 山倉屋屋敷内にある服部仲明宅を出た兵庫は山倉屋の木戸小屋から出て来た年寄に三人を引き合わせ今夕より、仲明先生の内弟子になったことを告げ、出入り時、支障無いよう頼んだ。
「個人の家に門番ではなく木戸番を置いているのですね」
「それだけ狙われるものが在るということですね」
「鐘巻様、山中様に助けられ狙う方に回らずに済みました」
「先程、仲明先生が“浪人の飢えた心を身をもって知ることは時として良いことだ”と申されました。飢えは尋常では起きない、盗む、殺すのなど狂気の行動をさる力を秘めています。しかしあまりにもその場しのぎの安易な行動で、金を使い果たせばまた飢えに襲われてしまいます。飢えが与えてくれる秘めた力を何に使うかが大事だと言ったのです」

Posted on 2014/06/17 Tue. 04:02 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学